夜の時間は自室で過ごす
「初日の朝の時点では人狼による襲撃の犠牲者はなし。
初日占いはありだ。
早速占い師には占いたい人間をタップしてもらいたいんだが……
ここじゃ誰が作業しているかバレバレだなあ。
人狼にも打ち合わせしてもらいたいし」
私たちはただのシンプルな丸テーブルを囲んでいるだけ。
仕切りも何もない。
だから、隣の人の作業が丸見えなのだ。
リーダー格の男はしばらく考えてから、
「このペンションの客室は確かシングルしかないんだよな。
つまり泊まり客には――お前らには――それぞれ自室があるわけだ。
なら『夜の時間』は自室に戻って作業をしてもらうことにするか。
もちろん監視付きだ。
ちょうど今、おれ含めてこちら側は10人いるし、ちょうどいい。
1人1監視人だ」
男の言うとおり、このペンションはシングル部屋しかないんだ。
変なの、と思っていたけど……。
リアル人狼ゲームが始まった今思うと、ご都合主義でシングルしかなかったんだね☆
「じゃあ、いったん自室へ戻ってくれ。
初日占いありだから占い師は占いを。
人狼は部屋に備え付けの電話の内線で人狼同士、打ち合わせをしてくれ。
15分後にまたここに集合だ」
「ちょっといいか?」
とタカナシさんが手を上げた。
男が『いいぜ』と頷くと、タカナシさんは場を見渡し、
「初日占いあり。
と言うことはこれから占い師は占いをするんだろうけど、自分の恋人は占わないで欲しい」
「何故?」
とタカナシさんの彼女のシュガーさんが聞く。
「占い結果が信用できなくなるからだ。
黒でも白、と嘘をつく場合がある。真占い師でもな。
恋人をつい、かばってしまうんだ。
『リアル恋人陣営』の誕生だよ」
なるほど、確かにその可能性は高そうだ。
私もさっき思ったもの。
ナカジマさんを占って『黒』と出ても『白』と言おうと思ったもの。
「もちろん初めのうちだけだ。
何日か過ぎたら、恋人でも占ってもらうことになるかもしれない。
でも、初日からは占わないようにしないか?」
タカナシさんの提案に、皆異存はないようだった。
リーダー格の男は、興味深げに「ふ~ん」とうなると、
「なるほどね。
『リアル恋人陣営』か。
恋人のために自分の陣営に不利な行動をしてしまうってわけか」
シニカルな調子で口角を上げ、
「ルール追加だ。
『不要な役職カミングアウトの禁止』」
「えっ?」
とタノウエさんが声を上げた。
「例えば、人狼が負けるためにする人狼カミングアウト。
キツネが負けるためにする妖狐カミングアウト。
そう言うのを禁止する」
「そんなの、禁止しても意味ないと思います」
とカワシタさんが静かな声で発言する。
「確かにこんな状況だから、誰かをかばうために自分の陣営に不利益なカミングアウトする可能性もあると思います。
でも、そのカミングアウトを
『誰かをかばってした自己犠牲カミングアウト』
と判断するか、
『誰かをかばってした自己犠牲カミングアウト、に見せかけた自陣営のためのカミングアウト』
と見るか。
まわりが疑心暗鬼になって考えてしまうゲーム。
それがそもそも『人狼ゲーム』なんじゃないですか?」
「まあ、あんたの言っていることもわかるけどね。
しかし一応禁止だと言っておこう」
とリーダー格の男は言った。
「『不要なカミングアウトは禁止』で、もし行ったら『ペナルティをつける』。
そのことを頭に入れて、プレイしてもらいたい」
※※※
私たちは『0日目夜』の15分を過ごすために、それぞれの自室へ戻った。
私の監視役はリーダーだった。
ピストルをこちらに向け、後ろを付いてくる。
もちろん部屋の中まで付いてくる。
私は自室の奥にある窓へ行った。
誰か外にいないかなと思ったけど。
誰もいない。見事な田舎だ。
「陸の孤島みたいな場所だ。
外を見ても、人なんかいない。
無駄だ」
とリーダー格の男はニヤリとした。
私はため息を吐くとベッドに寝転んだ。
しばらく経つ――10分くらい――と、男は『そろそろ戻るぞ』と言う。
私たちが元いた部屋に入ると、半分くらいの人が既にテーブルに着いていた。
ナカジマさんはまだいなかった。