第一話 異世界転移
初投稿です。
よろしくお願いします。
お腹から何かが突き出ている。
それは銀色で鋭い。
どこかで見た事があるような気がする。
そんなことをぼんやり考えながら、圓 空は自分の人生を思い返していた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
圓 透羽は五人兄弟の末っ子として生まれた。
兄2人と姉2人の弟として両親には勿論、祖父母にもとても可愛がられて何不自由なく育った。
おもちゃが欲しいと言えば、すぐに買ってくれる。
遊園地に行きたいと言えば、必ず連れて行ってくれた。
だがある日、あることに気付いた。
否、気付いてしまった。
それは、夜にトイレで起きてしまった日のことだった。
トイレを済ませ、部屋に戻ろうとするとリビングいる両親の会話が聞こえてきた。
「あぁ、あの子はなんて可愛いのかしら。あんな子を産んだことを私は誇りに思うわ」
「そうだろうそうだろう。あんな子を産んだお前と出会えて、俺は運がいい」
その言葉を聞いて、透羽は直感した。
あぁ、僕は愛されてなどいなかったんだなぁと。
この時、10歳だった。
それからは孤独の日々が始まった。
ゲームを買ってもらった時、前はとても嬉しかった。
遊園地に連れて行ってもらえた時、前は楽しくてまた行きたいと思った。
だけど今は、違う。
ゲームを買ってもらっても嬉しくない。
遊園地に連れて行ってもらえても、全然楽しく無かった。
何もかもがどうでもいい。
何もかもが嘘に見える。
そんなことを感じていた透羽に近づく人は、家族以外でいる筈が無かった。
当然、中学も高校も友達なんて出来なかった。
寧ろ、気味悪がって避ける人の方が圧倒的に多かった。
しかし、時には話しかけてくる人もいる。
まぁ、そのほとんどが恐喝だが。
今時、高校生が恐喝って……。
そう思う透羽だったが、絶対に本人たちの前では言わない。
なぜなら、最近どんどん過激になっているからだ。
「ちょっと君、お金貸してくれるかな」
以前は1万くらい出せば、返ってくることは無いがそれ以上に要求するやつもいなかった。
だけど今は、
「おい、金を出せ。10万あればいい。ないなら家から持ってこい」
と、胸倉を掴まれながら言われる。
こんな感じに、日に日に激しくなっている。
なぜこんな大金を高校生なんかに要求するかというと、透羽の家はかなり裕福だということが周知の事実だからだ。
父はかなり大きなホテルの経営者。
母はその秘書だ。
毎年夏になると、かなりの人が訪れる。
子供連れの家族が泊まりに来る。
新婚旅行の夫婦が泊まりに来る。
結婚記念日にと、老夫婦が泊まりに来る。
そんな客たちを見ながら透羽は育った。
そんな透羽を常連客たちはもちろん、観光客達も気味悪そうな目で見ていた。
なぜなら、透羽は学校が終わるとホテル近くの草むらで一人、空を見上げていたからだ。
何かを観察するでもなく、ただそうしている。
その瞳に何も映さずに。
透羽自身何をしてるのか分かっていなかったが。
そんな透羽の生活は終わる。
今日は高校の卒業式。
来年からはホテルの手伝いをすることになっている。
いつも通り学校へ行き、卒業式を終えて家に帰ってくる。
朝の時点では透羽はそう思っていた。
教室へ着くと、いつも通り先生の点呼が始まりホームルームが終わった。
これから体育館へ移動だ。
ほかの生徒たちはみんな浮ついている。
がやがやと喧騒が続く中、透羽はそんなことを気にも留めずに体育館へ向かっていると、背中に衝撃が走り、お腹から銀色の何かが突き出ていた。
「やっと……会えました……」
空はその声を聞いた瞬間、拒否反応を起こすように意識を失った。
背後で光の柱に包まれている生徒たちがいたことに気付かずに……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「うーん……」
現在、透羽は困っていた。
それは、起きたら空が近くにあったからだ。
比喩などではない。
とんでもなく大きい鳥に掴まれて、空を飛んでいるのだ。
青く透き通った色をした鳥だ。
「僕は食べられちゃうのかなぁ」
そんな考えを頭に浮かべた透羽だったが、恐怖は感じていなかった。
もともと人生に未練なんてものはない。
友達と呼べる人はいなかったし、家族と呼べる人もいなくなった。
ただ、痛いのは嫌だなと透羽は思った。
……どれくらい飛んだかは分からなかったが透羽にはひとつわかったことがあった。
どうやらこの鳥?は仲間の方に向かっているみたいだ。
さっきから別の鳴き声が聞こえる。
間違いなく自分は餌だろう。
「きゅーーー」
どさっ。
透羽は巣の中に放り投げられた。
我先にとひな鳥達が寄ってくる。
服が無残に破られる。
が、器用に服だけをぺッとしている。
どうやら鳥たちは無機物を食べないらしい。
「……あがっ……が……!」
足がかじられた。
腕が噛み千切られた。
お腹が啄められる。
「ひゅーーーひゅー」
喉をやられて声が出せなくなった。
だが、まだ生きている。
早く殺して!
そう思った空だったが世界は残酷だ。
鳥たちが腹を食べるのを躊躇し始めたのだ。
こちらの様子を窺う鳥達。
「ぐあぁっ!」
激しい痛みが体を襲う。
空の心は次第に壊れていった。
いや、もともと壊れていたのかもしれない。
だが確実にこの日、空という人格はおかしくなった。
そして何時間後か、意識を闇に落とした。
「うぐっ」
空が目覚めたとき、全身が針に刺されたような痛みが空に走った。
体を少しでも動かすと凄まじい痛みが走る。
空は絶対に体を動かさないよう、無意識に呼吸を止めた。
勿論呼吸をやめて苦しくない訳が無い。
かすかに身じろぎをすると、瞬間かなりの痛みが空を襲う。
その痛みで自分の身に何が起きたかということを思い出した。
自分が鳥に食われたということを。
「あぁぁぁ…………ぁぁあっ!」
狂ったように叫ぶ空。
それも当然だろう。
日本という治安のいい国で育てられてきたのだから。
叫び続ける空の視界にふと、足が写った。
誰のものだろう。
気になった空は、すぐに叫ぶのをやめた。
自分の足が無いのを思い出した空は頭を近くに近づけることにした。
「ゔぅっ!」
だがどうやっても届かない。
何かないかと周囲を見回すと、足に何かがつながっていることに気付いた。
足を目で追った空は絶句した。
自分のお腹とつながっているのだ。
「ふふふふふふっ」
空はどうでもいいことを考えるのをやめることにした。
足とか腕がつながっている理由もわからない。
もしかしたらあの鳥に食われたのは夢だったのかもしれない。
けれどそんなことはどうでもいい。
まずはご飯だ。
食わなければ死んでしまう。
そのためには町に行くのがいいだろう。
どうやったら行けるのか。
道を探すのがいい。
道を探して歩き続いた空は、1日かけてそれらしきものを発見した。
その間は寝ず飲まず食わずでひたすら歩き続けた。
ようやく見つけたその時、空は何の感動も覚えなかった。
ただやるべきことをした。
その一心だった。
とりあえず太陽の方へ道なりを進んだ空だったがとうとう限界を迎え、その場に倒れこんだ。
もともとスポーツなんてやっていなかったし、運動も苦手なほうだった。
それにおそらく2日間くらいは水も食べ物も口にしてない。
そんな空がここまでこれたのが奇跡のようなものだった。
代償としてか、筋肉は膨張と収縮を繰り返している。
空は自分の体がおかしくなっていることを自覚し、意識を失った。
太陽が昇り始め空が明るくなり始めた頃、空は意識を取り戻した。
痛みの引いた腕に目を向けると、そこには青く透き通った色の腕があった。
足も同じだった。
お腹に関してはところどころそうなっていた。
この現象に疑問を感じた空だったがすぐに興味を失くし、再び道を歩き始めた。
どれくらいたっただろうか。
最早時間の感覚も忘れた空の前方には、建物が並んだ町らしきものが見えてきていた。
近くまで早足で歩いていくと人が二人、武器を持って立っていた。
門番かなんかだろう。
気にせず歩いていくと、片方の人が話しかけてきた。
「おいそこの兄ちゃん、あんた大丈夫か?」
心配そうに顔を覗き込んでくるおっさん。
「何でですか?」
「いやー、服がえらいぼろぼろだったからなぁ。何かに襲われたんじゃねぇかって思ってな」
「え?」
何も考えていなかったようだ。
「ぜ、全然大丈夫です」
「ほら、少し見せてみろ。こう見えても応急手当くらいは出来るってんだ」
空が恥ずかしがっていると勘違いしたおっさんは、重さを感じさせない軽やかな足取りで、空を抱えて家へ入っていった。
「おーい、メグー!婆さんを連れてきてくれー!」
「はーい!」
「よし、婆さんが来るまでにとりあえず止血をしとくか」
慎重に空の袖をまくっていくおっさん。
やば!
気付いた時には遅かった。
「ん?なんだこれ?」
あの青く変色した腕をおっさんに見られてしまった。
さすがに鳥に食われてこんな色で再生したなんてわかったら、気味悪いにもほどがあるだろう。
だが、どうやら初めて見たみたいだ。
この調子ならたぶん誰も知らないだろう。
そう考えた空は、
「じ、実は僕が住んでいる町で体を染めて神に祈るっていう儀式があるんですよ」
酷かった。
もっとマシな嘘は無かったのかと思うが、それは酷というものだろう。
もともとただの高校生なのだから。
「そうなのか、それにしてもすげー綺麗だな」
こっちはバカだった。
どうやら空の怪我は頭から抜けているらしい。
目をキラキラさせながら青い腕を見ている。
おっさんに見られていること数分、やっと老婆がやってきた。
「どれどれ、見しておくれ」
重たい腰を地面に降ろし空の方へ目を向けた瞬間、老婆は絶句した。
「え、えーと、すいませーん?」
たっぷり数秒間固まった後、老婆は震える声で呟いた。
「なぜじゃ……、あれはもう完全に消えたはずじゃ!なぜ今になって……」
「お、おい。婆さんどうしちまったんだ?」
「ど、どうしたんですかね」
すると老婆は空の方を向いて、真剣なまなざしでこう言った。
「あんた、どこの国の出身だい?それはいつ頃からある?答えな……」
「に、日本ですよ。ずっと日本育ちですっ。あとこれはさっき鳥に食われて」
その答えを聞いてどこかほっとした表情をした老婆。
聞けば、これは昔から伝わる女神の呪いだと言う。
1万年以上も昔、ある一人の人間の青年に恋をした神がいた。
その神の名をシェリル。
愛を司る神として人々に信仰されていたそうだ。
青年の名は高田 純二。
地球から転生してきた日本人だった。
この二人は愛し合っていたが、様々な災厄が降りかかり結局結ばれる前に青年が死んでしまった。
それから愛を司る神シェリルは一度消滅し、狂愛を司る神として誕生。
真意は定かではないが世界を破壊し続け、他の神の手によって今もなお封印されていると伝えられている。
そして、封印されたときに発生したのがこの呪いだという。
この呪いはいわば枷だ。
対象者を永遠に術者に縛り続ける。
死のうがそれは変わらない。
来世でも来来世も消えることはない。
「それなんかやばくないですか」
これを聞いて空は震えた。
もしかしたらとんでもないものに巻き込まれてるのではないか。
それにここが地球じゃないことにも気づいた。
これは何かが起きる予兆なのかもしれない。
そう認識した瞬間、空の体が文字通り震えた。
すぐ前では空を嘗め回すように眺める老婆。
あはっとその年に似合わない甲高い声を上げた後、呟いた。
「この呪いは本質を知れば知るほど効果が高まるのよ」