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第四話 学園入学

 ごきげんよう、ナタリアでございます。


 いまは馬車に揺られながら、王都に向かっている最中。

 ちなみに私、馬車が大の苦手! こんな風に下からお尻にダメージを食らうよりかは、多少体力を消耗しても爽快に馬で駆ける方が好きです。ただあくまでダイアナ様のお付きなのでね。もちろん馬車にはご一緒しなければいけない。


 ちなみに、ディランも一緒。私のせいで予定を変えて戻ってきたので、三人一緒に学園へ向かうことになった。これから学園では先輩ということになる。


「タリア、すごく綺麗になったわね」


 感心したといわんばかりのダイアナ様の声。

 結局昨日までディランから解放されなかったので、肌も髪も過去最大級につやつやだ。


「それにやっぱり、羨ましいわ。二同色ユーラシだなんて」


 地球とは違って、多種多様な色を持つこの世界の人間にとって、瞳や髪や肌の色が同じなのは羨ましがられる。なんでも、調和があるというのだ。

 私の場合、髪と瞳がこげ茶だから、二同色ユーラシ。これで肌も同じだったら、三同色テセラシーだ。


「そのまま学園で伴侶を見つけてしまうのではなくて?」

「ないですよ、ないない」


 付き人は、生涯独身をつらぬくのがよしとされている。

 そこまでは考えてなくても、いまは結婚する気なんてさらさらない。


「でもきっと、たくさんの男のひとたちが声をかけると思うわ」


 ダイアナ様は意味深にディランに視線を投げかける。


「そうだな。タリアがおかしな男に騙されないよう、よく見張っておけよ」

「仕方がないわね。私がちゃーんとタリアの手綱は握っておくわ」


 この兄妹、失礼すぎるだろ……!

 ディランはともかく、正直いって私はダイアナ様よりしっかりしている自信がある。旦那様からだって、「くれぐれも娘を頼む」と任されているんだぞ? カスピアン辺境伯の名のもとに、学園に入学させてもらっているのだ。そんな立場にある私が、簡単に害をなす人間に騙されたりするはずがない。

 なのになぜこんな上から目線。


「なーにいじけているのよ、タリア。ほんとに子どもなんだから、もう」


 ふんだ。ずっと私が面倒を見てきたというに!


 

 ただいま学園をダイアナ様と見学中。

 大事な用事があるとかなんとかで迎えがきて、ディランは馬車を降りた瞬間に解散。名残惜しそうにしていたけど知らん。


 魔法学園は昔何度か見たことはあるけど、やっぱり改めて見ても凄まじいところだ。


 荘厳な城のような校舎は隅々まで管理が行き届いていて、どこに目をやってもケチのつけようがない。とくに名高い大講堂と図書館は、窓の代わりに豪奢なステンドグラスがはめ込まれていて、惚れ惚れするほどに美しい。


「なかなかいいところじゃない」


 これから住むことになる寮も、ダイアナ様からは上々の評価をもらっている。


 貴族寮は上品な白亜の豪邸で、広い庭もあり、いかにもカントリーハウスといった趣だ。

 ダイアナ様の護衛を兼ねたお世話係として入学している私も、一種の貴族階級のようなものをいただいている。というわけで、こちらの贅をつくした寮のほうに住むことになる。


「すぐに荷ほどきを終わらせましょう」

「そうね。長旅で疲れたし、ちょっと寝るわ。湯汲みをすませるから、それまでにネグリジェだけでも出しておいて頂戴」


 お姫様が住んでそうな――というかダイアナ様は本当にお姫さまなんだけど――きらきら輝く部屋を、早くもダイアナ様は自室として認識して、くつろいでいる。


 私の部屋もちょっと狭いだけでほぼ同じ造りなんだけど、どうにも落ち着かない。

 本当なら下の位の者だから他の部屋のはずだったところ、カスピアン家の強い希望によって、ダイアナ様の隣の部屋にしてもらえたのだ。権力はそこらの公爵をも凌ぐから、そのくらいの要望なら簡単に通る。

 他の生徒からどう思われているのか、めっちゃ気がかりだけどね……。


「ふう……疲れたなあ」


 荷ほどきを終えてもまだお嬢様はお風呂だったので、着替えとタオルだけ出して、私は自室に帰った。

 お嬢様の部屋には呪文のかかったベルを取り付けておいたので、用事があれば私がどこにいても音は伝わる。


「とりあえず、当面の目標を整理して紙にでも書くか」


 無駄に二週間近く寝ていたわけじゃない。私だって、ちゃんと計画を練り、生存戦略を打ち出していた。


 ――まずは、ヒロインの思惑を知るべし!


 バッドエンドを含まないエンド数からこの世界が助かる可能性を計算してみた。

 母数が攻略キャラ六人かけるの三エンドに、逆ハーと裏エンドを足して二十。そのうち世界が助かるのは7。というわけで、(7/20)で三十五パーセントの確率で世界は救われ、残りの六十五パーセントで聖剣が持ち逃げされる。


 ヒロインに世界を守る気があるのなら、無論協力するつもりだ。

 ヒロインのサポートを裏舞台でしながら、ダイアナ様や私や他のひとの死亡フラグを折っていけばいい。


 万が一、聖剣持ち逃げエンドに行かれそうになった場合は、穏便にお帰りいただくしかない。途中で現代に帰らされるバッドエンドも、確かあったはず。


 ――ただ、ディランの例からして、すでにシナリオは書き換わっている可能性が高い。それが最大の懸念だ。


 それにしても、なぜこんなにもシナリオからズレているんだろう?


 記憶を取り戻したのはつい最近だから、私の影響ではないと思われる。

 ということは、もとよりこの世界が乙女ゲームとは別物なのか、それとも誰か他にシナリオを書き換えているひとがいるのか……考えてもわからん。


 兎にも角にも、ヒロインがこちらの世界の味方なのかそうでないのかを、まずは知ることだ。

 あとはシナリオを把握するために、ヒロインが誰のルートへ行くのかも確認しなければならない。


 というわけで、当面の作戦は名付けて『ヒロインはなにを考えているの!? ハラハラ・ドキドキ調査任務!』だ。


「とりあえず忘れないように、思い出した記憶を片っ端からノートに書いていこう……」


 誰にも読まれないように、日本語で書くこと、さらに鏡文字にすることも忘れない。やだ、私ったら有能すぎ!

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