12人
GM役に僕の『恋人』役をするよう言われた女は『う~ん』としばらく躊躇っていたが、『ま、いいか』と言う顔になると自分で部屋の隅にあるイスを持ってくる。
皆に少し席を詰めてもらい僕の席の横に置き、座ると、
「よろしくね、ワタルくん」
とニヤリとした。
この女と僕が恋人陣営になったところで、何の意味があるんだろ……と僕は思った。
『恋人陣営勝利』は辞退できるのだから。
僕は辞退するだけだ。
まあ、もしもこの女が妖狐で、僕が村人陣営。
そして僕が生存した状態で妖狐勝利決定しゲーム終了した場合。
僕が『恋人陣営勝利』を選ぶことで1人でも僕ら強制参加者の命が助かる、と言うような場合だけか。
僕とこの女が『恋人陣営』の利点は。
GM役は僕と隣に座った女を交互に見ると、ニヤリと仲間の女を見た。
「若い『恋人』ができて良かったな」
「そうじゃないよね~」
女は長い髪を後ろに流しながら、にこっと僕を見た。
「『年上のお姉さんが「恋人」になってくれて良かったな』
と言うところよね? ワタルくん」
こう言うキャラは兄だけで間に合っているんだけど、と思った。
ツッコミ役に僕はとうの昔に飽きている。
※※※
「おい、おまえ。
自己紹介しろ」
とGM役が仲間の女に言った。
「じょいです、よろしく」
「じょい?」
タカナシが聞き返すと、にっこり、
「女の医者――『女医』です。
私、あなたたちに『安楽死の薬』の注射を打つ係なの」
タカナシが不快げに顔をしかめるのに、ニヤリとし返す。
「『センセイ』と呼んでもいいわよ」
コイツ強そう……と思った。
兄と戦わせたい。
「コイツはおれたちの仲間。
と言うことで当然ながらコイツは敗北陣営に所属しても、死なない。
ズルいけどそう言うもんだよな?」
GM役は不満げな顔を見渡すと、
「でも、女医が参加するのはおまえらにとって悪いことばかりじゃない。
もし女医が妖狐で、勝利陣営が村人陣営の場合。
村人陣営が勝つことで犠牲になる――実際に死ぬ――人数は人狼陣営3人になるわけ。女医は死なないからな。
少しは罪悪感が軽くなるだろ?」
ニヤリとする。
「女医が参加しても、特に役職も変えないし。
村人を女医が増えた分一人足すだけだ。
むしろ村人陣営は勝ちやすくなったんじゃないか?
もちろん女医には普通に『自陣営勝利』を目指してもらう」
役職は既に、兄の『勝利陣営全員生存案』提案前に……
村人陣営……占い師1人、霊媒師1人、騎士1人、村人4人
人狼陣営……人狼2人、狂人1人
第三陣営……妖狐1人
……と説明されている。
そして女医を入れることで、村人は4人から5人に増えたのだ。
「でもなんか、村人陣営強過ぎてつまらないかな……」
とつぶやいたが結局、
「ま、いいか」
本当に人に命を賭けさせながらずいぶん適当だ。
しかし反論して気を変えられても困るので僕たちは黙っていた。
役職を決めた後、GM役はゲームの進行について説明するとニヤリと言った。
「0日目夜を自室で過ごせ。
初日犠牲者なし、初日占いありだ」
※※※
自室へ戻ると、部屋のドアを閉める前に僕の見張り役の女医は手の平を振りながら言った。
「私もゲーム参加者だから。
『自室』に行くわね」
それからニコリとすると、
「と言うことでワタルくんには見張り役がいない。
……と言うわけではもちろんなく。
ちゃんといるわ」
と言って廊下を見る仕草をする。
釣られて見ると、隣の部屋の人間の見張り役と思われる男が僕と目が合うと片手を挙げて見せた。
「彼があなたもまとめて見張っていてくれる」
僕は仕方なく頷いた。
「また迎えに来るわね」
と言うと女医は僕に背を向けた。
僕はもう一度僕と隣の部屋のちょうど中間辺りの壁に背を預けている見張り役の男を確認して、部屋に入った。
窓から外の様子を確認してみる。
逃げられそうだが逃げるわけにいかない。
僕たちには皆『大事な人』がいる。
『人質』を取られているのだ。