優しさの向こう側
時々、こんなピュアでナイーブな気持ちが蘇ります。
あなたは優しい。
何かした訳じゃないのに、あなたは僕に声を掛けてくれる。
僕が声をかけると、あなたは笑顔で返してくれる。
嬉しい。
何の取り柄の無い僕を。
何の繋がりも無い僕を。
あなたは笑顔で受け入れてくれる。
でも。
怖い。
その笑顔の向こうには、一体何があるの?
あなたは何も無いって言うけれど、本当?
僕は知ってる。
優しさだけで出来た人なんて、居ない事を。
直接見た訳じゃない。
でも。あなたにだってきっと、あるはずなんだ。
優しく無い時が。優しくない顔が。
だとしたら。
どうしてあなたは、僕に優しくするの?
どうして僕を、優しくする対象に選んだの?
自分の為?
僕に優しくすると、あなたに良い事があるから?
あるいは、それを期待してるから?
だとしたら、それは少し寂しい。
でも。
それは信じられる。
だって、僕に優しくするのがあなたの為だから。
僕の為、なんて理解出来ない理由じゃないから。
逆に。
もし、僕の為だと言うのなら。
そうだとしたら、とても嬉しい。
でも。
僕はあなたを、疑う事になる。
優しさの向こう側にある、別の思惑の存在を。
優しさの隣にある、対の感情の存在を。
あなたが僕に優しくする理由は、どっちだろう。
自分の為なのか、僕の為なのか。
聞きたい。
でも。
聞けない。
だって、優しいあなたを失いたくないから。
本当は自分の為なんでしょう、なんて言ったら、あなたはきっと傷付くから。
あなたの心が、きっと離れていくから。
だって、あなたを悩ませたくないから。
あなたが自身の優しさで悩むかもしれないから。
あなたが嫌な思いをするぐらいなら、僕が少し我慢していた方が楽だから。
だって、あなたを優しい人だと思いたいから。
あなたを無感情な目で、見たくないから。
でも。
仮に自分の為だったとしても。
あなたは僕の為だって、そう答えるんだと思う。
だって、あなたは優しいから。
君の為じゃなくて自分の為なんだ、なんて答えたら、僕が傷付くのを知っているから。
僕の心が離れていくと思っているから。
優しさという名の、白くて柔らかい雲に包まれたあなたの本音は、僕には見えない。
優しさの向こう側にあるあなたの気持ちを、僕は見たい。
あなたの気持ちを盗み見たい。
でも、人の心を見るなんて出来ない。
そんな事は、妖怪じゃないと出来ないから。
だから僕は、僕にとって都合の良い答えを作り上げる。
あなたは僕に優しくて。
優しくない時も、頑張って優しくしようとしているのだと。
だからあなたは、いつも優しいのだと。
優しさの向こう側に、思いやりがあるのだと。
もしそうだとしたら、とても嬉しい。
でも。
それはとても、心が苦しい。
優しいあなたに、無理をさせているから。
あなたが優しい時だけに、声を掛けられたら。
優しくするのが辛くなる前に、この身を引く事が出来たなら。
それを叶えるには、未来を見ないといけない。
例えあなたが目の前にいなくても、心が見えないといけない。
でも、この身勝手な願望が叶う事はない。
こんな事は、神様じゃないと出来ないから。
誰にも分からない事を気に病んで、僕は作った笑顔であなたと向き合う。
仮面の向こうにある感情を、包んで見えなくする為に。
あなたに嫌な思いをさせない為に。