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推しに没落させられたので仕返しする所存  作者: 佐野雪奈
第一章 没落令嬢は仕返ししたい
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1.仕返しをします


「――――仕返しを、しようと思うの」


 ここは、アルフィアスト王国の西の端に位置するカーナイド領。王都から遠く離れたこの領地は、険しい山々や農作地がほとんどの長閑な領地である。

 この長閑な町にある木造二階建てのごくごく平凡な一軒家に、目の前の男と同居を始めたのは昨日のことだ。


 目の前の男――――セシルは、端正な顔立ちの中の透き通るような翡翠色の目を瞬かせた。


「⋯⋯仕返し?」

「そう、仕返し。私をこんな所に追いやったヤツに」


 私――――エリアナは由緒正しき公爵家の娘だった。

 幼い頃から蝶よ花よと大切に育てられてきた。この国の第一王子の婚約者にまでなっていた私の人生は、順調の一言だった。


 それが、ある人物により覆され、追い落とされ、こんな小さな家に平民として暮らすことになったのだ。


 私は、その人物に仕返しをしたい。



「でもね、僕たちは今は平民へと成り下がったわけだし、天下の王子殿下に復讐は難しいんじゃない?」

「相手は王子殿下じゃない。それと、復讐じゃない。仕返し」


 そのニュアンスは大切だ。私はその人物に不幸になって欲しいんじゃない。腹いせにちょっとやり返したいだけ。


「そうなんだ⋯⋯? じゃあ、あの男爵令嬢?」

「違う」


「えー? じゃあ誰に仕返ししたいんだい?」と言う彼は、本気で私の仕返し相手がわからないというのか。


 私が仕返しをしたいのは、私が嫌がらせを行ったという被害妄想で私の婚約者に取り入った男爵令嬢でも、その男爵令嬢の言うことを鵜呑みにして、婚約者の私を公開断罪のあげく婚約破棄した元婚約者の王子殿下でもない。


 私が仕返しをしたいのは――――


「貴方に決まっているでしょうが! セシル・エディローズ!」

「えっ、僕?」

 

 心底驚いたように目を丸くするセシルはエディローズ男爵家長男――――いや、ここは『元』と言っておこうか。

 元エディローズ男爵家長男のセシルと、元公爵家令嬢の私、エリアナは幼馴染みだ。

 

 父親同士が仲が良く、幼い頃から一緒に過ごすことが多かった。

 よく一緒に遊んだし、一緒に勉強したり、イタズラをやって一緒に怒られたり。私たちは仲が良いと思っていた。少なくとも、私は。

 

 だから、王立魔法学院であんな裏切りを受けるなんて思ってもいなかった。

 

「僕、エリアナに恨まれるようなことした憶えないけどなぁ?」

「嘘おっしゃい。自分の胸に手を当ててよーく考えてみなさいな」

 

「うん」と胸に手を当てて目を瞑るセシル。⋯⋯素直でちょっと可愛いわね。


 じゃない!

 

「じゃあまず、私たちが出会った七歳から思い出すのよ」 

「えっ、そこまで遡るんだ」 

「黙らっしゃい」

「はい」

 




 ◇◇◇




 ――――十年前。


「初めまして、セシル・エディローズと申します」

 

 そう言って柔らかそうな金髪にクリっとした大きな翡翠色の目をした一見少女と見まごうような美貌の少年は、ニコッと笑って頭を下げた。

 

 その美少年を見た瞬間、私の頭上に雷が落ちた。⋯⋯実際落ちたわけじゃないけれど、それくらいの衝撃があったということだ。

 

 私、エリアナ・レクサルティは前世の記憶を思い出した。


 前世は日本という国で生きていて、オタク街道まっしぐらの非リア充な日々を過ごし、若くして事故により他界した。

 

『他界』とは上手いこと言ったもので、私が今いる世界は、前世ではフィクションでしかなかった魔法が存在する世界。中世ヨーロッパ風の現代日本では異世界と呼ばれる場所に転生した訳だ。

 私は、目の前に存在するこの少年、それから私の名前、それらを併せてひとつの結論に辿り着いた。

 

 ここは、前世で私がハマっていた乙女ゲームの世界だ。

 

 男爵令嬢であるヒロインが、王子を初めとした攻略対象たちと恋に落ちる乙女ゲーム。よくある転生もののように私は悪役令嬢に転生してしまったようだが、今はそんな事はどうでもいい。


 だって⋯⋯

 

 目の前のセシル・エディローズは攻略対象の一人で――――私の最推しなのだ。


 ゲームの立ち絵を見た瞬間一目惚れし、声を聞いて打ち震え、愛を囁かれ悶え苦しんだ、あのセシル様だ。


 オタク心でセシル様に貢いだ金額は計り知れない。ゲームのファンブックから始まり、細々としたグッズまで。

 公式の策略とはわかっているが、中身の見えないキーホルダー等は箱買いしてセシル様を確実に手に入れたし、クジもセシル様が出るまで引き続けた。


 そんなセシル様中毒の私に神様はご褒美をくださったのですね。ありがとう、神様!



 ドクンドクンと心臓が高鳴る。

 最推しセシル様の子ども時代。柔らかそうな金髪はゲームと同じだが、まだ丸みのある輪郭に大きな瞳。声変わりのしていない高めの声。

 この世界中の可愛いを詰め込んだ少年が、あの高貴と優雅と尊みの最高峰の男性に成長すると思うだけで、もう胸がいっぱいだ。


「あの⋯⋯?」


 私から返事が無いせいでセシル様が不安げな顔をした。


 ⋯⋯そ、その表情も素敵っ!


 セシル様は成長すると貼り付けたような笑顔がデフォルトになる。その笑みもまた素敵なのだが、この頃はまだ素直に顔に出るようだ。


 ⋯⋯なんて可愛らしいの。

 

 っと、違う違う。早く返事をしないと。前世の記憶を思い出した事と、最推しのセシル様が目の前にいた事で完全に固まってしまっていた。


 えっと、そうね。まずは名前を名乗らないとね。第一印象は大切よね。名前を名乗って淑女の礼をするの。


 前世の記憶を取り戻したものの、私は公爵令嬢エリアナ・レクサルティ。普段からお母様に叩き込まれている優雅さを忘れてはいない。



 私はセシル様の手を両手で握ると、ゲームで液晶越しに見るより断然美しい翡翠色の目を見つめた。

 

「セシル様、好きです。大好きです」

「⋯⋯。⋯⋯え? えぇっ?!」

 

 あ、間違えた。でも、その赤くなって狼狽える表情も素敵です。セシル様。





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