1日目昼
〈妖狐村〉
村人陣営……村3、占1、霊1、騎1
人狼陣営……狼2、狂1
第三陣営……狐1
〈キャラ情報〉(行が空いていない……恋人同士)
ナカジマ(男性。KY)……
ソラ(女性。主人公)……
ヒュウヤ(男性。眼鏡)……
サキ(女性。気弱系)……
タカナシ(男性。ワイルド)……
シュガー(女性。強気系)……
スズイ(男性。丁寧)……
ウシロダ(女性。清楚系)……
タノウエ(男性。ふくよか)……
カワシタ(女性。賢い系)……
0日目『夜の時間』の15分が経った。
席はほぼ埋まっていた――ただ一つの席を除いて。
私は不安げにその席を見つめた。
「ゲームを始めるぞ」
と覆面男が言うので、私は慌てて言った。
「でもまだ戻って来ていない人が……」
覆面男は私を無視して、
「恐ろしい夜が明けた。
0日目夜の犠牲者はナカジマだ。
1日目昼の議論を開始しろ」
覆面男の言葉に耳を疑う。
「な、ナカジマさん!?
えっ……」
私は空席を見つめた。
「嘘だッ!!!
ナカジマさん、まだ、部屋にいるんだよ。
きっと寝ているだけだよ……。
彼、空気読めないから。
こんな状況でも平気で遅刻するような人なんだ」
立ち上がると、
「ちょっと部屋見てきます」
「座れ」
覆面男がピストルを私に向けながら言った。
「部屋に行っても、死体を発見するだけだ」
「う、嘘だあああ!」
「本当だ。
疑うなら『1日目昼』が終わったら見せてやってもいい」
と覆面男はジロリと私を見ながら冷たく言う。
「今は自分が生き残れるよう、ベストを尽くすときだろ。
さあ、議論を始めろ」
覆面男はテーブルを囲む9人を見渡した。
「ソラさん、申し訳ないですが。
議論を始めますね?」
とタノウエさんが遠慮がちに言った。
「では占い師カミングアウトからしましょう。
いいですよね?」
皆、頷いた。
きっとタノウエさんが1番年上で頼り甲斐があると判断し、進行役を任せたのだろう。
「同時カミングアウトにしよう。
占った相手もカミングアウトと同時に指すことにしよう。
それなら、騙りが対抗占い師を見て占い相手を誰と偽るか考える隙が出来ないからな」
とタカナシさんが言った。
「そうですね。
では占い師の方は『せーの』の合図で、占い結果が黒ならバッド、白ならグッドのジェスチャーで相手を指して下さい。
せーの!」
スズイさんが空席へ白のジェスチャーをした。
ウシロダさんも空席へ白のジェスチャーをした。
恋人同士の二人は同時カミングアウト後、驚愕の表情で見つめ合った。
「ミナちゃん……」
「ヒロくん……」
二人は今葛藤している。対抗同士なのだ。
「では。
これからナカジマさんの脱落について話し合いましょうか」
タノウエさんは私に気を遣ったのか、『脱落』と言うぼかした言い方をしてくれた。
「0日目夜は人狼による襲撃はない、ですよね?」
とタノウエさんが覆面男に顔を向ける。
「そうだ。
人狼の襲撃が始まるのは1日目夜からだ」
「と言うことは、ナカジマさん、彼の死は『呪殺』だと思われます。
ナカジマさんは妖狐だった。
占い師の占い結果からもわかります」
「占い師がナカジマさんを殺したんだっ!」
と私は叫んだ。
「何でナカジマさんを占ったんだっ!
バカ!」
そんなことを言っても虚しいとわかっている。
でも感情を吐き出したかった。
「死ねばいい!
バカ占い師なんか、死ねばいい!」
両占い師COは、沈んだ調子で下を向いている。
「占い師がナカジマさんを殺したんじゃない。
『リアル人狼ゲーム』が殺したんだよ、ソラさん」
タカナシさんがぶっきらぼうな調子で言った。
でも彼の優しさはその調子からも感じとれ、私は口をつぐむ。
「今はソラさんが生き残ることが肝心だ。
死んだナカジマさんもそれを望んでいるんじゃないか?」
と言うタカナシさんの言葉をボンヤリとした頭で聞き、私は考える。
ナカジマさん……。
彼はそんなこと――私が生き残ること――を望むだろうか?
私にはわからない。
彼はいつもふざけていて、でもそこが可愛くて好きだった。
私は好きだったけど……。
彼は本当に私のことが好きだったのだろうか?
身近にいた付き合えそうな女子だったから、付き合っただけなんじゃないか?
そんな彼が私に望むだろうか?
『君だけは生き残って欲しい』と。
私が下を向いて沈黙していると、タカナシさんは私が彼の言葉を受け入れたと思ったらしい。
「そうだ。彼のために生き残るんだよ、ソラさん。
あまり占い師を責めるのは止した方がいい。
真占い師を責めるのは村人陣営として印象が悪くなるからな」
「占い師2人ともナカジマさんの席を指した。
つまり今のところ、どちらが真占い師かわからない」
タノウエさんは両占い師を交互に見た。
こう言うとき普通なら、
『僕が真占い師だ』
『私よ』
と言うやりとりがあって、然るべきなんだろうが。
彼ら――両占い師CO――はただ下を向いて沈黙している。
恋人同士で対抗になった彼らは、自分たちが別陣営だと思って、嘆いている。
別陣営……。
一方が生き残ればもう一方は生き残れない。
ナカジマさんと私と同じ状態のこと。
でも私は選べるものなら選びたかった、ナカジマさんが生き残る方を。未来を。
私だけが生き残っても、私全然うれしくないよ……。
「もう、情報がないですね。
どうしましょう?
霊媒師カミングアウトしてしまいますか?」
「そうだな。
このままだとグレー吊りだが、情報がないから票を合わせられない。
偶然霊媒師を吊ってしまう可能性が十分ある。
霊媒師カミングアウトした方がいいと思う」
「噛まれませんか?」
「騎士には『能力者護衛』をしてもらおう。
人狼も、護衛されている可能性が高い能力者は襲撃対象に選ばないだろう」
「では、霊媒師の方カミングアウトして下さい。
せーので、手を上げてください! せーの!」
タノウエさんの合図で、2つの手が上がった。
私と、カワシタさんの手。
「霊媒師が2人出てきた。
1人は騙りだが、まだ霊媒もしていないうちから霊ロラするのもな。
無難なところで、今日はグレー吊りか。
つまり……」
ヒュウヤさん。
サキさん。
タカナシさん。
シュガーさん。
タノウエさん。
……のうちの誰か。
「能力者騙りに2人出ていると言うことは、グレーに潜伏人狼陣営が1人いる。
狂人か、人狼かわからないが。
そいつを吊りたい。
何か意見はないか?」
タカナシさんは場を見渡した。
「沈黙しているやつ、危ないぞ?」
「私は口数が多い人があやしいと思う」
とサキさんがポツリと言うと、タカナシさんはにやりと笑い、
「それでいい。
そう言う意見、言っていこうぜ」
「人狼陣営、カミングアウトしてもらえないか?」
とヒュウヤさんが眼鏡をクイッと上げながら言った。
「妖狐が脱落した今。
あとは人狼がカミングアウトして吊られてくれたら、犠牲者が最小限に押さえられるだろう」
「あんた馬鹿ぁ?」
とシュガーさんがあきれたように言った。
「他人のために、死ぬバカがどこにいるの?
それに恋人も同じ人狼陣営だったら――人狼陣営の可能性があったら――勝ちにきて当然でしょ?
自己犠牲はできても、恋人は死なせられないでしょ?」
「それに『不要なカミングアウトは禁止』と言うルールがあります」
とカワシタさんが感情のこもらない声で言った。
「あっ……」
とヒュウヤさんの顔が青くなった。
さっき聞いたばかりの、忘れがたいルールだろうに。
この人はドジっ子のようだ。
「そろそろ1日目議論終了するか」
と覆面男がニヤリと言った。
「今日は能力者CO以外――グレー――吊りだ」
とタナナシさんが腕組みしながら言った。
「自分があやしいと思った奴を投票しよう。
するしかない」
「『投票する』ボタンをタップして、投票したい名前を選べ」
と覆面男が言った。
投票後しばらく経つとスマホに投票結果が表示された。
ソラ ……ヒュウヤ
ヒュウヤ ……シュガー
サキ ……タカナシ
タカナシ ……ヒュウヤ
シュガー ……ヒュウヤ
スズイ ……タカナシ
ウシロダ ……ヒュウヤ
タノウエ ……ヒュウヤ
カワシタ ……ヒュウヤ
「ヒュウヤが処刑される」
と覆面男はニヤリとすると、ヒュウヤさんにピストルを向けた。
「立て」
ヒュウヤさんはピストルを持った覆面男に命令されても、イスに沈み込んでしばらく呆然としていた。
しかし、
「ヒュウヤさん!」
と言う恋人のサキさんの涙声に、顔を彼女へ向けた。
力無く笑うと、
「今日、プロポーズしようと思っていたのに……。
カッコ悪いな、おれ」
ポケットから小さな箱を取り出し、サキさんに手渡す。
「今から死ぬやつに指輪もらっても迷惑だよな。
メル〇リで売っていい」
「大切にするよ!」
とサキは嗚咽を漏らしながら叫ぶように、
「一生!
一生大切にする!」
「長い一生にしてくれ」
とヒュウヤさんは微笑んだ。
「こんなところで死ぬな」
「お別れは済んだか?
今から自室へ戻ってもらう。
そこで薬を注射する」
と覆面男は言うと、チラリとサキを見た。
「心配するな、と言うのは変だが。
安楽死の薬だ。
死ぬときに苦しまないのは確かだ」
「良かった」
と言うとヒュウヤさんは立ち上がった。
サキさんもヨロヨロと立ち上がる。
二人は最後の抱擁を交わした。
「じゃあ」
とヒュウヤさんはサキさんに優しく微笑むと、部屋を去って行った。
サキさんは涙で濡れた顔でいつまでもドアを見て立っていた。
『座れ』と指示されても、そのまま。
何度目かの指示でやっと席に座ると、泣きながらヒュウヤさんからもらった小さな箱を開ける。
ダイヤモンドのついた婚約指輪のようだ。
サキさんはそれを左手薬指にはめると、泣き笑いして、
「ヒュウヤさん……無理しちゃって……」
それから、机に突っ伏して本格的に泣き始めた。
「じ、人狼……」
彼女は叫んだ。
「私を殺して!」
涙でうまく発声できていないが、胸を打つ叫びだった。
「私、ヒュウヤさんと一緒に死にたい……」
彼女の悲痛な訴えは、果たして人狼に届いただろうか?
「いったん自室へ戻って『1日目夜の時間』を過ごしてもらう。
そこで占い師は占いをしろ。
霊媒師は霊媒をしろ。
人狼は襲撃対象を選べ。
人狼同士で内線電話も使える。
15分後にまたこの部屋に集まってくれ」
と覆面男は言った。