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推しに没落させられたので仕返しする所存  作者: 佐野雪奈
第一章 没落令嬢は仕返ししたい
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24.闇の祭典


「最近領主様がね、頑張ってくれているのよ」

「え? 領主様が?」


 私とセシルの噂があまりにもすぐに広まったので、「傭兵さんたち町の人と仲良くなったわね」とダリアに言ったらそう返ってきた。


「町を荒らすような素行の悪い傭兵は追い出して、逆によく貢献してくれている傭兵には補助金を出したらしいの。町に悪さをすると追い出されるから、素行のいい傭兵ばかりが残ったらしいよ。だから、町の人も今いる傭兵と仲良くなり始めたのよ」

「へぇ、そうなのね」


 一瞬、領主様自身が間に入って地道に傭兵と町民の仲を取り持っているとか陳腐な想像をしてしまった。ちゃんと領主様らしい仕事だったわ。


「他にも金策も頑張ってくれていて、あたしたちがピクニックの時に食べた木の実あるでしょう? あれの甘露煮やケーキを作って王都で出したら爆発的に売れたらしくて、今この領地はちょっと潤ってきているのよ。そのお陰で補助金が出せたのもあるわね」

「すごいのね」


 ピクニックで食べた木の実は、前世で言うと栗のような味の木の実だ。そういえば「前世でモンブランっていう栗のクリームを使ったケーキがあったわね」とセシルと話していたが、既に作られていたらしい。


 カーナイド領の領主って、ヘンリック様の義父にあたる人だが、もうかなり高齢のおじいちゃんだった記憶がある。老齢ながらも領地のことを考えて頑張っているのね。学院での授業があるはずなのに、ちょこちょこ帰ってきているヘンリック様も手伝っているのだろうか。


「町での傭兵の評判もよくなってきたから、あたしがヨルムと付き合っているのも認められるようになったの」

「本当っ! よかった!」


 ダリアがヨルムさんと交流しはじめた直後は、道行く人に「傭兵には近づかない方がいい」と反対されていた。ダリアはその度に「『傭兵』って一括りにしないで! ヨルムは優しい人だよ!」と弁解していたが、最近は温かく見守ってくれる人も増えたそうだ。


「両親はさすがにまだ認めてくれてはいないけれど、もし、ヨルムがずっとこの町にいてくれたら、駆け落ちもしなくて済むよね」

「ダリア⋯⋯」


 初対面から「駆け落ちの方法を教えて欲しいの」と言ってきたダリアだけど、本当はやっぱり駆け落ちは嫌で、ヨルムさんも家族も両方捨てられないのだ。


「ダリア、ご両親も認めてくれるまで頑張りましょう。駆け落ちしなくてヨルムさんと一緒にいられたらそれが一番よね」

「エリアナが言うとかなり重みがあるね」


 重みが出てしまった!

 経験者ぽかったかな?!


 ダリアが真剣な表情で頷いたので、私は「まぁね」と経験者のふりをしておいた。





「そうそう、今度の祝日に闇の祭典があるでしょう?」


 駆け落ちの話題はポロっとやらかしそうなので話題を変える。


「うん? そうだね。アークレーテッド様を称える祭典だよね?」


『闇の祭典』

 なんて言うと、悪の組織の集いのような気もするが、そうではない。闇の神を称えて夜に行うお祭りだから闇の祭典なのだ。


 この国の信仰では、主神は二人。

 男神アークレーテッドと女神メディーリアだ。


 はるか昔、魔王が大暴れし、国をも滅ぼした時代。アークレーテッドとメディーリアが力を合わせて魔王を封印した。

 

 男神は剣を振るい、闇の力の強固な盾で仲間を守った。

 女神は祈りを捧げて光の力の神の祝福をもたらした。

 二人で力を合わせて魔王に打ち勝ち封印を施した。


 二人は初代勇者と初代聖女として、この地の王と王妃になり国を治めたのだ。


 そんな男神を称えるお祭りが夏の夜に、女神を称えるお祭りが冬の昼に国中で催される。


 当然、ここカーナイド領でも祭りが催される。お祭りの日は、灯りの魔導具が煌々と夜を照らし、大通りにたくさんの屋台が並ぶそうだ。町の外や別の領地からも人が来たりする一大イベントだ。


「その祭典にセシルと一緒に行くことになったの。⋯⋯よかったら、私にお化粧の仕方を教えてくれない?」

「お化粧?」


 実は私、没落してからというもの、ほぼすっぴんで過ごしている。肌をクリームで整えたり、うっすら紅をつける程度だ。

 公爵令嬢時代は侍女が肌の手入れから化粧から完璧に仕上げてくれたので、私は自分で化粧をしたことがない。

 一応化粧道具は持ってきているが、上手くできる気がしなくてやっていないのだ。


 でもセシルが祭典に誘ってくれたのだ。せっかくだから、おめかしして参加したい。


 ⋯⋯あれだよ? 別にセシルへの気持ちを自覚したからとかじゃないからね? デートっぽいから気合いを入れようとかじゃないからね?


「なるほどね! 夫婦となっても女の気持ちを忘れないことも大切だよね」

「ち、違うからね!」


 勘違いしないでよね、セシルに可愛いって思われたいとかじゃないんだから! とダリアを窘めるが、おそらく顔が赤くなっているだろう私の言葉では説得力はなさそうだ。


 ダリアの家は、化粧等美容雑貨を扱うお店を経営しているらしい。ダリア自身も肌は綺麗だし、いつもナチュラルな化粧をしている。


 なのでダリアに化粧の仕方を教えてもらいたいと思ったのだ。


「もちろん、いいよ。せっかくだから、服も合わせて見に行こうか」


 にまーっと笑ったダリアに服と化粧の仕方を教えてもらった。





 ◇◇◇




 ――――闇の祭典当日。


「よし」


 何度も鏡を見てチェックする。


 新品の白のブラウスと赤チェックのスカートを着て、それからダリアに教えてもらったお化粧を施した。


 ダリアは夜でも映える化粧の仕方と、普段の化粧の仕方も教えてくれた。お化粧って、ただ色をのせればいいかと思っていた私はそんな違いがあることにも驚いた。


 何回か失敗しては顔を拭ってやり直したが、綺麗に仕上がったのではないかと思う。一緒に選んでもらった服も、可愛い且つ気合いの入りすぎに見えないように、お淑やかな物を選んだ。


 なかなか可愛い出来じゃないかな?


「エリアナ? そろそろ時間だけど、準備できた?」


 部屋のドアがノックされる。早めに準備を始めたはすだけど、結構時間が経っていたようだ。


「ごめんね、お待たせ」


 急いで部屋から出ると、セシルは少し固まって、それからふわりと微笑んだ。


「気にしないで。⋯⋯すごく、可愛いね。新しい服もエリアナによく似合っているし、化粧をしているからかいつもより大人っぽく見えるね。綺麗だよ」


 すごくストレートに褒められた。

 思っていた以上にたくさんの褒め言葉をくれて、嬉しいながらも照れてしまう。


「ありがとう⋯⋯ぶみゃ?!」


 お礼を言うと、何故か両頬をムニッと持ち上げられた。


 やめてー、お化粧崩れる!


 そのままむにむにと私の頬をこね回したセシルは何故か長い息を吐いた。


「可愛すぎるよ。⋯⋯出かけるのやめようかな」

「えっ」

「冗談だよ。でも、僕から離れないでね」


 私の頭を撫でて髪をひと房取ったセシルは、毛先に軽く口付けた。


 ぎゃー! 何するの?!

 セシルって女の子に軽くこんなことするキャラだったかな?!

 そういうのはチャラ男のヘンリック様の領域じゃないの?!


「あ」とか「う」とかしか発さずに硬直する私を見て目を細めたセシルは、「行こうか」と手を取った。





 灯りの魔導具で夜道が明るく照らされ、たくさんの人が通りを行き交う。いつもと違う夜の町の姿に私の気持ちはどんどん昂っていった。


「わぁ⋯⋯お祭りの日ってこんなに賑わうのね」

「今日はこの町以外に住んでいる領民や他の領地からも人が来ているからね」


 私がこの町に移り住んで数ヶ月、町の人とも仲良く会話するようになったし、あまり知らない人でも顔は見たことある人ばかりになっていたのだが、今日すれ違う人達は全く知らない人が多い。


 道の両脇に並ぶ屋台からはおいしそうな匂いや明るい客寄せの声が響いてくる。


「人が多いからね、はぐれないように気をつけてね」

「そうね。⋯⋯あっ! 演劇よ、見に行きましょう!」

「わっ、言ったそばから走らないで」




 町の中央広場では、舞台が設置されて演劇が催されていた。


「『魔王よ、もうお前に人を殺させはしない。俺たちは今ここでお前を倒す!』」

「『フハハハハ。やってみるといい、人間よ』」


 これは男神と女神が協力し、魔王を倒して封印を施す話で、この国では誰もが知っている英雄物語だ。


 夏の祭りは男神を称える祭典なので、男神の戦いの様子をメインに演じられている。



 魔法の属性の話を覚えているだろうか。


 男性特有の闇属性魔法と、女性特有の光属性魔法はこの魔王から人々を守る為に培った力だと言われている。


 闇属性魔法は全てを闇に包み込んで守る防御の力。

 光属性魔法は聖なる光で怪我や体力を回復させる癒しの力。


 両方とも何かを守るための力だが、それを合わせることで魔王や魔物の瘴気を取り払えるのだとか。


 だから、闇魔法と光魔法を使える人は特別で、それぞれ勇者候補、聖女候補としてみなされるそうだ。



「『うぎぁあ! 人間どもめ、覚えているがいい。我は何度でも蘇る! この報いを受けさせてやる!』」

「『何度蘇ったとしても同じだ! 俺たちがいなくなっていたとしても、俺たちの子孫が必ずお前を倒す、何度でも!』」


 演劇は進み、物語は終盤だ。殺陣を披露し、なんとか魔王に勝利した男神は、女神の癒しの力で復活する。そして、二人で魔王を封印する。

 平和になった世界で男神と女神が手を取り合って、愛を誓う。

 そうして演劇は幕を閉じた。


「魔王は――――⋯⋯」

「え? なんて?」


 セシルが難しい顔で何か呟いたが、人々から上がった盛大な歓声と拍手で掻き消されてしまった。


 なんでもない、と言うように首を横に振ったので、私も舞台で挨拶をする役者たちに拍手を贈り、魔王を封じて世界に平和が戻ったお祝いにみんなで魔除けのベルを鳴らした。






 ⋯⋯困った。


 舞台演劇を見たあとは、屋台を見ながらぶらぶらとお買い物をしていた私たちだけれど、いつの間にかセシルとはぐれてしまった。


 ⋯⋯まったく。十七にもなって迷子になるなんて、セシルにも困ったものね。きっと、おいしそうなお肉の匂いとかに惹かれたに違いないわ。


 うん。私も惹かれたもの。


 私は手にした二つのチキンサンドを見てため息をつく。これは焼きたてのチキンをレタスや焼き玉ねぎと一緒にほんのり焼いた食パンに挟んだものだ。

 チキンの焼けるおいしそうな匂いにつられて、つい購入してしまった。


 こういう時乙女ゲームのヒロインならば、攻略対象とはぐれた時にタイミング良くゴロツキとか酔っ払いに絡まれて、これまたタイミング良く攻略対象が助けに来てくれるのだろう。「僕の恋人に何か用ですか?」とか言って助けてくれて、恋人って言われたことにドキドキしたりするのだ。


 しかし、私は没落済みの悪役令嬢だ。そんなイベントは起きないだろう。ここは自力でセシルを探さなくてはならない。


「よし」


 気合いを入れて、私は人の行き交う通りへと足を進めた。



「ねぇ、一人? 一人なら一緒に遊ばない?」

「えっ」



 ⋯⋯ほら見なさい。私にそんなイベント起きないのよ。



 私は先程チキンサンドを買ったお店の近くで、数人の女の子に絡まれるセシルの姿を見つけた。

 

 




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