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異世界を数百個救った勇者の俺は駄女神学園で先生をしています  作者: 白銀天城
第三部

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90/110

現地勇者とボスと魔王

 お仕事見学に訪れた女神空間で、さらに授業は続く。


「はいじゃあ勇者パーティーが休憩中です。おそらくボス戦だが、何かしてあげるとしたらどうする?」


 溶岩の流れる広々とした洞窟である。

 結界を張って、最深部にいくまでの僅かな休憩時間。

 実体験だが、ここで休めるかで難易度はかなり変わる。


「暑いんだし……給水所の設置とか?」


「マラソン大会じゃないんだぞ。基本的に敵地だ。あったらおかしいだろ」


「水分だけでなく、塩分もとれるようにしましょう」


「給水所っぽい発想は捨てろ。施設はありません」


 大前提として、敵がいる洞窟なんだよ。

 人工的な施設あったらおかしいだろ。

 古代遺跡っぽいものは除外な。


「湧き水の出る場所を探す?」


「悪くはないが……もう下の階がボスだ。引き返すと体力を使うし、都合良くあるかどうかわからない」


「じゃあ先回りして掘っておくのね!」


「できねえよ! できてもやるな! 環境を大きく変えたりしないように。辻褄合わなくなるぞ」


「いっそ全ダンジョンに掘っておいたらどうでしょう?」


「大掛かり過ぎるわ。専門の業者がいるだろそれ」


 地形を変えたり、今まで無かったものを急に作ると現地人が混乱します。

 便利だからいいじゃんと思っていると、いらんトラブルになるので注意しましょう。


「あの場所は暑いはず。水も沸騰しているのでは?」


「そこは氷魔法とかで冷ませる。問題はそこじゃない」


「といいますと?」


「飲水に適しているかどうかだ」


「あっ! そっか人間ってそんな感じよね!」


 川の水は、一見綺麗でも腹を壊す場合がある。

 人間はデリケートだ。気をつけましょう。


「一応勇者パーティーには加護をかけてありますが……」


「そうじゃない場合も想定して考えさせてる。こいつら飲ませそうだし」


「確かに危険ですわね」


「意識の差は埋めておきましょう」


 人間の生態を勉強させておいてよかった。

 これからも人体の不思議とか注意喚起の授業はしよう。


「ちなみに先生は?」


「俺は問題ない。鍛えたし、全状態異常無効化するし、口にすれば100%栄養に変える。危険な水だろうがマグマだろうが水銀だろうが美味しく飲める」


「本当に人間ですか?」


「その反応も久しぶりだな」


 だってそうしなきゃ救えない命とかあるかもしれないじゃん。

 だったら鍛えておいて損はない。勇者だからな。


「はいあと必要なものってなんだろうな」


「セーブポイント?」


「ねえよ! ゲームじゃねえんだぞ!」


「えー全回復できるセーブポイントってお約束じゃない?」


「現実にセーブとかロードはない。よってセーブポイントもない」


 このゲーム脳め。あんなもんホイホイあってたまるか。


「本当にないのですか?」


「なに?」


「先生なら作ったことがありそうですわ」


「………………いやまあ」


 痛いとこ突くじゃないさ。

 昔作ったよ。もし死んでも今の強さのまま、ノベルゲームみたいに好きな場面からやり直せる。

 作った頃から一度も死ぬっていうかダメージすら食らったこと無いけども。


「やっぱり作ったのね」


「使ったことはない。設定めんどいから、今後も使うことはないと思う」


 あれは使っても面白くない。一回でハッピーエンドにすりゃいいんだよ。


「使えば冒険は楽になりますよね? そんな便利な機能、使わないんですか?」


「この人を殺せるということは、すなわち全世界の終わりを意味します。どうせあっても無意味なのですよ」


「どういうことですか……」


「別に死んでも死んだまま邪神くらい殺せるしな」


「どういうことですか!?」


 話が逸れたので戻す。俺のことはどうでもいいんだよ。


「いいからちゃんと考えなさい」


「じゃあ女神の力で回復してあげたりできないの?」


「できるが、頻繁にやるとそれ頼みになる。どうせ回復できると甘えると危険だ」


「アイテムを渡す方式ではどうでしょう?」


「詳しく聞こう」


 真面目な話はちゃんと聞こうね。俺は教師なんだから。


「女神の加護により、ダンジョンでも数回なら休める浄化ポイントを作るのです。ゲームで言えば回復魔法陣やテントのポジションですね」


「なるほど……いいんじゃないか? 乱用できると危険だが、休むだけなら横着もできないし」


 悪くない提案だ。極端に強くなったりしない。

 だから超強敵に挑めないし、油断して負けることもないだろう。


「広くて敵のいない場所を探さないと、使えなくすればいいのですわ!」


「そうね。一日何回までって制限はつける?」


「つけなくてもいいが、あまり過信して欲しくはないよな」


「結界を破るほどの敵に対処できませんものね」


「出入り口を塞がれると危険です」


「ああ、そこも気をつけないとな」


 下手に便利グッズを渡すと、何か穴があった場合に対処できない。

 無けりゃ無いで不便だけども。


「今回のボスを倒せたら、ご褒美に女神の力が使えるようになったとか言っ、てこっそり渡せばいいんじゃないか?」


「こちらとしては助かりますが、いいのですか?」


「手伝いをしろって言われたしな。んじゃティーナにこれを渡しておく。頼んだぞ」


 錬金して腕輪にした。四人分作ったので、パーティー全員に行き渡るぞ。


「はい! 必ず役立てます!」


「あとは勇者が勝てばいいんだが……」


 ボスは溶岩と炎が混ざった人型の敵。

 三メートルくらいあるな。そこそこすばやく動くし。


「厳しそうですね」


「高熱で鍔迫り合いもできんしなあ……殴り合いのできない敵ってのは厳しいだろう」


「でも攻撃は当たるんでしょ?」


「そういう武器です。ただレベルが30程度なので、炎に完全には耐えきれません」


 水も少量では効果が薄い。でかい氷をぶつけると怯む。

 まあ悪くはない塩梅だな。死ぬ気でやりゃ勝てる相手だ。


「頑張れ勇者ー!」


「攻撃をよく見るのですわ!」


「冷静に、魔法で応戦してください」


 聞こえていないのに応援している駄女神一同。

 勇者の接戦を見るのが初めてか。

 これもいい経験になるだろう。


「あっ、溶岩に入って回復してる! ずるい!!」


「厄介な敵ですね」


「一気に倒すしか無いな」


 敵めっちゃ有利なフィールドだな。

 さてどうする勇者一行。


「お、なんか作戦あるみたいだぞ」


 まず前衛の二人がダメージを与えていく。

 その間に後衛の一人が足元に魔法をかけているな。

 どうやらボスのいる地面を盛り上げる土魔法だ。


「何をするつもりでしょうか?」


「負けんじゃないわよー!!」


 ボスの足場が五メートルくらい上に伸び、その場を離れようとする間もなく、前衛二人に足場を崩される。


「考えて戦ってんなあ」


 空中に放り出されたボスを、一気に四人の氷結魔法が凍らせる。

 そこへ全員で総攻撃し、地面につく前に粉々に砕ききった。


「ナイス判断。いい勝負だったぜ」


「やったー! やるじゃない!」


「この世界の勇者は優秀ですね」


「素晴らしいですわ!」


 勇者の勝利を喜ぶ女神たち。

 そうそう、そういう連帯感とか思いやりも学んでいくのだ。


「ん? 何だあれ?」


 倒したボスの魂が消え、奥の部屋で何かのアイテムをゲットしている。

 そこで洞窟から天へと昇る赤い光。

 何かを知らせるような、狼煙っぽいもんだな。


「なんか出たわよ!」


 勇者パーティーから少し離れた位置に現れる、黒い全身鎧の騎士。

 そして黒い六枚羽の天使。


「魔王軍幹部!?」


「なんだと?」


 どうやら幹部にボスの死を知らせるものだったらしい。

 まずいな。あれ今の勇者じゃ勝てないぞ。


「まだ勝てる相手じゃないぞあれ」


「女神の力で、せめて入り口まで緊急転送します!」


「急いで! なんか戦闘始まりそうよ!!」


「勇者よ、入り口まで女神の力で飛ばします!!」


 言うが早いか勇者たち四人を入り口まで飛ばす。

 助かったと一息つく間もなく、幹部二人も転移してきた。


「うっそ!? そんなのありなの!?」


 まずいな。そういう魔法に精通した敵かよ。


「しょうがない。ちょいと問題になりそうだが、俺が助けに……」


 その時だ。女神の作った空間にすら直接届く、膨大な魔力を感じた。


「何だ? この世界の魔王か?」


「なにこれ……簡単な異世界じゃなかったの?」


 あの幹部共の魔力じゃない。わけのわからん魔力が渦巻いている。


「おいおいそこらの邪神が出せる魔力じゃないぞ」


「こんな……こんなの知りません……」


「あちらへの転移魔法陣を作りました。いきますよ先生」


 ローズにより転移魔法陣完成。

 こうなりゃ行くしか無いな。


「ナイスローズ。じゃあお前らはここで……」


「なにしてんの! さっさと助けに行くわよ!」


 サファイアが俺の手を引き、この場にいる五人全員で転移した。


「お前なあ……危ないからじっとしてろって!」


「だって勇者が危ないんでしょ!」


 急いで周囲を確認すると、勇者たちは無事。

 鎧の男はズタボロに切り裂かれ、頭を踏み潰されて消えるところだった。

 黒いマントにタキシード。なんだかとても偉そうで、なんかどっかで見たことある気がするぞ。


「どういうこと? 敵じゃないのあいつ?」


 黒タキシードの男が勇者に何か見せて喋っている。

 敵意がない。正体不明の男により場が乱れに乱れているようだ。

 黒い天使が音速を超えて動き出す。

 男が自分に背を向けていることを、チャンスだと思ったのだろう。


「うろちょろするな、羽虫」


 男は心底鬱陶しそうな目で右手を軽く振り、虫をはたき落とすような動作で天使を破裂させた。

 おお、なんかあいつ強いぞ。


「何あいつ……強い……」


「この世界の魔王でしょうか?」


「知りません。魔王とは完全に別の存在……見たことがない、正体不明の敵……?」


「ん? 女神の気配……それも複数いるな」


 こちらに気付き、体ごと振り返る男。

 その動きが、こちらを見て完全に固まった。


「どうしたのでしょう?」


「女神に怯えている……ようには見えませんわね」


「クッ……クックック…………フヒャハハハハハハハ!! ハーッハッハッハッハッハッハッハ!!」


 なんか大笑いし始めたぞ。

 やっぱり見覚えがある。なんだか遠い昔に会ったような。


「見つけたああああああああぁぁぁぁぁ!! ついに! ついに見つけたぞ勇者ああああぁぁぁぁ!!」


 更にハイテンションで叫び始める。うるさいよ。

 現地勇者が完全に引いてるだろ。

 駄女神も引いてるじゃねえか。


「ようやく! ようやく会えたなあああぁぁ!! 救いたくもない異世界を散々救わせおって! さあ約束だ! 俺様にリベンジさせろ!! 師匠おおおおおぉぉぉぉぉ!!」


「師匠?」


 約束。リベンジ。異世界を救う。あの俺様全開な態度。俺の記憶が呼び起こされる。


「思い出した。お前……ジンか?」


「いかにも!! 超究極無限永久最強唯一無二激烈魔王神ジン様だああぁぁぁ!!」


 まーた懐かしいやつが出てきたもんだな。


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