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推しに没落させられたので仕返しする所存  作者: 佐野雪奈
第一章 没落令嬢は仕返ししたい
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23.甘える?


『私、セシルに甘えます!』


 セシルへの気持ちを自覚し、ヘンリック様にそう宣言した私だけれど、気合を入れて家に帰った後にとんでもない事実に気がついた。


 私、異性への甘え方って知らない⋯⋯!!


 そういえば私は前世でも今世でも、彼氏いない歴=年齢。婚約者はいたことあるが、彼と甘い雰囲気になったことなど一度もなく、仕事のパートナーのような婚約だった。


 乙女ゲームでは攻略対象がひたすら甘やかしてくれるし、こちらから甘えに行くことってあんまりないのよね⋯⋯。

 そう考えると、私は勉強の為にギャルゲーをプレイしておくべきだったのか。男の人がどんな甘え方が好きかもわかるのに! 前世の私、何故ギャルゲーをやっておかなかったの⋯⋯!


 

「――――エリアナ? どうしたの?」

「ひゃわっ! セシル?! おかえり!!」


 前世の私に思いを馳せていたらセシルが目の前に現れて驚いた。いつも以上に心臓が跳ねた。


「⋯⋯ただいま。珍しいね、何か考え事?」

「うん。何故私はギャルゲーをやっておかなかったんだろうと思って」

「ぎゃるげー?」

「いろんな女の子にモテモテになるゲームよ」

「?! 女の子にモテモテになりたいの?!」


 何故乙女ゲーばかりやっていたの。私のバカバカっ⋯⋯ん? 女の子にモテモテ?


 ああ! そうよ! いるじゃん、女の子にモテモテな人!


 学院で多くの女の子を誑かしていたヘンリック様なら甘え方を知っているかもしれない。本当はシャイという彼だけど、女の子に甘えられたようなことも言っていたし、今度甘え方を聞いてみよう。よし。


「エリアナー? ⋯⋯ダメだ、聞いてない」

「今日の夕食はパスタよ!」

「うん⋯⋯ありがとう」







 夕食を食べ終わって、いつも通りリビングのソファーに座って本を読み始めたセシルにそっと近づく。


 異性への甘え方は今度ヘンリック様に聞くとしても、私はセシルに確認しておきたいことがある。


「エリアナ?」


 いつも通り、私が近づくと本を閉じて微笑んでくれるセシル。かっこいい。


「ね、セシル。聞きたいことがあるんだけど⋯⋯」

「ん? なぁに?」


 不思議そうに小首を傾げるセシル。可愛い。

 でもちょっと緊張してきた。


「あ、あのね、あの⋯⋯セシルに、触れてもいいかなっ?」


 言った!


 何を今さらと思われるかもしれないが、実は私、今世で初めてセシルに会った時に勢いで手を握り、二回目に会った時に可愛すぎて頭を撫でて、それ以降自分からセシルに触れたことはない。


 私の一方的な『推しと仲良くしたい』気持ちを優先させてしまって嫌な思いをさせるんじゃないかとも思うし、なんとなくこの素敵過ぎる推しに触れてはいけないような気がしていた。違う世界の人のような気がしていた。


 貴族だった時のパーティーも、ヒロインに遠慮してセシルと踊ったことはなかったし、卒業パーティーで断罪された後が十年ぶりに握るセシルの手だったと思う。あの時は没落したことで頭がいっぱいで、それを気にする余裕はなかったけれど。


 ここに来てから、私がドキドキに耐えられなくなるくらいセシルの方からたくさん触れてくれる。それで私もセシルって生きてるんだと実感しているわけなのだが。ただ、自分から触れるって勇気がいるから、出会った頃みたいに拒絶されないか、嫌な気持ちにさせないのか不安なのだ。


 だから、聞いてみた。


 セシルの反応はどうかなと、そっと見上げた。

 ⋯⋯彼はとても嬉しそうに笑ってくれていた。


「もちろんだよ。エリアナの好きなだけ触れて?」


 許可してくれたわっ!

 セシルはそのままのニコニコ笑顔で私を見つめるので、今触ってもいいのかなと思い、セシルの手の甲に浮き出る血管をちょんっと触ってみた。


 ピクッと手が動いたけれど、見上げたセシルは蕩けた笑顔だった。


 ⋯⋯もうちょっと、いいかな。


 自分の手を重ねて握り込む。


 手を繋いだこともあるから知ってはいたけれど、十年前と比べると大きくて、骨ばっていて、ちゃんと男の人の手になっている。


「エリアナ⋯⋯」


 そのまま両手で握りこんで、厚めの皮だけど滑らかなセシルの手を堪能していると、絞り出すように名前が呼ばれた。その翡翠色の目には何かが揺らめいているようで⋯⋯。


「あっ、ごめん⋯⋯痛かった?」


 優しく触っていたつもりだったけれど、痛かっただろうか。慌てて手を離すと、今度はセシルの手に私の手が掴まれた。


「ううん。痛くない。⋯⋯もっと、触って」


 懇願するようにそう言われて、またセシルに触れる。


 手に触れているだけだけれど、すごくドキドキする。胸がぎゅうっと苦しくなる。


 このまま手から私のドキドキが伝わってしまいそうで、何か喋って誤魔化そうと思い、口を開いた。


「あ、せっかくだから、マッサージしてもいい?」

「マッサージ?」

「手のひらマッサージよ」


 セシルの手のひらをヤワヤワと揉みこむ。手のひらはツボがたくさんあるから、適当に押してもたいてい気持ちいいのだと聞いたことがある。


「あ、気持ちいいね、これ」

「そうでしょう。いつもお仕事お疲れさま」

「ありがとう。僕も後でエリアナにやっていい?」

「うん。お願い」


 どうやら手のひらマッサージはとても喜んでもらえたようだが、私の心臓は既に破裂寸前な気がするので、甘えるなんてできるのだろうか。


 甘え方もわからないので、甘えてセシルを驚かせる仕返しはもう少しお預けなようだ。




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