『空閑 閑』の小説
今は検索除外中のエタっている小説の、番外編として書いたものです……
分かりづらいところがあるかも知れません。
(その小説はこれから更新できるとは思えません……すみません。かなりの黒歴史小説で自分でも恥ずかしくて読み返せない……)
この小説もかなり黒歴史入っていますが、
共感性羞恥を感じるかもですが、
もしよろしかったらよろしくお願いします。
m(_ _)m
キャラ紹介
空閑 閑
お嬢さま
ナカムラ
お嬢さまの友達(恋人?)
「ナカムラさん、わたくし新作を書きました」
唐突に彼女は言った。
彼女の名前は空閑 閑。
名前と言っても『空閑 閑』は偽名である。
彼女はときどき本名ではなく偽名を名乗る。
本名があまり好きじゃないからだそうだ。
たいていの人は自分の名前が好きじゃなくても、ちゃんと本名を名乗るものだが。
僕と初めて会ったときも、彼女は偽名の方を名乗った。
そのため未だに僕は彼女を『クガさん』と呼んでいる。
そろそろ本名で呼びたいとも思うのだけど、今更照れくさいこともあり『クガさん』呼びのままだ。
今日のクガさんは長いストレートの黒髪をそのまま後ろに流し、水色のワンピースを着ている。
華奢な身体ながら姿勢をピンと伸ばし僕の前に立つ彼女は、意志の強さを見る者に感じさせる漆黒の瞳を持っている。
しかし瞳光の強さから受ける印象を考えると意外な程に、その全身からはおっとりした雰囲気が漂っている。
接してみると無口なので、なおさらおっとりした女性に見える。
彼女いわく『自分は普通の人よりテンポが遅い』。
だから、どうしても無口になってしまうそうだ。
またクガさんは僕たちの住む県で有数のお金持ちの家に生まれた生粋のお嬢さまでもある。
『おっとりリアルお嬢さま』、それがクガさんだ。
クガさんの家は豪邸で、執事までいる。
その上執事見習いまでいる。
当然のようにメイドもいる。
僕にとっては別世界の人だ。のはずである。
しかし僕たちは奇妙な縁で知り合い、今に至る。
そんなクガさんが言う『新作』とは、クガさん自身が書いた小説のことだろう。
彼女は『なんじは小説家なりや』と言う小説投稿サイトに小説を投稿している。
まさに『空閑 閑』と言う名前で。
偽名『空閑 閑』は、ペンネームでもあるわけだ。
彼女は『なりや(『なんじは小説家なりや』の略語)』のいわゆる『底辺作家』だ。
僕が以前『空閑 閑』のマイページを見たとき、彼女の作品はまだ1つだった。
『朱に染まるウェディングドレス~花嫁達の人狼ゲーム~』と言う、登場人物が『リアル人狼ゲーム』を始める小説である。
こちらの作品には評価ポイントが20ポイント入っているが、その全てが僕からの贈り物である。
僕が出し得るポイント全部を入れてあげた――こいつがお望みの全力だ、と言うわけだ。
(『なりや』のポイントシステム……
・文章評価最高10ポイント
・ストーリー評価最高10ポイント)
彼女は僕以外にはポイントをもらったことがない、底辺中の底辺の作家である。
いや、彼女のことばかり言えない。僕もそうなのだから。
僕も『なりや』にいくつかミステリー小説を投稿しているが、全て安定の20ポイント評価である。
言うまでもなく、その20ポイントはクガさんの全力である。
クガさんが新作を書いたと聞き、僕は久々にクガさんのマイページを訪れた。
作品が2つになっていた。
「これですね。
『死が2人を分かつまで~恋人達の人狼ゲーム~』」
僕はクガさんの瞳をジッと見つつ、
「人狼ゲームは懲り懲りだ、と言っていませんでしたか?」
彼女は以前人狼ゲームでヒドイ経験をしたのだ。
「ええ、対面型のは」
とクガさんは微笑んだ。
「人狼ゲーム小説を書くのは楽しいです。
一人で人狼ゲームをしている感じで楽しいです」
あまりにも寂しいことをクガさんはどこか得意げに言った。
「……そうですか。
血液量多めの殺人描写は書けましたか?」
するとクガさんはどこか沈んだ調子で、
「残念ながら。
やっぱり『薬殺』です」
「そうですか」
「でもいつかきっと殺人描写を書きます!
ナイフを突き刺し、えぐり、ぐりぐり……」
「いや。無理して、書かなくていいと思いますよ」
「でも血で血を洗う殺人描写がないと、読んで下さる方もつまらないでしょう?」
どんな読者を想定しているのかよくわからない。
「そんなことないと思いますよ。
ヒトが死ぬ展開は好きだけど殺人描写は好きじゃないヒト結構いると思いますよ。
だから大量の血液が流れなくても全然いいです。
『安楽死の薬』でオッケーですよ。
……どうせ今作もご都合主義で登場する『安楽死の薬』で殺すんでしょ?」
クガさんの前作『朱に染まるウェディングドレス~花嫁達の人狼ゲーム~』は、タイトルから血液を連想させるくせに、殺し方は安楽死の薬を使うものなのだ。
タイトル詐欺である。
クガさんは渋々認めた。
「でもご都合主義だなんてヒドいです。
今度から青酸カリにしてやります」
ふくれっ面をしている。
クガさんの小説の登場人物ごめん。
僕のせいで苦しむ死に方になったようだ。
僕は改めてスマホのクガさんのマイページを見つめた。
『死が2人を別つまで~恋人達の人狼ゲーム~』は公開から1週間経っているが、やはり安定の0ポイントである。
僕はどこかホッとした。
底辺仲間が確実に一人ここにいる。
「読んだら20ポイント入れておきますね~」
「でも。ナカムラさん。
ナカムラさんのマイページを見たら、ナカムラさん、わたくしの小説にしか評価なさっていないじゃないですか」
クガさんの言うとおりだ。
僕は引きこもりユーザーであるので、リアルで知り合いの彼女しか評価していないしブックマークもしていない。
お気に入りユーザーもクガさんだけである。
「相互評価っぽく見えたらどうしましょう?」
そうクガさんが心配そうに言うのに、
「大丈夫です。相互評価には見えないですよ、クガさん。
クガさんも僕の作品しか評価していないじゃないですか?
だから相互評価というより別アカっぽく見えると思いますよ」
と笑って答えると、
「そうですか。
よかった……わたくし相互評価なんてしていなかったんだ……
……
…………
!?
別アカ……ですって……?」
と彼女はノリツッコミをした。
ノリツッコミにしてはツッコミまでの時間が長かったが。
「そんな……
ああ、駄目ですわ、全然駄目ですわ!」
「ポイントはいらないと言うことですか?」
僕が首をかしげると、しばらく考え込んだ後。
顔を上げた彼女は僕の目をジッと見つつかぶりを振った。
「いいえ。
20ポイント入れて下さいまし。
20ポイントあったら推理カテゴリーでランキング入りでき、皆さまの目に留まることができますもの」
強さを秘めた目で僕を見つめるクガさん……
『キリッ』じゃねーよ。
しかし。
それでこそ僕のプリンセス。
クガさんと別れた後、僕はクガさんの小説を読み始めた。
『死が2人を分かつまで』か。
僕のお姫様はなかなかロマンチックな側面もあるようだ。