第三部 そして駄女神の先生に戻る
イヴとの色々があってから三日後。
いつもの教室、いつもの三人組。今日もまた授業が始まる。
「はい授業するぞー」
「今日は何するの?」
「そうだな……最近戦闘ばっかりだったし……勇者と女神について、あと勇者パーティーについてかな」
「そういえばパーティーとかあるのね」
「必要なのですか?」
「俺を基準にするな。見習い勇者ってのは弱いか、現地の知識がないんだよ」
異世界を救うための存在で、加護ももらえるが、サポートが必要だ。
それを女神だけでやるか、パーティーに任せるかである。
「基本的に勇者は別の世界から呼ぶ。その場合、女神が一緒に行くパターンもあれば、女神界からアドバイスするやつもある」
「わたくしのように、異世界に女神ルームがある場合もありますわね」
「そうだな。初めて会った時はそこだったな」
このように結構な選択肢がある。
俺は女神を鍛える目的で同行させたりした。
結構なレアケースらしいよ。まず女神より強い人間が少ないんだってさ。
「というわけで、勇者と旅に出るつもりで考えてみよう。いると冒険で助かる人材とは?」
「お金持ちとか?」
「いや助かるけどさ!? いきなりそれか!」
「欲しいゲームとか買ってくれそうじゃない?」
「世界によっちゃ格ゲーとかないぞ」
「…………それはちょっと……厳しいわね」
お前は異世界に何をしに行くつもりなんだよ。
観光じゃないんだぞ。いや俺が言うとなんか説得力なくなっちゃうけど。
「旅で必要な人材だ」
「ずばり一流シェフですね」
「……否定しづれえなあもう」
その世界の食材に詳しく、料理ができるものというのは案外貴重である。
しかも旅についてきてくれるやつ。
「まあお役立ちキャラは大切だよな」
「一流の執事さんとかいいかもしれませんわよ」
「執事って万能なイメージだもんな」
「執事とシェフが雇えるお金持ちがいれば完璧ね!」
俺は教育を間違ったのだろうか。
いやでも旅の役には立つだろうし、貴族とかと仲良くなる展開ってのはお約束だし。旅には本来金がいる。あれえ、どう答えるといいのかなこれ。
「いや待て待て。そうだ、戦闘どうするんだよ?」
「勇者が倒せばいいじゃない」
「俺を基準にするなって。勇者はレベル1を想定します。そこに加護を与えてください。加護は一個です」
「その加護でぶっ飛ばせば?」
「レベル1ですか……参考までに、先生なら十秒で何匹まで邪神を消せそうですか?」
「そりゃ目につく限り無限に……違う違う! 普通の勇者レベル1ってのは弱いの! ドラゴンに負けます!」
いかんぞ。こいつらの中で、勇者が殴れば邪神消せるやつで固定されている。
「嘘でしょ……?」
「ドラゴンなら女神でも倒せますよ?」
「いやだから女神は強いから……意識改革が必要だなこりゃ」
「あはは……大変ですわね先生」
俺と冒険していたカレンだけは、まだまともな感覚である。
本当にオアシスと化してきたな。
「勇者ってのは徐々に経験を積んでいく。そのためには相棒が必要だ」
「それを女神にやらせるわけですね」
「まあそれは最近増えたケースだな。昔は天の声っぽい感じで助言とかしていたらしい」
「それ楽そうでいいわね」
「横着すんな。そんなわけで欲しい人材をちゃんと考えろ」
こいつらに任せると、とんでもないやつを仲間にスカウトしそうで不安だ。
今のうちに常識を身に着けさせよう。
「強い人がいいわね。弱い勇者をカバーするの」
「そうだな。いい案だ」
「つまり強くて料理ができて、お金持ちの人がいいわね」
「一つにまとめるな。そんなやつがホイホイいるわけないだろ」
「家事ができて、年収五百万くらいで妥協しましょう」
「婚活か! 結構高望みだぞそれ!」
ダメな婚活の王道だろ。誰がそんなん考えろと言った。
「わたしを一生養っていけるゲーム好きの……」
「婚活じゃねえんだって! 戦闘を考慮してパーティーを決めろ!」
「参考までに、先生が婚活で相手に求める条件は?」
「何の参考だ!」
「これは聞いておくべきですわ」
「なぜに!?」
こいつらも女神とはいえ女だ。もしかしてそういうことに興味があるのかも。
別に男に興味があるタイプとも思えんが。
っていうか授業が進まんな。
「考えたこともない。そもそも不老不死で天敵がいないもんでな。そういうもんが欲しいと思えんのさ」
「道は遠いですわ……」
「先生も意識改革が必要ですね」
なんか変な空気になりました。
長いこと勇者やっちゃいるが、いわゆるハーレム状態になった思い出はない。
あれってかなり特殊な状況なんだろう。
「勇者は魔法タイプですか?」
「ん? あー……そうだな、今回は近接戦闘主体でいこう。アタッカーだな」
「では私のように優秀な魔法使いが必要ですね」
「そうだな。遠距離担当は必要だ」
「ネトゲだと回復役が必要よね」
よしよしまともな方向に話が進んでいる。
今度からゲーム絡めるか。
「魔法使いと回復役は別ですの?」
「一緒の場合もあるし、別れている場合もある。神聖魔法と黒魔法で完全に系統が違うとかな」
「では念の為、魔法と回復は分けましょうか」
「これで三人ね。パーティーってどのくらいの人数になるの?」
「今回は四人か五人だな。多すぎても管理できないぞ」
やたらめったらいても邪魔なのだ。
ダンジョンとか狭い場所で動けない。
装備や食費もある。トラブルも増えるということを説明した。
「ふーん、人間って面倒ね」
「確かにな。いや駄女神も面倒って意味じゃ上位だぞ」
「そんな面倒な女神もいるのね」
「完全にお前らだよ」
お前らそのものだろうが。ちょっと改善の兆しあるけどさ。
「さ、最後のメンバーでも決めろ。仲間は大切だぞ」
「侍入れましょう、サムラーイ! 武士道!」
「異世界だっつってんだろ!」
「よく東の島国とかで出てくるじゃない」
なぜかファンタジー世界には侍がいる。
しかもかなり強い。ここだけの話、俺の仲間にもいた。
「なら世直しの旅とかしているお殿様を連れていけばいいのよ!」
「それですわ!」
「それじゃねえわ! どんなレアケースだ!」
「お殿様が無理ならあれよ! あの……越後屋!!」
「役に立たねえだろ!!」
侍と越後屋連れて魔王倒しに行く勇者ってなんだよ。
斬新すぎて対処に困るわ。
「山吹色のお菓子を差し入れしてくれる仲間ですね」
「捕まるわ。悪役サイドだろそれ」
「あと芸者と……飛脚?」
「なぜよりによって飛脚をチョイスした」
「足が速そうだし。あんまりそっちの文化に詳しくないのよ」
思いつきで喋ってやがるな。
和風を女神に理解させるのは時間がかかるだろうし、異国の文化ってのはそんな認識だろう。
「っていうかこの授業を選んだ事情が気になるわ」
「ん? あぁ……なんか昔の夢見てな。パーティーだった連中のこととか思い出した」
随分と昔の記憶だった。
なんだか懐かしい気持ちになる、いい夢だったと思う。
「ふうん、ちょっと興味あるわね」
「わたくしも聞いたことがありませんわ」
「そう珍しいことじゃない。大抵はその世界ごとに仲間がいたよ」
こいつの勘の良さは、戦闘と雑談にしか発揮されんな。あとゲーム。
もうちょい伸ばしてやりたい長所なんだが。
「その世界ごとにお別れするのでは?」
「まあな。独力で異世界転移できるやつと、かなり長くいたこともあるが、基本的に別世界には連れて行かない」
一番長く一緒だったのは、戦士と遊び人かな。
あいつらは俺と同じ領域の人間だし、お互いに強くなっていくのが楽しかった。
「勇者のお供には、女神が最適ということですわね」
「強く否定はしない。今度またVR世界で仮想勇者と冒険してもらうか」
ちょっとくらいパーティーの苦労を知ってもらうといいだろう。
さて今度はどんな世界から持ってくるかな。
「それにしても、先生も仲間が必要なのですね」
「全部俺がやればいいしーとか言うと思ってたわ」
「先生は寂しがり屋ですもの」
「えぇー……そうは見えないわよ?」
「もう少し一緒にいればわかりますわ」
どうしてかわからないが、長くいる女神にそう思われることがある。
なんだろう、謎だ。こればかりはよくわからん。
そんなこんなで授業は終わり。
「まとめると、お殿様と越後屋と侍がいればいいのね」
「魔法使いどこいった」
「魔法使いの越後屋?」
「越後屋万能だなおい」
こんなんで大丈夫かねほんと。




