下校
部活動のあと友達とのお喋りが長くなり、私が学校を出たのは夜8時近くだった。
同じ方角の子がいなかったので、私はひとり、自転車を飛ばした。
帰りが遅くなっては親に怒られる。
もう手遅れかもしれないけれど。
少しでも早く帰ろう。
最近遅くなることが多かったけれど、ここまでは初めてだった。家まで約15分。着く頃には間違いなく8時を超える。
通学路は暗かった。
夜だからというのもあるが、そもそも田舎道なのだ。殆どの場所が田んぼか、雑木林の脇であった。街灯がきれいで明るいのは学校の近くだけで、少し離れれば古くて薄暗いものが立っていたりする。それだけが頼りだったりする。
夜のこの道では、人なんてめったに会わない。
たまに車が通るだけ。
今日ももちろんそうだった。
私は自転車のライトをつけ、ひた走る。
もう秋なのに、ライトめがけて虫が飛び込んでくる。時折チッと小さなかすれた音がした、虫がライトに当たって多分死んだ音。
田舎では気にしていられないから構わない。
それよりも涼しくなったというのに蚊に刺されるってどういう訳。
住宅街を抜けて田んぼ。落ちないよう真ん中を走る。
田んぼを過ぎると雑木林。
緑色のフェンスが立っているけれど、所々曲がったり折れたりしていて気味が悪い。
怖いのもあって、私はできるだけスピードを上げてそのあたりを通る。
今日もだ。
でも思わず見てしまう。
フェンスが大きく倒れた場所を。
そこは事故でもあったのか、フェンスが道路から雑木林の中へ倒れていて、傍の木々も倒れてそのまま朽ちた感じだ。
私が小さい頃からこのままで、うちの親もここで何があったのか知らない。
昼間でもなんだか気味悪いのに、中学で部活に入ったものだから、毎日のように夜に通る羽目になった。
避けられればいいけれど、ここ以外の道というと、少し離れた国道しかない。かなり遠回りになってしまう。
怖いんだけれど。
通るたびにじっと見てしまう。
今日もまた見てしまった。
倒れたフェンスの上に白いものが乗っている。風になびいている。
…ううん。
風は吹いていない。
私は血の気が引くのを感じたけれど、必死でペダルを漕いだ。
フェンスからなるべく離れて通り過ぎようとした、その時だ。
白いものが立ちあがった。
顔があった。
私を見た。
私は頭が真っ白になりながらも走った。体が震え涙が出てきた。
追いかけてきたらどうしようかと思った。でも怖くて振り向くなんて出来なかった。
泣きながら家に着くと、自転車が倒れるのも構わずに玄関に飛び込んだ。
次の日の朝は、通学路がどうしても怖かったので遠回りして登校した。
でも、学校にいるうちに、段々と怖さが薄れ、あれは気のせいか、夢だったのかもしれないと思い始めていた。
授業が終わって、部活動の時間が来た。
休んで帰れば明るいうちに家に着けた。でももう怖くなくなっていた。
友達と部活動に向かう廊下で、別のクラスの仲間と合流した。
ひとりの子が私に訊いた。
「昨日、誰と帰ったの?」
私がひとりで帰ったこと、その子だって知っているはずなのに…
ひとりだったよ、と答えた私に、彼女は怪訝そうにこう言った。
「うちのお父さんが車で帰る途中、自転車のあんたを見かけたんだって。すごい勢いで走ってて…後ろに白い服の人を乗せてた…って」
おわり
読んで頂きありがとうございました。




