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推しに没落させられたので仕返しする所存  作者: 佐野雪奈
第一章 没落令嬢は仕返ししたい
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10.恋愛指南依頼


 今日もセシルは仕事に行った。私は魔法で掃除と洗濯を済ませると、買い物に出かけた。

 

 ⋯⋯うーん。昨日の仕返しは失敗したのか成功したのかいまいちわからなかったわね。驚いてはくれたけれど、思ってたのと違ったし。あんな風に青ざめさせて心配させるのはよくないわよね。私の仕返し論に反する。

 

「あっ、いた! 駆け落ちの女の子!」

 

 とりあえず洗濯と掃除に関しては無理のない範囲でお願いと言われたし、料理は本でも買って勉強しようかしら。おいしいって驚かせるのはまだ後になりそうね。

 

「おーい! 駆け落ちの子!」

 

 他に何かいい仕返しはないかしら。セシルが驚くか、ほんのちょっと困るような、そんな仕返し。

 

「ちょっとー、聞いてー、気づいてー」

 

 もう、さっきからうるさいなぁ。私は今考えてるのーって⋯⋯

 

「⋯⋯誰?」

「あっ、やっと気づいてくれたっ?」

 

 いつの間にそこにいたのか、目の前の赤毛の女の子は何故か仁王立ちをしてニッコリと笑った。




「あたしは、ダリア。今町中で話題の駆け落ちの女の子に相談があるんだ!」

「エリアナよ。その呼び方はしないで、ダリア」

 

 ダリアは随分と元気な印象の女の子。年齢は私と同じくらいだろうか、癖のある赤毛を後ろで高くひとつに結び、身長は小さめで小柄。この町の女性はあまり化粧をしない人が多いと思っていたので、薄く施された化粧が印象的だった。

 

「じゃあ、エリアナ。⋯⋯あたしに駆け落ちの方法を教えて欲しいの!」

 

 ダリアは両手を目の前で組んでお願いポーズをしてきた。

 

 ⋯⋯うわー。それ、私が教えられないやつ。








 とりあえず話を聞かせてもらおうと、私とダリアは町の喫茶店に入った。


 個人経営の小さな小さな喫茶店。こういう所って、お客は常連客ばかりで新規の私とかはちょっと行きにくかったのよね。

 

 ダリアと一緒に来たので次からは来れそうだと小さな収穫に心の中で頷いていると、ダリアは喫茶店のオーナーに「いい? 今からする話は絶対誰にも言わないでね!」と念を押していた。

 ダンディな雰囲気のオーナーも「わかった、わかった」と苦笑いで答える。


 ダリアが言うには、こうしてちゃんと口止めしておかないと、この小さな町では瞬く間に噂が広がるそうだ。

 

 あー、うん。わかるわ。私もいつの間にか全く知らない人から「駆け落ちの女の子」って呼ばれるからね。こうしてなんか付き合わされてるからね。




「それで、ダリア。貴女は駆け落ちをしたいの?」

 

 早速本題を切り出すと、カウンターの中のオーナーが「ゲホッ」と咳き込んだ。


 ⋯⋯言いふらしはしないけれど、聞いてはいるのね。まぁ小さな店だし、今は他にお客さんもいないから必然的に聞こえるんだろうけど。

 

「そうなんだよね! あたしは彼のことが好きなんだけど、彼はこの町の住人じゃなくて、親にも反対されてるんだ。⋯⋯彼の仕事も安定した仕事とは言えないから」

「仕事?」

「うん。彼は傭兵なんだよね。今は仕事でこの町に来てるけど、そのうちいなくなっちゃうでしょう? だから、あたしは彼と一緒に行きたいなって」

「傭兵なんてこの町にいたのね」

 

 争いとかには無縁そうな長閑で平和な町のイメージだったので、傭兵がいることに驚いた。

 

「そっか、エリアナはこの町に来たばかりだから知らないんだね。最近、この近辺の魔物が活発化してきているから、傭兵が雇われているんだよ。隣の領地なんかはお金も人手もあるから自領の騎士団が退治してるみたいなんだけれど、うちのカーナイド領はお金も人手もないから、傭兵が雇われているんだ」


 へぇ。全然知らなかったわ。そういえば、装備を身に付けたガタイのいい人も町を歩いていた気もしてきたわ。


 この世界では魔物が出る。

 それらを人に害を及ぼさない程度に退治するのは領地の騎士の仕事の一つなのだが、田舎の領地では騎士の数が足りなくて傭兵を雇う所もあるらしい。

 

「彼はなんて言っているの?」

 

 ダリアは彼について行きたいみたいだけど、彼の気持ちも大切だと思う。駆け落ちは二人で協力しないとできないと思うから。

 ⋯⋯私は駆け落ちじゃないから想像だけど!

 

「彼とは⋯⋯話したことはないんだよね」

「あら。じゃあまずはお互いの気持ちを話し合ってみないと。もしかしたら、このまま彼が町に残ってくれるかもしれないじゃない」

 

 長いこと一緒にいると思っていても意外と知らないこともあるのだと、私は昨日と今朝のセシルとのやり取りで知った。こういう大事なことはよく話しておく方が良いと思う。

 

「だって⋯⋯恥ずかしくて。とても声なんてかけられないっていうか⋯⋯」

「⋯⋯ん?」

 

 ポッと頬を赤らめ、もじもじとするダリア。

 

「彼が傭兵仲間たちと笑いあっているのを見るだけで、もう胸がいっぱいで⋯⋯。あっ、一度だけ、あたしの落としたハンカチを拾ってくれた事があって、あの時はお礼も言わずに逃げちゃったんだけど⋯⋯」


 ⋯⋯んん?


「え、待って。ダリアと彼は恋人同士なんじゃ⋯⋯?」

「恋人だなんてっ! そりゃあね、そうなりたいなっとは思ってるけどね?」

 

「もー! 何を言わせるのっ」と赤毛のポニーテールをブンブンと揺らすダリア。

 

 ⋯⋯。

 

「つまりダリアは、『彼と仲良くなりたいんだけど、どうすればいいの』って私に聞いているのかしら?」

「まあ、まずはそこからだね!」

 

 そこからだった⋯⋯!!

 なんだ、てっきり恋人同士で駆け落ちする予定で私に相談に来てるんだと思ったわよ!!

 そんな恋愛玄人になったことないからどうしようかと思ってたわ!

 

 でも、この相談内容なら私にもどうにかできるかもしれない。実際の恋愛はやったことないけれど、乙女ゲームで散々攻略対象と仲良くなってきた私だ。出会いイベントから恋愛ルートに移行するまでの選択肢ならだいたいわかる。

 

「ダリア」

「何?」

「このエリアナに大船に乗った気持ちでドーンと任せなさい!」

「さすがエリアナっ! 頼りにしてるね!」

 

 うふふ、と笑い合い握手を交わす私たちを、ダンディなオーナーはハラハラとしながら見ていたらしい。




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