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第十四話 決闘クラブ4

誤字報告をしてくださった方、本当にありがとうございました。作者も更新頑張ります!

 私が崩れ落ちると同時に、結界は弾けるように消えた。

 さきほどの試合とは打って変わって、ブーイングの嵐が雪崩込んでくる。


 理由は簡単。

 私が騎士道にあるまじき卑怯な手を使ったからだ。


 攻撃魔法は使わないという約束を破り、デュエル開始と同時に火球(イグニラ)をぶっ放した。

 ちなみに、背中合わせに歩く試合開始前に、詠唱は小声で済ませた。もしかしたらそれも反則かもしれない。


 ところがヴィンセント王子は剣に魔力を込め、いとも簡単にそれを切り捨てた。……なにが面白かったのか知らないけど、爆笑しながら。


 いとも簡単に王子はやって見せたが、はっきり言って人間技じゃない。

 飛んでくる火のついた矢を、火傷しないよう素手で掴むくらいの難易度だ。


 とはいえその程度のことは計算内。

 さすがにもうちょっと足止めできると期待していたとはいえ、火球が命中しなかったのは、彼の実力を鑑みれば驚くことではない。


 王子が火球に対応している隙に身体強化を三度がけし、一気に攻勢に出るという作戦だったのだ。素の力の剣技では、あの高魔族の王にすら通じる超絶技巧には勝てない。



 が、結果は語っている通り。


 身体強化を駆使してなお、一瞬の隙に首筋を打たれて敗北した。


 周りから見れば、私は反則しまくった挙句、ストレートに負けためちゃくちゃダサいやつである。


 ……ひょっとしたら周りから見ればではなく、事実そうなのかも知れないが。


「くやしいぃ……」


 身体強化の後遺症でぴくりとも動かない私を、からかうように王子はつんつんとつつく。


「勝ちに貪欲なのはいいことだ。やっぱり俺の目に狂いはなかったな」

「嫌味ですか……」

「いやいや、本気で言ってるよ。すべて最善の動きだった。ま、いまのナタリアじゃ逆さ立ちしようと、勝ち目はなかったってだけで」


 やっぱ馬鹿にしてるじゃん!


 という感想を抱くと同時に、ここで私は察した。

 王子がちょっとばかしプライドを挫いてやろうと思っていたのはアレックスだけでなく、私もだったと。


 そのために私達のライバル心を煽るとは、なんと計算高いことか。


「くっ……腹黒すぎます」

「なんのことだ?」


 ふてくされる私を見て、わざとらしく首を傾げる王子。


「ほら、拗ねてないで。いま治してやるから」

「結構です…………あっ」


 伸ばされた手から逃げようとしたら、机からずるりとずり落ちる。とんだ赤っ恥である。


「タリア!」


 そんな私を下から支えたのはディランだった。

 よく母親が子どもを抱っこするような体勢で抱えて、近くの椅子に座らせてくれた。指一本動かすのも億劫なので、今回ばかりは素直にありがたい。


 一度使ったら反動で介護必須な体になるのが、この奥義の弱点である。

 てっきり結界のなかで使えば問題ないと思っていたけれど、こういったサポート系魔術の後遺症までもは打ち消してくれないらしい。まあ、考えてみれば当たり前の話だ。


「タリアがあそこまで本気を出す相手なんだな」


 丁寧に超回復(ティアール)をかけながら、ディランは問うた。


「ええ、まあ……」

「敵は討つから、見ていてくれよな」


 それはそれは綺麗な笑みを浮かべたディランは、騎士服のマントをさっと翻す。


 真打ち登場と言わんばかりの熱狂的な歓声の渦のなか、舞台へと上がっていった。


「……さて、と。正直言って、お相手することになるとは思っていませんでした。うちのナタリアを破るとは、相当の使い手とお見受けします」

「剣技には覚えがあるのでね。とはいえ、そちらの”タリア”さんほどの使い手にまみえるのは、稀なことです」


 からかうようにヴィンセント王子は、ちらりと私の方に視線をやる。


 話題に出されるのもニックネームをからかわれるのも非常に遺憾だが……それにしても、なんと華やかな二人なのだろう。


 こうして向き合って会話しているだけで、まばゆい光を放っているようにさえ見える。

 自然とだれもが固唾を飲み、成り行きを見守っていた。


 しかし、私にはわかる。


 限界まで高まった集中力がぶつかることによって産み出される、圧倒的プレッシャー。

 一見穏やかな会話を繰り広げるふたりだけれど、すでに気迫による競り合いは始まっている。


 悔しいが、いまの私が相手では、ふたりがあそこまで本気になることはないだろう。




 決闘が始まってから約三十秒。


 二人の卓越した使い手を見る客の反応は、静かなものだった。私とアレックスのデュエルのときのような歓声は一切ない。


 誰もが唖然としているのだ。


 ――次元が違う。


 後日になってこの戦いを振り返ったとき、きっと彼らはそう形容するだろう。


 かくいう私も、ふたりの動きを目で追うのがやっとだった。


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