ビルでの戦闘訓練でも駄女神だよ
いつものメンバーで、巨大VRルームへ。
そして十階建てのビルを出す。
一階入り口で説明開始だ。
「今回は三人で競争してもらう」
そう言って空中に立体映像の見取り図を出す。
このビルの構造と、ちょっとした試練ポイントも書いておいた。
「おおー、なんか面白そう!」
「競争と言っても潰し合いじゃない。最初に最上階、屋上じゃなくてな。最上階までたどり着いたやつの勝ち。直接的な妨害は禁止」
「アスレチックのようなものですか」
「近いな。俺が作ったNPCもいるから倒して進め」
「了解!」
そしてビルの一階からスタート。
自動ドアを通って開幕ダッシュする駄女神。
「こういう時は最短で広いルートよ!」
「非常口から行きましょう」
「ではお供いたしますわ」
近場の階段にダッシュするサファイア。
非常口からそっと侵入を試みるローズとカレン。
「ふっふっふ……必殺女神ショートカットオオオォォォ!!」
天井に向けて攻撃魔法ぶっ放してやがる。
だが甘い。そんなことは想定済みさ。
「うっそ!?」
「防御魔法で固めてある。天井と床は壊れないぜ」
丁寧にスピーカーからアナウンスしてやる。
俺は最上階にいるだけで暇だからな。
「ええいやってやろうじゃないの!!」
「がんばれー。そこから銃撃来るぞー」
「見切った!!」
マシンガンタレットによる銃撃をかわし、魔法で破壊しながら進む。
「やるね。死角に配置しているはずだが」
「なんとなくわかる!」
勘の良さが上がっているのね。
加護を使いこなしているようで何より。
んじゃローズたちを見てみるか。
「これははずれでしたか」
「明らかに警備が厳重ですわ」
非常階段は外についている。
そこには鉤爪装備の黒服集団が待っているのだ。
「狭い場所での戦闘は不利ですね」
「相手の数がわかりませんものね」
階段の踊り場で戦闘中か。
爪は足場の少ない環境で、引っ掛けてぶら下がる事もできて便利なのだ。
「室内に行くしかありませんわ。ええい!!」
近場の鉤爪を超能力で浮かせ、外側に張り付いているやつを落下させている。
「さて、NPCにどこまで通用するか知りませんが、階段は熱しておきましょう」
高温の炎にて階段を炙り、二人揃って室内へ。
意外と戦闘法がえぐいぞ。
「さあそのエリアはしんどいぞ」
来た道に隔壁が降り、背後からどんどん壁が増えていく。
「閉じ込められますね」
「走るしかありませんわ!」
猛ダッシュで抜けていく二人。
上への階段を抜けた先は、赤外線センサーの網である。
「これはまた……」
「どのみちこれでは抜けられませんね。試してみましょうか」
そう言って透明になるローズ。
体温とか諸々まで消えるので、実はそれで突破できる。
「素晴らしいですわ」
「行けそうですね。装置はこれですか」
無事赤外線装置の元を破壊完了。
こいつらは中々順調だな。
続いてサファイアを見てみよう。
「いいこと思いついたわ!」
そしてやって来たのはエレベーター前。
だがそれは当然罠だ。さあどうする。
「ふっふっふ。わたしを舐めるんじゃないわよ」
エレベーター内部のボタンを押し、何故か外に出る。
そもそも一階のボタン押してやがるぞ。
「いってらっしゃーい」
普通に見送りやがった。こいつの意図がわからん。
「はいせーの!!」
突然閉まった扉をぶち破りだした。
「せい!!」
そして箱を吊っているワイヤーを切断。
でっかい音を出しながら、エレベーターさんが一階に落ちてぶっ壊れました。
「何やってんだこいつ?」
「女神跳躍! アンド飛行!!」
空洞となったエレベーターの通り道を、上に向かってまっすぐ飛行していく。
「ふっふーん。ここに罠とか仕掛けらんないでしょ!!」
「うーわきったねえこいつ!!」
エレベータートラップは、各階に行くと自動で扉が開き、敵が現れるというもの。
つまりこんな力技というか、外道技で進むことを想定した作りじゃない。
「ここが最上階ね! 女神雷砲!!」
内側から扉をぶっ壊し、最上階の通路へ躍り出る。
こいつずるいわ。どんな起点のきかせ方よ。
女神の所業じゃねえな。
「だがこの通路はしんどいぜ」
警備ロボットが控えている。
そして床が後ろに下がる移動床。
そこへ銃撃がどんどん押し寄せるのだ。
「わっわっ、あっぶない!」
「さあどう出る?」
「むうう……まずロボを倒す! 圧縮女神砲!!」
とりあえず敵を倒す方向だな。
まあそれはいい。だが奥の召喚魔法陣を壊さないとロボは止まらないぞ。
「なんで増えるのよ!」
女神ってのは飛べるやつが多い。
だから対策としてロボ弾幕がある。
銃撃を捌いて先へ行かないといけない。
「ブリューナクボンバー!!」
そして起こる大爆発。だが通路は壊れない。
ここは最終関門。ちょっと頑丈なのさ。
「インフェルノブラスター!」
炎の螺旋がロボと魔法陣にかけた結界を壊す。
「今です、カレン」
「お任せですわ!」
魔法陣を引き寄せ、無効化能力で消している。
凄いな。魔力の塊を超能力で引っ張ったのか。
「あんたらいつの間に……」
ローズとカレン到着。
気づいていなかったようだが、実はサファイアの戦闘は観察されていたのだ。
「戦闘は見せてもらいました」
「おかげで対策も練れましたわ」
「なんかずるい……」
一番ずるかったのはお前だぞ。
そして全関門を突破し、俺のいる部屋へとやって来た。
「おめでとう。クリアだ。っていうか三人同時かい」
「まあわたしにかかれば楽勝よ!」
「女神の成長速度を甘く見ないことです」
「でも疲れましたわ」
「んじゃ飯食いながら反省会だ」
食事は作ってある。
戦闘は録画したので、大画面で見ながら話す。
「各自能力の使い方に上達が見られる。工夫もできている」
「相変わらず料理の腕が凄まじいわね先生」
「肉のおかわりを希望します」
「ちゃんと聞けって」
飯に集中してやがる。
先に食い物を与えたのは失敗だったかも。
「途中のトラップは発想力の問題だ。力技以外での突破を考えるように。あとサファイア、お前ほぼ反則だからな」
「なんでよ?」
「こんなん無茶だろ」
エレベーターぶっ壊すシーンを流す。
「これはないと思いますわ……」
「効率的ではありますが……」
二人とも引き気味である。
別に裏技禁止ってわけじゃない。
最初から抜け道を覚えると、自力が育たないのだ。
「こういうのはもっと育ってからやること。今は基礎能力を高めなさい」
「はーい」
「ま、成長していることは認める。個々の判断はできているようだし、戦闘面じゃあ勇者の邪魔にはならないだろう」
「これでもまだクリアには足りないということですか?」
「初心者勇者とかならアドバイスもできるだろうけれど……魔王討伐までは不安だな」
最終目的は世界を救うこと。
だが複雑な世界は担当するべきではないだろう。
したがって魔王倒せばいい世界へと飛ばすのだ。
「魔王ねえ……そんなに魔王って強いの?」
「んなもんそいつによるだろ」
「ならば一番強い魔王とはどういうものですか?」
言われて少々考える。
まず強い魔王という存在を覚えていない。
遠い遠い昔にいた気もするが、もう記憶の彼方だし。
「うううむ……ああ、いたいた」
たった一人だけ、なんとか思い出した。
そういやまだ死んでいない魔王がいたな。
「昔たった一人だけ、魔王を弟子にしたことがある」
「何やってんのよ……」
「多分だけど、今でもそいつが一番強いよ」
「今でも? 生きているのですか?」
「ああ、もう悪事はしてないってかできないよ。善行積めば、どっかの世界で会ったらリベンジさせてやるって約束もしたし」
そうそう思い出してきた。
なんか見込みがあって、変わったやつだったからな。
弟子にしたらめっちゃ強くなったんだ。
「忘れっぱなしですか」
「異世界で偶然出会うってことも無いよな。よく考えたら」
「こうして女神のことも忘れていくのですね」
「人聞き悪いぞ。別に忘れてないって」
ちゃんと思い出せるよ。うむ、大丈夫だ。
まだまだボケる歳じゃない。きっと。
「美由希のことは忘れていましたね?」
「あれは成長しまくってたからだよ。中学生が成人女性みたいになってたらわかんねえの」
「まあ……それはわかるわ。人間とか凄いスピードで老けるわよねえ」
「女神は不死のやつばっかりだからなあ」
「やはり先生のような超人こそ女神といるべきですね」
「駄女神だけは勘弁してくれ」
最近ずっと駄女神だったぞ。
駄女神がいるからピンチな世界なのか、ピンチな世界は駄女神じゃどうにもできないのか。
あまり考えないようにしよう
「はい、飯食ったら帰るぞ。次の授業までにスキルは磨いておくように」
「はーい」
今はこいつらを鍛えるのみ。
次の授業内容を考えながら、ぼんやり今までの女神との旅を思い返し、なんだかちょっと懐かしくなった。
ちゃんとこいつらも立派な女神にしてやろう。




