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推しに没落させられたので仕返しする所存  作者: 佐野雪奈
第一章 没落令嬢は仕返ししたい
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11.出会いイベントを発生させましょう


 翌朝。

 私とダリアは、ダリアの想い人である傭兵の彼が宿泊している宿屋を見張っている。

 

「ね、ねぇ、エリアナ。本当に大丈夫?」

「大丈夫よダリア、自信を持って! 全力でぶつかるのよ!」

 

「わわわ、わかったよ」と言うダリアは緊張で体が強ばっている。私と話す時のダリアは元気はつらつとしているのだが、彼の前に出ると緊張で体が強ばり、何も話せなくなるそうだ。

 

「⋯⋯何に全力でぶつかるんだい?」

「もちろんダリアが彼に⋯⋯って、セシル?!」

 

 いつの間にっ?!

 私は今朝、この作戦を決行するために早起きし、テーブルの上に「ちょっと出かけてきます」との書き置きだけ残してきたのに、どうして私の居場所がわかったの?!

 

「昨日からエリアナの様子がおかしかったからね。何か面白そうな予感がして後をつけてきたんだ。僕の可愛い奥さんは今度は何を始めたの?」

 

 なんと。既にセシルにはバレバレだったみたい。でも『僕の可愛い奥さん』って⋯⋯!

 外ではそういう設定なのはわかってるけど、セシルの甘い微笑みとか、親しげに肩を抱いてくるのとか、慣れない⋯⋯!

 

 そんな私たちのやり取りにダリアは「あ、駆け落ちの男の子。さすが駆け落ち、ラブラブだね」と頷いていた。

 どうやらちゃんと夫婦に見えているようね。

 

「もう! ついてくるのは良いけれど、邪魔はしないでちょうだい」

「心外だなぁ。僕はエリアナの邪魔をしたことなんてないでしょう?」

「貴方は一週間前の記憶も無くしてしまったの?」

 

 私の完璧な大団円計画を潰したのは誰だと睨みつけるが、セシルは楽しそうに笑っただけだった。

 

「それで? エリアナの作戦は?」

「ふふっ、聞いて驚きなさい」

 

 悪役令嬢風にバサッと髪をかきあげ、腰に手を当てる。


 今日の作戦はこうだ。

 

 ダリアと想い人の彼は会話も交わしたことはない。つまり、まだ知り合っていないも同然。なのでまずは王道の出会いイベントを発生させるのよ!

 

 作戦名は『遅刻遅刻〜、きゃっ、ぶつかっちゃった。あれ? もしかして運命の人? 大作戦』!!

 

 作戦名からわかるように、朝の遅刻寸前に曲がり角で彼とぶつかり、運命を感じさせる出会いイベントを発生させる。

 

「というわけで、全力でぶつかりなさい。ダリア」

「わかった! ⋯⋯でもこのパンは本当に必要なのかな?」

「必須アイテムよっ!」

 

 この作戦には口にくわえたパンは必須だ。無いと遅刻感が伝わらないし、これが無くて運命を感じなかったらどうするのか。

 

 ダリアを鼓舞していると、セシルは何故か両手で顔を覆って小刻みに震え始めた。

 

「⋯⋯どうしたの、セシル? 私の崇高な作戦に感動しているの?」

 

 セシルから返答はなかったが、こくこくと頷いてはいたので、どうやら感動で声も出ないようだ。元々考えたのは私ではないので、そこまで感動されると少し罪悪感を感じる。

 

 まぁ、そんな感動で声も出ないセシルも珍しいので、私の中の『最推しセシルの表情図鑑』に新たなページを刻む。今日もセシルは尊いわね。

 

 そうして待ち構えているうちに、宿屋の中からぽつぽつと人が出てきはじめた。

 

「ダリアの想い人の彼はどんな人なの?」

「彼は⋯⋯黒髪の短髪で、体付きはがっしりとしていて、精悍な顔つきをしていて、右目の上に傷があるの。⋯⋯あっ、出てきた!」

 

 ダリアがポッと頬を赤らめる。あの彼がダリアの想い人ね。

 確かに、黒髪短髪で、体付きはがっしりしていて、精悍な顔つき⋯⋯というか、目元も眉毛も吊り上がっていて、口角は逆にすごく下がっている。え? 怒ってる⋯⋯わけじゃないのよね? 彼の右目の上の傷もあり、かなり強面な雰囲気なのだが。


 セシルのような中性的な美しい顔立ちが好きな私は、あの彼と夜道で会ったら全力で逃げると思うのだが、ダリアはうっとりと彼を見つめる。


「ダ、ダリア! ボーッとしている場合じゃないわ。作戦開始よ!」

「はっ、そ、そうだね! 行ってくるね!」

 

 パンを口にくわえたダリアはタッと駆け出した。

 さぁ、想い人の彼に全力でぶつかって―――――

 

「ち、遅刻、ちこ――――きゃっ!」

「ヨルムー、今日はどこから⋯⋯ん?」

 

 ドンッと音がして、ダリアはぶつかった。⋯⋯宿屋から出てきた小太りの別の人に。

 

 ズザーーーと音がするほど地面を滑ったダリアは、停止してもしばらく動かなかった。


「⋯⋯」

「⋯⋯」


 ヤ、ヤバい。転んだ時のこと考えてなかったわ。小太り+ガタイのいい人に全力でぶつかったから、吹っ飛ばされたようだ。ものすごく痛そうだ。

 

「ダ、ダリ――――」

 

 ダリアの元へ駆け寄ろうとすると、セシルに手首を掴んで止められた。それから口元に人差し指を立てて、ダリアの方を指差すのでそちらを向く。

 

「だ、大丈夫かっ? 嬢ちゃん!」

「すまねぇっ」

 

 ヨルムと呼ばれたダリアの想い人の彼と、ダリアがぶつかった小太りな人は動かないダリアに心配そうに駆け寄った。

 

「うわ、こりゃひでぇ。おい、傷口を洗い流す為の水と包帯持ってきてくれ」

「おう、わかった」

 

 ヨルムさんは小太りな人に指示を出すと、ダリアの傷の確認をする。

 

「あ、あの⋯⋯あたしは大丈夫だから⋯⋯」

 

 たぶんいろんな意味で顔を真っ赤にしたダリアがか細い声で言うと、ヨルムさんは大きな声で否定する。

 

「大丈夫なわけねぇだろうが。嫁入り前の娘が身体に傷作っちゃいけねぇ。オレらが悪いんだ。これくらいさせてくれ」

「でも⋯⋯」

 

 そう言っている間にも、小太りの人が持ってきた水でダリアの傷口が洗い流され、包帯をぐるぐると巻かれていた。図体は大きいのに、その丁寧さに感動をおぼえる。

 

「よし、できた。まだ痛い所あったら遠慮せずに言えよな。嬢ちゃん」

「あ、ありがとう⋯⋯。あの、あたしの名前はダリアっていうの」

「そうか。オレはヨルムだ。よろしくなダリア!」

 

 ニッとヨルムさんが笑う。強面な顔だけど、そのくしゃっと笑う笑顔はなんだか可愛さも感じてちょっと胸がきゅんとした。


「これが『ギャップ萌え』⋯⋯!!」

「⋯⋯エリアナ?」

「なるほど。ダリアはこの『ギャップ萌え』に惹かれたのね。わかるわ⋯⋯!」

「エリアナ?!」


 ダリアが「じゃあ、また会ってくれる⋯⋯?」という可愛らしい約束を取り付けた後、背を向けたダリアにヨルムさんが呼びかけた。


「ダリアっ! ⋯⋯パン、落としたぞ」

「ヨルム⋯⋯! ありがとう」


 やっぱりパンは必須アイテムだったわね。




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