表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を数百個救った勇者の俺は駄女神学園で先生をしています  作者: 白銀天城
最終章 勇者追放指令

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/110

そのころの駄女神 サファイア視点

 世界の謎とか、女神界の野望とか、よくわかんないけど。


「まずはあんたらを倒す! 考えるのはそれからよ!」


 こいつらは強い。けど先生と一緒に修行した成果なのか、少なくとも瞬殺されない程度には戦える。


「ちっ、報告では駄女神のはずだぞ!」


「生徒とは成長するもの。うちは師が優秀なのですよ」


 こっちは三人。あっちは十人ちょっと。

 分散は避けて、でもまとめて倒されない距離を保つ。


「ブリューナクボンバー!!」


 敵めがけて大遠投。

 爆破で三人は巻き込めたはず。


「そんな大振りなど!」


「ええ、誰かのフォローが必要でしょうね」


 ローズの魔力が天から降り注ぐ。

 一瞬敵の動きを止め、ブリューナクが戻ってくるまでの時間は稼げる。


「足が止まっていましてよ」


 魔法の雨のおかげで動きの鈍い敵を、全身に無効化を張り巡らせたカレンが仕留めていく。

 危なくなったら一旦集合。回復を即座に済ませて少し距離を取る。


「くっ……こいつら戦闘慣れしている!!」


「それはもう厳しい授業でしたよ。魔法戦からサバゲー、モンスターやVRキャラとも戦いましたから」


「それに比べて、あんたら動きが単調なのよ!」


「我々は同個体。一部のスキもないはずだ!」


「それはあくまで機械的な処理。同じ個体ならば、同じ弱点があるのですわ」


 多分教科書通りの動きを繰り返しているだけ。

 イレギュラーな事態への対処ができていない。

 もしかして戦闘経験を学習装置で積んだだけなのかも。


「我々は完璧だ」


「ならその完璧っぷりを上回る!」


 もっと敵が現れる前に倒しちゃいましょう。

 持久戦は不利よ。


「やはり貴様が鍵のようだな」


「そう言えば聞きそびれていましたね。サファイアを狙う理由はなんです?」


「事情があるのなら、三人でついていくかも知れませんわよ?」


「そうね。まず話しなさい。三人全員でって条件ならついていくかもしれないわ。それとも無駄に消耗する方がいい? 効率悪いわよ?」


 ここは目的を聞き出しましょう。

 わたしを殺すことだけはしないはず。

 交渉の余地はある……はずよね。


「……本部の許可がいる」


「なら一時休戦。許可取りなさい。戦闘を避けて協力しかけている、とでも言えばいいじゃない」


 意外と融通効くのかしら。

 本当に連絡とり始めたわ。


「…………ある程度までは許可が出た。全員武器を下ろせ。話が終わるまではな」


 こっちもおとなしく武装解除。

 これで世界を救うとか、そういう目的があるなら馬鹿みたいねわたしたち。


「我々の目的は女神女王神の座と女神界。そして女神により世界を平和に維持することだ」


「そちらのボスの名前は?」


「話せん。これは話す機能もなく、我々には知らされていない情報だ」


 これはどうしようもなさそうね。

 知っていることだけでも聞きましょう。


「なぜ女王神とサファイアを狙うのです?」


「足りぬからだ。まだ完全な女王神ではない」


「意味がわからないわ」


「女神女王神ほどになれば不老不死で当然。その座が空くことなど滅多に無い。強さも全女神の中でトップだろう」


「でしょうね」


 そこまでは共通認識でしょう。

 問題はそこじゃない。完全なって何よ。


「だからこそ膨大にして無限の力と女神界を統治できる。先代は歴代最高峰の女王神だ。故に女神界の秘密と、特別な力による善政を敷いてきた」


「世界を管理する特殊能力狙い……ですかね? ではなぜサファイアが必要なんです? 人質にして女王神を呼び出そうとでも?」


「違う。揃わなければ権能が完全にならん」


「お願いだからわかりやすく話してちょうだい。適当に言い訳してない?」


「していない。これは簡潔に話せる問題ではない」


 どうも相当根が深そうね。

 これは解決できるのかしら。


「では両者を狙う理由はなんですの?」


「先代女王神は独身だ。浮いた話など一切存在しないし、想い人などいない。ならばどうして娘がいると思う?」


「どうって……」


「己から失われる力を分離し、未来を繋ぐために自身の才能と経験のすべてを備えた魂を作り出したのだ。つまり貴様は先代のコピー、いや上位互換となる可能性を秘めた存在なのだ」


 あまりにも予想外だった。

 何も考えられず、何から考えればいいのかわからない。

 今の自分がわからない。


「サファイアの天性の素質は凄まじいものがあります。三人の中で一番伸びるポテンシャルがある」


「しかしそれが女王神様の分身だからとは……」


「わたしが……コピー?」


「正確には力となんらかの鍵を二分した存在だ」


「鍵?」


「女神界を掌握し、女王としての全権限を行使する力だと推察されている」


 まず間違いなく立派で崇高な使命には使われないでしょうね。


「力を二人に分けることによって、今回のような革命で女神界を一気に掌握することができなくなった。してやられたよ。女王神の座さえ奪えばいいと思っていたからな」


 これは真実なの? もう何もわからない。


「これで話せることは全てだ。答えを聞こうか」


「やはりサファイアは渡せませんね」


 わたしの肩に、ローズの手が触れる。

 それで現状を思い出して我に返った。


「ええ、サファイアは仲間ですもの。悪事に使わせるわけにはまいりませんわ」


 わたしの前にカレンが立つ。

 守ってくれようとしている。


「あまり難しいことを考えないでください。あなたはサファイアなんですから」


「どういう意味よまったく……」


「今は倒してここを出るのですわ」


 ありがとう。ちょっとは落ち着いたわ。

 戦える。まだ一緒に戦える仲間もいる。


「あんたらとは一緒に行けない。わたしは今の女神界が好き。そして勇者の生徒だから。だから悪に加担はしないのよ!」


「ならば無理やりにでも連れて行く。我々の、いや私の力によってな」


 リーダーの武装女神に、他の連中が吸収されていく。

 取り込んでいる? 外見は変わらないのに、魔力だけが増幅している。


「これは……」


「貴様らの戦闘記録を手に入れてな。便利なものではないか、勇魔救神拳とは」


「やはり、先生の奥義ですか」


 先生が完成させた最高の戦闘術。

 それを模倣したのね。絶対的な差は感じない。

 こいつらに先生の技術を完璧に習得することはできないのね。


「ブリューナクボンバー!!」


「ケリュケイオン!!」


 カレンと遠距離同時攻撃。

 さっきのやつらならこれで倒せた。


「足りんな」


 両手で受け止められた。

 そう簡単にはいかないのね。


「では手を貸しましょう」


 ローズの魔力がブリューナクについている。

 それをロケットのブースターのように使って急加速。


「何い!?」


 敵の脳天直撃。これで倒れて欲しいところね。


「ぐ……よくも……」


「これは手間がかかりそうですね」


「真極拳!」


 何かとてつもない力がわたしたちを襲う。


「きゃあぁぁぁ!!」


 全員盛大に吹き飛ばされ、かなり後ろまで来ちゃったわ。

 幸いみんな無事。怪我は即回復。


「素晴らしい……これが勇者の力か!! 褒めてやろう!!」


 勝ち誇った笑みってやつね。気に入らないわ。


「今のは真極拳じゃない」


「ええ、先生の技はもっと無駄が無く、必殺の一撃」


「わたくしが生きている。やはり不完全な模倣ですわ」


「ぬかせ。ならばもう一度だ!」


 三人で全力の魔力波を撃ち出す。

 なんとなく攻撃が来る気がして、合図もなしにやっていた。


「なんか最初を思い出すわ」


「ヴァンパさんと戦った時ですわね」


「あの日も、こうやって力を合わせましたね」


 辛くても楽しい思い出ってのはあるもんなのね。

 今でも覚えているわ。

 記憶を呼び起こすと、力が湧いてくる。


「ディメンション・ゲイザー!!」


 真極拳とは違う、こちらの魔力波に干渉されない魔力が来る。


「これは……別次元からの攻撃!?」


「その通りだ。別次元より敵を観察して吹き出す間欠泉。対象以外には決して触れることの許されぬ攻撃だ!」


 魔力波で撃ち返すことができない。

 急いで飛び退くも間に合わず、全員壁に叩きつけられた。


「うああああぁぁぁ!?」


「うぅ……敵に使われると厄介極まりないですわ」


「これは……少々対策を練る必要がありますね」


「奥の手がこれだけだと思うなよ」


 次元の裂け目から、とてつもなく巨大な龍の頭部が出てくる。

 圧倒的な暗い魔力。こいつは危険ね。


「ペットにしちゃ趣味が悪いじゃない」


「こいつは魔王さ。昔どこぞの女神が使っていた技らしい。魔王に首輪をつけ、善行をさせることで囚人の刑期のようにして利用する。圧倒的な力を持つ女神だからこそ可能な技だ」


 確かに光る首輪がついている。

 女神が魔王を利用するとは、なんかもうなりふり構わないのねえ。


「これからは魔王も邪神も、女神が管理統括する! 世界が平和になれば消える存在を、我々で有効活用してやろうというのだ!」


 話しているうちに、敵の傷がどんどん消えていく。

 まずいわね。あいつ回復魔法も持っている。


「あの魔王、かなり高ランクですわ」


「こいつは不老不死。その力も絶大。決して壊れぬ盾であり兵だ。これが今後の魔王の形なのだよ」


「ほう、それで俺様に首輪をつけようとしたわけか」


「誰だ!」


 入り口から声がする。

 黒いタキシードにサラサラの銀髪。

 あの偉そうな俺様全開の態度は。


「特別講師だ。不在中の勇者に代わり、駄女神に訓練をつけてやれと頼まれた」


「ジン! どうしてここに!」


「駄女神め……今話しただろうが。師匠がしばし女神界を離れるというのでな。代役を頼まれた」


 ジンだ。先生の弟子魔王ジン。

 先生が臨時講師を依頼したらしい。


「龍魔王よ! あの愚かな魔王を食い殺せ!!」


「トカゲに用は無い」


 裏拳一発で粉々に吹き飛ぶ龍魔王。

 やっぱジンも化物枠ね。


「そんなっ!?」


「実にくだらん。女神というのは、本当に無駄が多いな」


「ならば勇者の技を喰らえ! 真極拳!!」


 打ち出される拳は、わたしでも止められない。

 あれは三人でやっと互角に打ち合える技。

 そんな拳に指を一本突き出して。


「真極拳返し」


 武装女神が吹き飛んだ。


「ガハアァ!?」


 壁に激突し、うつ伏せに倒れている。


「同質であり正反対の力を打ち出した? 器用な魔王ですね」


「最強の戦闘術では……なかったというのか……貴様のそれは何だ!!」


「アンチ・ブレイブアーツ。勇魔求神拳を破るため、ただそれだけのために開発した、俺様オリジナルにして究極の戦闘術だ」


「そんなものを隠していたとは……」


「師匠が勇魔救神拳を使わんからな。出す機会も減るというものよ」


 あの人殴れば全部解決できちゃうもんね。

 そりゃせっかく作っても機会なんかないでしょうよ。


「ディメンションゲイザー!!」


「避けるまでもないな」


 真正面からくらって無傷。

 そのまま指からのビームで敵の肩を撃ち抜いた。


「小細工は無意味だ」


「女神ならまだしも……魔王ごときに負けるはずが……」


「知らんのか? 魔王を倒せるのは、勇者だけだ」


 膨大で、存在そのものが悪と暴力の権化のような魔力が渦巻く。

 なんかジンめっちゃ怒ってるわね。


「ところでザコ女神よ、この俺様の師匠の技を汚したのだ」


 轟音とともに、敵へとジンの拳が突き刺さる。


「半端な死に方ができると思うなよ」


 そこからは実に魔王だった。

 先生の技はすべて返され、素の実力では圧倒的な差がある。

 為す術もなく徹底的な暴力により叩き潰され続けていく敵。

 呼び出した魔王はどれも一瞬で蒸発し、援軍の役目を果たせない。


「終わりだ」


「や……め……」


 頭を掴まれ、黒い炎に焼かれて消えていった。

 敵とはいえ少し同情する。

 そして強い。先生との戦いも見ていたけれど、こいつやっぱり強いんだ。


「さて、行くぞ駄女神ども」


「行くってどこへ?」


「課外授業だ。俺様が修行をつけるのに、今回の騒動はちょうどいい。次に師匠に会う時までに、今よりも遥かに強くなってもらうぞ」


 どの道今のままじゃ敵に倒されるだけ。

 ジンといれば、少なくとも戦力的には十分でしょう。

 ならあとは強くなるだけ。


「いきましょう」


「いいわ、これも授業。なら先生みたいにちゃんとやるのよ!」


 必ず助け出す。そして世界を平和にしてみせる。

 見ていてね、先生。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ