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推しに没落させられたので仕返しする所存  作者: 佐野雪奈
第三章 公爵令嬢は仕返ししたい
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24.あれから


「⋯⋯ん。⋯⋯あれ?」


 気づけば私はベッドに寝かされていた。部屋の作りからしてここは王城の客室の一つだろうか。


 慣れない魔法を使ったからか、倦怠感がすごい。意識ははっきりしているが、体を動かす気力が湧かない。


 ⋯⋯えっと、何があったんだったかな。

 浄化魔法を使って、ヴェグデルが灰になった所までは覚えている。けれど、その後の記憶が無い。


 いつ倒れたのだろう⋯⋯わぁ。


 首を横に倒せば、ベッドサイドの椅子に腰掛けてうたた寝をするセシルがいた。


 寝顔も見たことがあるけれど、うたた寝はうたた寝で別の尊さがある。


 サイドテーブルに肘をついて頬杖をついている姿は『え、なんなの、芸術的な彫刻なの?』ってくらい美しい。

 今は夕方なのだろう、窓から差し込む茜色の光がセシルの顔を照らす。長いまつ毛に影が落ちて、揺れる陰影が儚げで、今この世界を壊してはいけない気がしてくる。


 あの後どうなったのだろうとか、私の体がかなりだるいのは何でとか、そんな事よりもこの推しのレアな姿を私の目に焼き付けなければならないと思う。




 ⋯⋯。



 ⋯⋯⋯⋯。



「⋯⋯ん」


 穴があくほど見つめたからか、ただ単に時間が経ったからなのか、セシルが目を覚ました。


「⋯⋯エリアナ?」


 ⋯⋯はうっ。まだぼんやりしたセシルから最初に紡がれるのが私の名前とか超幸せ。


「おはよう、セシル」


 起き上がろうとしたのだが、体に力が入らなかったので首だけ向けたまま挨拶をする。


 朝ではないみたいだが、私も寝ていてセシルも寝ていたんだから、おはようでいいわよね。


「おはよ⋯⋯。あっ⋯⋯エリアナ、体は大丈夫?!」


 とろんと挨拶を返してくれたセシルだったけれど、何かを思い出したのか、私の額に手を当てた。


「顔は赤いけど、熱がある感じじゃないね」


 顔が赤いのは大好きなセシルに見とれていたからね。


「体はちょっとだるいけれど、大丈夫よ」


 正直、起き上がるのもちょっと辛いくらいのだるさなのだが、意識はハッキリしているし、体が熱いとか頭が痛いとかも無い。


「強い魔法を使ったからだと思うんだ。エリアナは魔力や属性は多いけど、強い魔法は苦手だから。⋯⋯ごめんね、無理させて」


 どうやら浄化魔法の弊害らしい。確かにセシルの闇魔法の大きさに合わせて私の光魔法も引き出されていた感じだったから、体に負担がかかったのかもしれない。


「大丈夫よ。少し休めば回復するわ。それよりも、セシルは平気?」


 慣れない魔法を使ったのはセシルも同じだ。うたた寝していたことといい、彼も負担が無かったわけではないのだろう。


「エリアナやマオ程じゃないよ」

「マオくん⋯⋯? マオくんに何かあったの?!」


 ヴェグデルのことで精神的にダメージを受けているはずのマオくんだ。マオくんの身に何かあったのかと起き上がろうとすると、セシルに優しく止められた。


「少し眠っているみたい。魔族の体のことはよくわからないけれど、辛そうな顔もしていないし、きっと大丈夫だよ」


 そう言って反対側を指さすのでそちらを向くと、マオくんが眠っているのが見えた。確かに、普通に寝ているだけに見える。


「そう⋯⋯よかった」

「たぶん、浄化魔法で弱ったんじゃないかな。その上で魔法も使っていたしね。だから、そのうち起きるよ」

「⋯⋯あ」


 そうだった! 浄化魔法の結界の中にマオくんも入っていたじゃない!

 魔族のマオくんはヴェグデルと同じく弱るじゃないの! しまった!


 ああ⋯⋯と一人反省会をしていると「あの後ね⋯⋯」と私が倒れた後のことを話してくれた。


「バルツ教団は全員捕らえたし、招待客に被害は無かったよ。ただね、僕とエリアナが皆の前で浄化魔法使ったから、今代の勇者と聖女は僕とエリアナだと認知されたよ」

「え?」


 勇者と聖女?

 魔王を封印するあの二人?

 私とセシルが?


「そして、次期国王には僕が指名されることが決まった」

「⋯⋯ん?」


 セシルが次期国王?

 あれ? フィリップ殿下とソフィア様は?


「エリアナは次期王妃が決まったようなものだけど⋯⋯逃げちゃダメだからね?」

「王妃?!」


 そういえば、ヴェグデルの元に行く前にそんなことを言っていた。

 いつの間に私が王妃になることに?! 浄化魔法使ったから?!


「皆の前で醜態を晒したフィリップはこれからどうするのかまだわからないけれど、このままというのは難しいかもしれないね」


 あのバルツ教団の企みは、フィリップ殿下の成果をあげる場で、その為のお膳立ても完璧だった。なのに結果は惨敗、成果を残せなかったのだ。


「そうなのね⋯⋯。ヒロインと結ばれた人は幸せになると思っていたけれど、そうじゃないのね」


 ゲームでは、ハッピーエンドはみんな『ふたりは幸せに暮らしました』で終わると思っていた。だからこそセシルに幸せになって欲しい私は、セシルとヒロインをくっつけようとしたわけだが。


 ここはゲームと同じ世界観だけど似て非なる世界だったのかしら。


「エリアナが気にすることはないよ。これがあの子の望みだったんだから」

「⋯⋯どういうこと?」


 あの子って、ソフィア様のことかしら?

 この結末が、ソフィア様の望み?


 意味がわからなくて首を傾げると、柔らかく目を細めたセシルが頭を撫でてくれた。


「そうだね⋯⋯。ちょうどいい機会だし、エリアナには僕から離れるなんて考えられないように、僕がいつから、どれだけ君のことを愛しているのか聞かせてあげるね」

「ん? あれ? ソフィア様の話じゃなかった?」


 なんだか笑顔が腹黒いわ、セシル!

 そして逃げたくても体がだるくて動けないわ! 知ってて今語り始めるのかもしれないわね。


「うん。大丈夫、彼女も出てくるから。⋯⋯そうだね、まずは君と僕の出会った七歳の時から話そうかな」

「かなり遡るわね」



 そしてセシルは話し始めた。私たちの出会いから、彼がどう思って今まで生きてきたのかを――――







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