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推しに没落させられたので仕返しする所存  作者: 佐野雪奈
第一章 没落令嬢は仕返ししたい
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26.人の好みは千差万別


 今日は第二回傭兵さんたちの魔法の授業の日だ。


 前回同様、手を繋いで行った私とセシルに温かい視線を向けられ、私のネックレスを見てセシルが「やるな」と言われたりしていた。



「魔導人形は笑わせられるようになりましたか?」


 前回授業終了時の課題だ。魔導人形を「クケケッ」とだけ笑わせること。魔法の繊細な操作を行う上で重要なのだ。


「おう、見てろよ!」


 そう言って、ヨルムさんが人形を「クケケッ」と笑わせる。


「完璧ですねっ!」

「いや、エリアナさん、オレのキャサリンの方がいい感じに笑うっすよ」


 ヨルムさんを褒めたら張り合うように声をあげたのは、傭兵さんたちの中で一番小柄で歳下のサリバさんだ。サリバさんも魔女の人形を「クケケッ」と笑わせる。


「すごいです! ⋯⋯『キャサリン』ってなんですか?」


 まさかとは思うが、この気味が悪い魔女の姿の魔導人形のことだろうか。


「当然、この子のことっすよ! この愛くるしい(まなこ)に可愛い笑顔、まさに『キャサリン』って感じっすよね?」


 愛くるしい(まなこ)? あの赤く不気味に光る細い目のこと?


 可愛い笑顔? あの裂けたしわがれた口が開くこと?


「いや、俺のエリザベスの方が可愛く笑うからな!」

「俺のマリリンが一番⋯⋯」


 ⋯⋯?!

 他の傭兵さんたちも魔導人形に名前付けてるっ?!


 キャサリンとエリザベスとマリリンの誰が一番可愛いかを言い争い始めてしまった傭兵さんたち。


「⋯⋯もしかして、男性にはアレが可愛く見えるの?!」

 

 私には不気味にしか見えないが、男性から見たら可愛く見えるのだろうか。愛らしく笑っているように見えるのだろうか。


 どうしよう、ついていけない。


「エリアナ、世の中の男性に謝ろうか。アレが可愛く見えるのは奇特で特殊な人種だけだから」

「セシルもだいぶん失礼なことを言っているわよ?」


 セシルとヒソヒソと話していると、苦笑したヨルムさんが事情を説明してくれた。


「すまねぇ、嬢ちゃん。アイツら、苦労して苦労して初めて人形が笑った時に、すげぇ愛おしく見えたらしくて⋯⋯名前付けて可愛がり始めたんだ」

「気に入ってもらえてよかったです⋯⋯?」


「オレは名前付けてないからな」と何故か念押しするヨルムさん。


 なんだか妙な趣味に目覚めさせたみたいだ。まあ、本人たちがそれでいいのなら良いだろう。うん。私は悪くない。


「じゃあ、今日の授業を開始しますね」

「おう」

「頼むな」

「お願いしまっす」


 魔導人形は傭兵さんたちにプレゼントして、私は魔法の授業を進めることにした。





 傭兵さんたちと別れた帰り道、セシルに気になっていたことを聞いてみた。


「ねぇ、セシルは好みの女の子のタイプとかあるの?」

「⋯⋯なんで?」


 気のせいかな、セシルの瞳が一瞬揺れた気がする。


「今日の傭兵さんたちを見て、人の好みは千差万別だなと思って。やっぱり髪はピンクブロンドで、タレ目な感じの女の子が好み?」

「まさかとは思うけど、あの男爵令嬢のことを言ってる?」

「よくわかったわね」


 ヒロインであるソフィア様は、ピンクブロンドの髪にペリドット色の大きな目が可愛らしい女の子だ。

 やっぱりヒロインの見た目は好みだったりするのかと聞いてみたけれど、セシルにはため息をつかれた。


「⋯⋯僕はもう少し落ち着いた髪色が好きだし、可愛い系より綺麗系、だけど笑顔の可愛い女性。表情がコロコロ変わって、性格は優しくて、純粋で、たまにすっごく阿呆で、一緒にいて楽しい人がいいかな」


 やたらと具体的な例が来た。


 失恋を味わっているからか、見た目はヒロインに似ていない方が良いようだ。

 でも阿呆は悪口じゃないかしら? それでいいの?


「鈍感で猪突猛進で、余計なことをしでかしてくれる時もあるけど、でもいつも僕の幸せを願ってくれてる⋯⋯そんな人が僕を選んでくれたら、僕は一生をかけてその人を大切にするよ」


 セシルの翡翠色の瞳が真剣さを帯びて私を見つめる。


 ⋯⋯何かしら。『そんな人を探してくれ』っていう目線かしら。

 でもね、今聞いた限りかなり条件多いわよ。そんな人いるかしら。髪色くらいなら私も当てはまりそうなんだけど⋯⋯。


 それに、セシルへの気持ちを自覚した今は他の人にセシルを譲りたくないのよね。

 好きなタイプを聞いて、その理想に少しでも近づければと思ったけれど⋯⋯。


「あんまり理想ばっかり言っていると結婚できないわよ?」


 少し悩んだ結果、私はセシルの視線の意味には気づかないフリをすることにした。セシルの幸せだけを願えないなんて、私の性格はどんどん悪くなっている気がする。


 セシルはほんの少しだけ残念そうな顔をして、にっこりと微笑んだ。


「僕はエリアナと結婚しているからいいんだよ」


 そういえばそうだった。私たちは外聞的には完全に夫婦だった。


「⋯⋯じゃあ、私で我慢してくれる?」

「いいよ」


 私で我慢してくれるらしい。

 その言葉は、まるで私を選んでもらえたみたいで嬉しくて、少しでもセシルの理想の女性に近づきたいと思った。


 いつか、私を好きって言ってくれるように。





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