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恋人たちの人狼ゲーム(検索除外)  作者: naru
死が2人を分かつまで双〈番外編2〉~恋人達の人狼ゲーム~
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恋人陣営

「ワタルくんがさ……」


 僕のことを『ワタルくん』呼びしてからかいつつソラに話しかける兄にイラッとしたが。

 ソラが可笑しそうな目をこちらに向けてきたのでドキッとする。


『ナカジマさんって、しょうがないよね』

 と言う目。

 僕へのからかい、と言うより、兄へのからかいを含んだ目。

 

 嬉しかったけど、寂しかった。

 ソラの愛情が向かう先は常に兄だった。わかっていることだけど。


「兄さん、昼間から酒でも飲んでるの?」


 と言ってみた。

 いや、飲んでいないことはわかっているのだが。

 コイツは素面でも普通にいつもふざけている。


「ワタルくん、心配してくれてるの?」


 何故そう思った。


「やめろよ。そのしゃべり方……」


「ごめんね、気に障った? ……ワタルくん」


 ホントむかつく。

 イラつく僕に気を使ってくれたのはソラの方だった。

 困ったような笑顔で兄に言う。


「ナカジマさん、弟さん困っているよ」


「ソラさん。そこは

『ナカジマさん、「ワタルくん」困っているよ』

と言うところだよ」


 と兄がニコニコとソラに言うと、ソラは「えへ……」と何故か照れて僕を見、


「ワタル……さん」


 ニコッとした。


 僕は舞い上がってしまった。

 『くん』と言わずに『さん』にするところが、ソラさんだ……可愛い。


 ふと、兄がニヤニヤ顔を向けていることに気付く。

 兄は僕が兄の態度に気付いたことに気付くとニコッとして、

 

「ワタルさん、良かったね」


 ホント……ムカつく、としか言いようがない奴だ。


 しかし、そんなやりとりも。

 平和だったのだ。

 とても幸せな時間。


 ……後から思えば。



※※※


 その後このペンションは覆面集団によって占拠され、僕たちは『リアル人狼ゲーム』をやらされることになった。



※※※


 『リアル人狼ゲーム』の説明があらかた終わり、あとは役職を決めると言うところで、兄が手を挙げた。

 コイツまた空気が読めない発言をするのではないかとハラハラする。


「あの、『開催者』さん」


「ん。何だね、ナカジマくん」


 リーダー格と思われる男は、生徒を指す教師のような口ぶりで兄に答える。


「この『リアル人狼ゲーム』。

脱落者順に死んでいくんですよね」


「そうだ」


「それ、やめにしません?」


「ん?」


「僕、フィクションの『リアル人狼ゲームもの』でも思うんですよね。

『順番に死んでいく展開』って『人狼ゲーム』の良いところが生かせないんじゃないか? って。

『人狼ゲーム』って『個』より『全』を取って、『全』の勝利を目指すゲームだ。

でも一人一人脱落者順に死んでいく『リアル人狼ゲーム』ってなると、どうしても『個』のゲームになっちゃうでしょ?

だって人間、やっぱり『自分』がいちばん大事だから。

自分が死んだら『全』で勝っても意味ないじゃん。って普通、人間はそうなります。

でも人狼ゲームって『全』のために――所属陣営のために――戦うところが楽しいと思うんですよね……」


「いや、『全』の勝利を目指す方が結果的には良いだろうに『個』の戦いになってしまうところが面白いんだけどね」


 男は口の端を上げた。


「人間の醜いところが見たいんだよ、こう言うのを好んで見る奴は。

『個』の足の引っ張り合い」


「なるほど」


 兄は特に非難めいた表情でもない真顔で覆面男を見つめていた。

 覆面男はしばらくそんな兄を見返した後、


「ま、いっか」


 兄が、いやこの場の参加者全員が目を丸くして覆面男を見る。

 信じられない、と思いつつも期待を隠せない表情(かお)


「いいよ。

『勝利陣営所属の者は脱落者でも生き残れる』ゲームにしよう」


 わ! と歓声が上がった。

 僕も兄とソラに嬉しい顔を向けた。

 兄も珍しく『自然な』嬉しそうな表情をしていたし、ソラも喜んでいた。


「しかし」


 とここで、嫌な予感がする『逆説の接続詞』をGM役の男は言った。


「もうひとつ、ルールを付け足そうか?」


 参加者が息を飲んで見守る中、


「『恋人陣営』って知っているかな?」


 皆頷いた。


「じゃあ『恋人陣営』を入れよう。

だが今回はオリジナル『恋人陣営もどき』のルールとしよう」 

 

 とGM役はニヤリとした。


「おまえらは5組の『恋人同士』だが。

もし勝利陣営が決まったときに、その実際の『恋人同士』が『敵同士』状態で脱落していなかった場合。

2人は選ぶことができる――自陣営勝利か、『恋人陣営』勝利か」


 GM役は手の平で兄とソラを指した。


「例えばナカジマくんが人狼でソラちゃんが占い師。

そして2人とも人狼陣営勝利の瞬間まで脱落せずに場に残っていたら。

ナカジマくんとソラちゃんは選ぶことができる――『人狼陣営勝利を選ぶか、恋人同士2人きりで生き残ることを選ぶか』。

もし恋人同士2人きりで生き残ることを選ぶ場合は人狼陣営勝利はナシ――ナカジマくん以外の人狼陣営所属メンバーは脱落。

ちなみにナカジマくんかソラちゃんか、どちらか1人でも『恋人』勝利を拒否したら、恋人勝利はなし。ナカジマくん含む人狼陣営勝利となる。


もし2組のカップルが同じように残っていた場合は……黒2人白2人で人狼陣営勝利が決まったときに『人狼――村人』のカップルが2組いた場合だけかな。

そのときは一方のカップルだけでも『恋人』勝利を選んだら、人狼陣営勝利はなしとするか」


 簡単にまとめる。


「つまりは恋人同士2人ともが最後まで脱落しなかった場合、ロミジュリ状態――敵同士だから引き裂かれると言う状況――を避ける選択ができるわけだ」


 カワシタが手を小さく挙げつつ聞いた。


「『恋人』の勝利条件は

『「恋人」の一方が勝利陣営所属の状態で、「恋人」2人とも勝利陣営が決まったときに脱落せず場に残っていること』

……だけで良いんですか?

他に条件は?」


「他に条件はない。

正式な『恋人陣営』みたいに、『恋人の片割れが脱落したら、もう1人の恋人も脱落』とかもなし。

だから『恋人陣営』と言うと違うかな――『恋人陣営』は2人とも勝利陣営に所属していなくても良いし。別モンか。


まあこの『恋人陣営もどき』は――もどき、ですらないかもしれないが――ただ違う陣営所属の恋人同士が2人で最後まで脱落せずに場に残り、片方が勝利陣営所属の場合に『究極の選択』をしてもらうだけ、だよ。

『自陣営勝利』でヨリ多くの人間が生き残る方を選ぶか。

『恋人勝利』を目指し、恋人同士2人で生き残ることができるが、自分たちのために『同陣営仲間』を裏切る――生き残ることができた者を殺す――方を選ぶか」


 GM役は場を見渡すと、

 

「ま、あんまり上手くいかないかもしれないけど。

このルール初めてだし。

誰と誰が恋人同士かバレバレの中やっても意味ないかもだけど。

とりあえずやってみようぜ」


 こちらは命が懸かっていると言うのにずいぶん適当だ、と思ったそのとき。

 僕はGM役と目が合った。

 GM役の目が語っている――『そう言えばコイツだけ独り身だったな』。

 放っとけ。


 GM役の僕を見る視線の意味を察したのだろう、


「ワタルくん、僕たちのチームに入る?」


 兄が演技染みた同情的な声音で言った。

 

 何だよ、チームに入るって。

 『3人』になったら難しくなるだろうが。


「僕は『恋人陣営なし』で良いです。

普通に所属陣営が勝ったときにだけ勝利、で……」


 と言ったがGM役はしばらく考え込んだ後ピンとした顔をすると、


「おまえ、ゲームに参加しろ」


 と僕の背後に視線をやりながら言った。

 テーブルにかける参加者が皆、彼の視線の先を追う。


 僕の背後に立つ人物――女性。

 僕の見張り役。


 彼女はきょとんとした顔で自分を指しつつ、


「私?」


「ああ」


 とGM役はニヤリとした。


「弟くんの『恋人役』だ」

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