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推しに没落させられたので仕返しする所存  作者: 佐野雪奈
第一章 没落令嬢は仕返ししたい
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むかしの話4 セシル視点


 エリアナとフィリップ殿下が婚約した日から、僕とエリアナは二人きりで会うことができなくなった。


 僕がエリアナの元に行くと使用人がついてくるのは当然として、エリアナの弟もついてきたり、エリアナの部屋で会うのは禁止されたりした。


 王子の婚約者の部屋に他の男が出入りするのはよくないのだろうが、エリアナとの大切な時間を邪魔されて、僕には不満しかなかった。




 今日は庭でティータイムだ。広大な庭は会話も聞こえにくいし、姿が見えている分誰かに介入されることも少なく、エリアナと内緒話ができる数少ない空間だ。


「ね、エリアナ。この前エリアナは『フィリップ殿下のルートでは⋯⋯』って言っていたよね。それって、僕の他にもヒロインと結ばれる人がいるってこと?」


 今回の失敗の原因は、僕がエリアナに相応しいように自分の立場を固めておかなかった事と、エリアナの取る行動を把握しておかなかった事だ。


 この世界の未来だという前世のゲーム。エリアナがそのゲーム通りに動くと言うのなら、僕はそれを知っておかなくてはならない。


「そうよ。攻略対象はセシルを含めて五人ね。王子とチャラ男と脳筋とクーデレと腹黒よ」


 ⋯⋯うん。僕はその中のどれかな?

 とにかく、『攻略対象』と呼ばれるヒロインと結ばれる可能性のある人が五人もいるらしい。


「じゃあ、ヒロインが誰を選ぶかはわからないってことだよね?」

「安心して! 私がセシル以外の攻略対象のイベントは阻止するわ! それにヒロインと仲良くなって、セシルをお勧めしておくから!」


 任せなさい、と拳を握るエリアナ。

 僕としては是非とも他の攻略対象にヒロインを押し付け⋯⋯お勧めして欲しいんだけど。


「『イベント』っていうのは?」

「ヒロインとの恋愛を進展させる為のイベントが何度か起きるのよ。これをこなして好感度を上げると結ばれるのが乙女ゲームなの」


 なるほど。じゃあ逆にそのイベントをこなさずに過ごせばゲームに巻き込まれることはないのかな?

 更に他の攻略対象のイベントを起こせば邪魔な⋯⋯多くの男性から求められるヒロインを誰かに押し付け⋯⋯誰かと結ばせることができるのか。


「それ、詳しく教えてよ」

「え、嫌よ。事前に知っていたら実際起きた時のときめきが半減するじゃない」

「大丈夫だよ。ヒロインは魅力的なんでしょう? ゲームの僕の気持ちはその程度なの?」

「そんなわけないわ! セシルは一途で執着心も強いのよ。⋯⋯そうね、セシルにも知ってもらった方が確実にイベントをこなせるわよね」

「そうだね」


 それから、エリアナはゲームの内容について詳しく教えてくれた。


 王立魔法学院は四年制なのだが、僕らが四年生の時にヒロインが一つ下の三年生に転入して来るそうだ。そして、それから僕らの卒業するまでの一年間がゲームの期間なのだとか。


 僕を含め攻略対象たちはヒロインと絆を深め、やがて愛し合うらしい。

 僕――――いや、セシルとヒロインは学院内の花壇で出会うらしい。髪に飾る花を探していると言うヒロインにセシルが花を見繕ってあげる。

 今まで煌びやかな宝石で飾り立てるのが貴族令嬢だと思っていたセシルはその少女に興味を示すようになる――――



「⋯⋯そういえば、エリアナの髪飾りは花の形を模したものが多いよね」

「ほぇっ?! あ、あの、えーっと⋯⋯少しでも、セシルに可愛いって思われたくて⋯⋯」

「⋯⋯」


 ⋯⋯なんで、エリアナは僕の婚約者じゃないんだろう。


 エリアナは花の形の髪飾りや生花で飾ることが多い。単純に「花が好きなのかな」と思っていた僕は思わぬ理由に顔が赤くなりそうなのを必死に冷ます。


 エリアナの方は既に真っ赤で、手でパタパタと顔を扇いでいる。


「と、とにかく! そのセシルとヒロインを見ていた私⋯⋯というか、悪役令嬢エリアナがヒロインに嫌がらせを開始するの」

「え? エリアナが嫌がらせを?」


 僕の目の前にいるエリアナは、素直で純粋で誰に対しても優しくって。可愛いイタズラならともかく、嫌がらせなんてするのは想像もつかない。


「うん⋯⋯。ゲームのエリアナはほとんどのルートで悪役令嬢として出てきて、最後には没落してしまうの」


 エリアナはしゅんと俯いた後に、強い意志を宿した目を僕に向ける。


「で、でもでも、私はそんなの嫌だから! そんなことになったらお父様や公爵家跡取りの弟にも迷惑がかかるし、それに⋯⋯」

「それに?」


 確かにエリアナが嫌がらせの主犯になり、それが公にされれば醜聞も広がり、公爵家の品位も権威も下がるだろう。


「⋯⋯セシルに、会えなくなっちゃうのは嫌だから」

「――――っ」


 本当に、どうして君は僕の婚約者じゃないの? 君もこんなに僕と一緒にいたいと言ってくれていて、僕も君と一緒にいるのが一番幸せなのに。


「⋯⋯フィリップ殿下も攻略対象なんだよね? 彼のルートではエリアナはどうなるの?」

「フィリップ殿下のルートでは、殿下とヒロインが絆を深めることで嫉妬に狂ったエリアナが嫌がらせをして、卒業パーティーで公開断罪と婚約破棄の上、身分を奪われ追放されるわね」

「⋯⋯なかなか酷いね」


 エリアナの悲惨な結末に眉をひそめるも、彼女はあっけらかんと言った。


「大丈夫よ。私は殿下のことは『攻略対象だ』くらいの認識しかないから嫉妬に狂うことはないし、嫌がらせも行う気はない。第一、ヒロインにはセシルを選んでもらうのだから、私に没落は待っていないのよ」


 エリアナはそのままフィリップ殿下と結婚し、僕とヒロインが結ばれたその後を近くで観察する予定なのだとか。


 ⋯⋯期待に目を輝かせているエリアナには悪いけれど、僕はヒロインと結ばれる気もなければ、君をフィリップ王子妃にするつもりもないからね。



 ――――エリアナとフィリップ殿下が婚約して、僕は考えた。


 どうやら僕は相手の幸せを願って身を引くなんて崇高な心は持ち合わせていないようで、エリアナを諦めるなんてできそうになかった。


 他の男とエリアナが結婚するだなんて考えるだけで嫉妬で胸が焼き切れそうだ。彼女が愛しくて愛しくてしょうがないのに、同時に憎くも感じた。


 僕が王様になっても僕とは結婚してくれないというエリアナ。僕のことは大好きだと言ってくれるくせに、僕をこんなに夢中にさせたくせに、他の男の元へ行こうとするエリアナ。



 ――――そんなの、絶対に許さないから。



 エリアナ、僕は決めたんだ。

 フィリップ殿下から君を奪ってみせる。君を僕だけしかいない場所に攫ってみせる。


 僕が君の元まで上がるんじゃない。君が僕の元まで落ちてくるんだ。君と殿下の婚約を解消させて、僕らは一緒に落ちるんだ。


 君の言うシナリオ通りの結末を作ったなら、君も僕と結婚してくれるだろう?



「私とセシルで大団円のハッピーエンドを目指すわよ!」

「そうだね。頑張ろうか」



 君を僕の元へ落とすために、ね。





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