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推しに没落させられたので仕返しする所存  作者: 佐野雪奈
第二章 悪役令嬢は飼い慣らしたい
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2.悪役令嬢目指します


「――――悪役令嬢を、目指そうと思うの」


 朝の清々しい空気の中、椅子が三脚に増えたテーブルを取り囲み、私は目の前のセシルに宣言した。


「⋯⋯うん? 悪役令嬢?」

「そう、悪役令嬢。聡明で気高く美しい悪の華」


 ゲームのエリアナは嫉妬に狂い、言いがかりをつけて人をいじめるキャラだったけれど、私がなりたいのはそんな小物じゃない。もっと、悪役ながらも気品があり美しい、そんな崇高な悪役令嬢。


「なんでいきなり悪役令嬢に?」

「昨日、セシルは言ったでしょう」

「?」




 昨日の夕食時、セシルはここカーナイド領の現在の状況を話してくれた。





 ◇◇◇





「今、カーナイド領周辺の魔物が活発化しているのは知っているよね」

「うん、それでヨルムさんたち傭兵さんがこの町に滞在しているのよね」


 傭兵さんたちが毎日町の外に出て、町に近づく魔物を退治してくれるおかげで、今もこの町は平和だ。


「古くから、魔物の活発化は魔王の封印が解かれる前触れとされていた。魔王が復活し、世界が荒れる前兆。で、現在ここに復活した魔王がいる」


 チラリと視線でマオくんを示すセシル。マオくんはあまり話に興味がないのか、むしゃむしゃとご飯を食べている。


 ⋯⋯これ、スプーンやフォークの使い方から教えないといけないわ。ご飯を全て手掴みで食べるのはお行儀が悪いわね。


「マオの話では、魔王が放つ瘴気で魔物が活発化するらしい。それで、今のマオからはその瘴気は放たれていない」

「そうなのね」

「わしは人間に早う存在に気づいて封印してもらう為に出してたんじゃが、今はその必要も無いからの」


 あ、ちゃんと聞いてた。

 瘴気か。前は出してて、今は出てないってことは⋯⋯。


「それってあの禍々しいオーラのこと?」

「うむ、エリアナは天才じゃな」

「え、そう? 照れるわね」


 いやー、マオくんに褒められちゃったわ。何故かセシルはこめかみ押さえたけど。


「⋯⋯それで、このままマオが瘴気を出さずにいてくれたら、魔物の活発化問題は片付くと思うんだ」

「なるほど!」


 そうすれば魔物も大人しくなって、平和になるわね!


「だから、マオが一番懐いてるエリアナにマオを飼い慣らして欲しいんだ。人間を襲わないように、瘴気を出さないように」

「飼い慣らす⋯⋯?」


 ペットみたいな言い方ね。本人目の前にいるけどそんな風に言っていいのかな。「エリアナになら飼われてもいいかのう」とかうっとりしながら言ってるからいいのかな。

 

「そのうち封印するから、それまでお願い」

「えっ、封印しちゃうの?!」


 無害だからそのまま置いてくれるかと思ってたのに! ⋯⋯せっかく仲良くなったのになぁ。


 しょんぼりとすると、マオくんが諭すような口調で優しい目を向けてくれる。


「⋯⋯エリアナ、そうしょんぼりとするでない。わしは人間とは違う生き物じゃからの、エリアナのように受け入れてくれる人間など滅多におらんのもわかっておる。こうなる運命なのじゃ。わしは封印されていた方が世界は平和じゃからの」

「マオくん、でも⋯⋯」


 マオくんは人間に害を与えたりしないのに、こうして一緒に生きていけるなら、共存する道を探してもいいのに。


「だから、わしは大人しく封印されるぞ。――――あと五十年後くらいに」

「エリアナが生きている間は居座るつもりか!!」

「セシルは鋭いのう」


 あっはっはっ、と笑ったマオくんにセシルはため息をついた。





 ◇◇◇




「――――つまりね、魔王を飼い慣らすって普通のモブや町娘じゃないでしょう? 魔王を躾けて、飼い慣らして、一緒に暮らして、それはもう悪役だと思うのよ。そんな悪役になれたら、いずれ私が征服することも夢じゃないと思って」

「征服? まさか、世界征服⋯⋯?!」


 混乱するセシルはそんなことを言ったけれど、私が世界征服をしたいはずがない。私が征服したいのは――――




「私は、この『家』を征服するわっ!」




 気合を入れて拳を握ると、セシルはガクッと

首を落とした。


「規模小さっ! せめて国にしようよ!」

「何を言っているのよ。他人に迷惑をかけるのはよくないわよ」

「正論っ!」



 私はこの家を征服する。マオくんにしっかり教育を施して、今は野獣みたいな振る舞いしかできないマオくんを紳士と呼ばれるように育てあげるわっ!

 そうして、今はセシルに翻弄されっぱなしな私だけど、いつかは私がセシルを翻弄して「エリアナには敵わないなぁ」と言わせるの。

 そうすれば私はこの家の頂点よ!!


「なんじゃそれっ、面白そう!」


 傍らで聞いていたマオくんが目を輝かせた。世界征服には興味無いが、お家征服には興味あるらしい。


「この計画にはマオくんの協力が必須よ。協力してくれる?」

「もちろんじゃ!」



 ふふ、先程のセシルのツッコミの混乱具合といい、この計画は上手くいくかもしれない。私がセシルを翻弄する日は近いわね。


「でも、悪役令嬢って⋯⋯」とセシルがブツブツと言っているので、「そうね」と頷く。


「セシルの言いたいことはわかるわ。私はもう没落した身。『令嬢』ではないものね」

「いや、そこじゃなくて⋯⋯」


 そう、私はもう『令嬢』ではない。でもね? 魔王を飼っているのが『悪役町娘』とか『悪役元令嬢』とかだと格好がつかないと思うのよ。


「これは私のポテンシャルを保つ為必要なのよ。誰にも迷惑かけないし、いいでしょう?」


 両手を組んでお願いポーズをとってみる。


「⋯⋯うん。エリアナの好きにすればいいと思う」


 十年来の付き合いのセシルは悟りを開いたような笑顔でそう言った。




「というわけで、まずはマオくんの教育とセシルへの仕返しを続行するわね!」

「え、仕返しは続行なんだ」

「当たり前でしょう。私はセシルを手のひらの上でコロコロしてやるんだから!」


 私は、今はセシルとヒロインが結ばれなくてよかったと思っているけれど、計画を潰され、平民に落とされたのは変わらない。この家を征服する為に、セシルには私の手のひらの上でコロコロ転がってもらうのだ。



 ビシイッとセシルを指さして宣言すれば、セシルはにっこりと笑顔を浮かべた。


「ふうん。エリアナが僕を翻弄してくれるんだ」


 セシルはそう言うと、立ち上がって私の横に来たと思ったら、耳に顔を寄せた。

 顔の近さに心臓がドキッとなる。


「――――楽しみにしているよ、悪役令嬢さん」

「みゃっ!」


 み、耳に息を吹きかけるように喋らないで!


 かぁっと赤くなった私を見てセシルは楽しそうにくつくつと笑った。


「⋯⋯セシルの意地悪」


 どう見ても私をからかって遊んでいるセシルに、頬を膨らませて不満を表す。


 もう! 絶対セシルを翻弄してみせるんだからね!




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