スーパーロボットでも駄女神だよ
よく晴れた空……を遥か足元に眺め、俺たち四人は宇宙へ来ていた。
「はいじゃあ今日はスーパーなロボットに乗るぞー」
今回の授業は宇宙でのロボ戦。全員宇宙で生きていけるので問題なし。
「仮想勇者の話はどうなったのよ?」
「今それっぽいゲームから選んでる。もうちょっと待て」
「また信長出ないでしょうね」
「信長は前回出したろ。次は秀吉だよ」
「それもどうかと思いますわ」
秀吉は却下されました。家康あたり探すかな。
あいつ基本的に主役はらないからなあ。探すのも難しいんだけど。
「で、ロボット乗るんでしょ?」
「おう。異世界には宇宙でドンパチやってるタイプもある。だからロボだ。宇宙艦隊の司令官とかも考えたが、今回は単機で戦闘にしよう」
そしていかにもなスーパロボットを複数出す。
昔俺が乗っていたやつを再改造した。
「スーパーなロボットにもいくつか種類がある。一人乗りや、合体して複数で乗るもの。不思議な動力で動いているもの」
「武装とか機体がいっぱいあるやつはないの? プロトタイプとか、量産型で地上と宇宙で型が違うやつ」
「それはリアルなロボットだな。実弾とかビーム兵器で戦争とかするやつだろ」
「ビーム出せる二足歩行ロボがリアルですの?」
「そこにつっこむのはやめろ。ストーリーがリアルとかあるだろきっと」
そいつは触れないお約束だ。
多分メカの仕組みとかそういうのが理論的というかそういう雰囲気だよ。
「そっちは操縦が難しいんだよ。レバーやペダルで簡単操作とはいかない。音声認識もない。だからパイロットの意思である程度動かせて、壊れにくいロボにした」
「順番に慣らしていくということですか?」
「そういうこと。んじゃどうする? 全員で一つのロボに乗るか?」
「私は詳しくありませんし、サファイアに任せます」
「わたくしの担当世界もファンタジーでしたので、サファイアのセンスに委ねますわ」
そう言われて少し悩むサファイア。
こいつなりに仲間のことでも考えているのかね。
「んー……ねえ、三機で合体するんだけど、その前も人型のロボってないの?」
「あるぞ」
「んじゃそれでいいんじゃない? 両方遊べるでしょ」
「一応授業なんだが、まあいいか。んじゃこいつでどうだ」
選択したロボは、シンプルに全身黒で、赤いラインが入っているもの。
腕も飛び出すし、胸からビームも出るぜ。
それが分離して三機になる。
「好きなやつに乗れ」
サファイアが赤。ローズが青。カレンが黄色の機体だ。
どれも人型で、二十メートルくらい。
赤はツノつき。つまりリーダー機だ。
「全員乗ったな? 操縦席に両手を乗せる球体があるだろ」
左右に球体の埋め込まれたテーブルみたいなものを設置。
これに念を送れば動く。シンプルでいい。
「これね」
手を触れて魔力を流し込むと、ロボの目が光る。
この覚醒する感じにロマンがあります。
「全方位が見えますね」
「ああ、そういうモニターにした」
前後左右上下がしっかり見えるタイプだ。
透明な地球儀の中央にイスとコンソールがあるイメージ。
「テーブルに簡易マップと味方の識別信号出てるか?」
「出てますわ」
「よし、あと魔力回線で内部を監視している。脱いでもバレるぞローズ」
「仕方がありませんね」
パイロットスーツを脱ごうとするローズに釘を刺す。
隙あらば脱ごうとしやがって。
「じゃあまずは前に動いてみよう。あの赤い旗に向かって進め」
少し先に赤い旗ははためいています。旗だけに。
「先生、なにか余計なことを考えていませんか?」
「すまんかった。簡易マップにも位置情報が出るだろ? 照らし合わせながらゆっくり……」
「はっしーん!!」
「ゆっくりつってんだろ!」
勢いよくブーストかけて飛び出していくサファイア。
こいつにおもちゃを与えるとこうなる。
「なかなかまっすぐ飛びませんね」
「ゆっくり進めばいいのですわ」
ローズとカレンはちょっと手間取っている。
理屈で動くローズには、こういうのは難しいのかも。
カレンは慎重に慣らしているな。
「ブースト全開!」
「ゆっくりいけや!」
「なぜサファイアは飛べているのでしょう?」
「あいつ感覚十割だし」
こういう感覚だけの操縦は初見でも得意らしい。
あいつは本当に野生児だな。
「背中のブーストを羽とかそういうもんだと思え。ロボのイメージが強いなら、ゲームとかでぶわーっと飛んでるあれだと思えばいい」
「どちらもサファイアの得意分野ですわね」
「無駄な才能にあふれていますね」
「サファイア一回戻すぞ」
「戻す?」
「ここまで転移させた。お前ちょっとコクピット変更な」
サファイアを機体ごと強制転移。さらに俺が内部へ瞬間移動。
「わ、急に入ってこないでよ」
「悪いな。内装変えるぞ」
内部を操縦桿とボタンにペダルへと変更。
多少のプログラムは残し、ちょっとリアルな操縦室へ。
「よし、これでやれ。説明は……」
「長くなる?」
「まあな。よければ頭に直接流す」
「じゃあお願い」
ヘルメット越しに額に手を当て、こいつが理解できる最低限の操縦法を教える。
これなら分厚い説明書も、長ったらしい口頭も不要だ。
「じゃ、あとはやってみるように」
「了解!」
『先生、こちらも終わりました』
サファイア機に通信がかかる。
モニター画像をアップにすると、旗に二人の機体が到着していた。
「よし、よくやった。次はデブリをばらまく。うまく避けて俺のいるところまで戻れ」
『了解ですわ』
「じゃ、お前も頑張れ」
「当然よ! 発進!」
宇宙へと転移し、サファイアを見送る。
斜め下方向へ進んでは、上に戻り、蛇行運転を繰り返す。
「ああもうめんどい!」
「慎重にな」
ペダルとレバーの微調整ができないのだろう。
ブーストも使いすぎればオーバーヒートっぽく停止するようにした。
「ぬわー! なんで止まるのよー!」
「さて、あいつらは……」
「ふっ、せい! はあ!」
腕のパイルバンカーと肩のキャノンでデブリを破壊しつつ、まっすぐ進むカレン。
そういや接近戦タイプの装備だったな。
「いやできれば避けてくれ。破壊訓練じゃないぞ」
「あら、失礼いたしましたわ」
カレンも微妙に脳筋なんだよなあ……武術とか教えすぎたかも。
あれは避けることができなければ、砕けばいいとか考えているのだろう。
「ううむ、そういう思考になるか」
「誰かが魔王も邪神も殴れば死ぬと言っていますからね。影響を受けたのでしょう」
「俺のせいか?」
「否定はできないでしょう?」
「確かに」
ローズは操縦に慣れてきたのか、デブリを避け、時には蹴りながら進む。
慣れればそつなくこなせるのも、ローズのいいところだ。
「謎ですね」
「何がだ?」
「パイロットスーツを着ているのです。宇宙服に近いとはいえ、服の効果が出ていない……」
「ああ、それその服がカットしてる。俺がそういう効果つけといた」
ローズが操縦に手こずっていた原因はそれである。
そういうスーツを作っておいた。
「何故そんなことを?」
「ちゃんと服の効果なしで動けるようになって欲しいから」
「これも訓練ですか」
「そういうこと。よし、二人のコックピットに失礼」
分身して両方に転移。ささっと内部を変更。サファイアと同じものに。
ついでに二人の疲労度とか検査して、問題なし。
分身消して、宇宙へ再転移。
「んじゃここからは感覚より理屈だ。頑張れよ」
「了解です」
「了解ですわ!」
ローズの動きが目に見えて良くなる。
逆にカレンはちょっとぎこちない。
「クセが掴めませんわ」
「ああ、そのへんは一律にやった。OS書き換えても良かったんだが、一番フォーマルなやつに慣れて欲しくてな」
個別に最適化されたOSにしようかとも思ったが、異世界で一番使われているシステムの基礎を知ってもらい、そこから応用を覚えてくれたらいいと思っています。
「習うより慣れろよ!」
悪戦苦闘していたサファイアも、なんとか操縦に慣れてきたようだ。
「こういうのゲーセンでやったことあるわ!」
「そうきたか」
運転に支障がなくなったようだし、次の課題に移ろう。
動かない巨大な木人形を出す。
「宇宙空間ってのは意外と戦闘が難しい。各自そこらへんに散らばる人形を撃破せよ」
「了解!」
移動はよどみなくできるようになったらしい。
素早く距離を詰め、攻撃に転じるサファイアとカレン。
サファイアの機体は、ビームの刃がついた槍と、腰に二丁あるビームガンだ。
「うりゃりゃりゃりゃ!!」
「いきますわよ!」
「狙い撃ちます」
ローズの機体は遠距離特化のライフルやマシンガン付き。
スピードで撹乱して、正確な射撃で戦うのだ。
「ふむ……実弾とは違った感覚ですね」
「ひたすら撃って慣れろ。慣れたら上下左右から攻撃できるようになるといいぞ」
「ふりかけキャノン!!」
「何出してんだ!?」
キャノン砲からふりかけが出ている。
そんな機能つけてないぞ。
「出る瞬間にふりかけに変換してみましたわ!」
「せんでいいせんでいい。普通に撃つ練習してくれ」
「残念ですわ……」
そんなこんなで訓練は続き、そろそろメインイベントにいってみることにした。
「よーし、じゃあ合体してみろ」
「なんか掛け声とかある?」
「決めてない。女神合体とかでよくね?」
「そこはかとなく卑猥ですね」
「そういう意味じゃないっつうの」
卑猥な意味はありません。女神が操縦するロボットが合体するだけです。
「変形合体! 女神……メガミリオン!」
「安直だなおい」
「メガとミリオンと女神がかかっていて強そうに聞こえるでしょ?」
「その気になれりゃなんでもいいさ」
そして合体訓練が始まった。
うまくいったら、あとは仮想敵でも倒させて、今日の授業は終わりにしよう。




