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異世界を数百個救った勇者の俺は駄女神学園で先生をしています  作者: 白銀天城
第二部

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魔女世界の女神シャルロット編

 私の担当した世界は魔女が存在していた。

 魔女は裏から世界を守り。鬼と戦う存在。

 人類のバランスを崩し、平和を踏みにじる鬼と戦い続ける宿命。

 最近ようやく妖鬼王が倒され、平和になっても西と東の対立は続いている。

 そんな、魔女が西と東に別れている世界だった。


「西か東……どちらに未来を託すべきか……」


 関係は拗れに拗れている。話し合いで修復できるものじゃない。

 このまま対立が続けば、それこそ世界のピンチである。

 切羽詰った私は、女神界に通信を繋いだ。


「どうすればいいでしょうか、ヘスティア様」


 私が女神研修生の頃、お世話になった元最上位の女神ヘスティア様。

 様々な異世界を平和に導き、その知略・美貌・武勇は女神界でも有数。

 なぜか女神女王神を辞退して、カレー屋をしている変わったお方である。

 私の尊敬する伝説の女神であり、目標でもあった。


『死者の出ない方法でカタをつけるしかないね。女神は導き、見守るもの。いつまでもその世界に君臨するわけにもいかないよ』


「ですよねえ……でも、どちらも根はいい子なんですよ。ちゃんと世界を守ることを考えていて」


『最後は人の手で解決するのが望ましいけど……』


『おーい。早くしないとおやつなくなるぞー』


 男の人の声だ。女神様に気軽に声をかけられる男性などいないはず。


『悪いね先生。少々教え子の相談に乗っていて……』


 先生……ヘスティア様に先生? 男の人が?

 映像には映っていない。声だけしか聞こえないけれど、間違いなく男の声だ。


『そうだ先生。明日はお暇かい?』


『明日? 日曜だし暇だけど……俺魔法について調べたいんだよ』


『だったらベストな異世界がピンチだよ』


 何か話し込んでいる。あっちも明日は日曜なのか。休日は何をしようかな。


『シャルロット、先生が大切な休日を割いて救ってくださるそうだよ』


「救う?」


『明日、そちらに先生が行く。それで世界は救われる』


「…………はい?」


 なんでも勇者をひとり、こちらの世界に寄越すらしい。

 それで解決するから安心しろと。安心できる要素が微塵もない。


『先生に全てを委ねるんだ。それだけでいい』


「もっと具体案とか……全てとは?」


『そのままの意味だよ。先生がどんな無茶な案を出そうとも、従っていればいい。それだけで世界は救われる』


 どうやれば最上級女神からここまで全面的に信頼されるのだろう。


「お言葉ですが、この問題は人を超えた人……魔女が中心となっています。人間にどうにかできるとは……」


『問題ない。先生は勇者だ』


「西か東を倒すほどに強いと?」


『違うよ。倒すのではない。世界を救うんだ。勇者だからね』


 どこか楽しそうな、子供のような笑みで答えるヘスティア様。


『本人には言わないでおくれよ? 先生はね、わたしの憧れの勇者様なんだよ』


 そして次の日、約束の朝八時にやって来たのは。


「どうも。今日はよろしく」


 普通の男の人だった。半袖長ズボンでサンダル。完全にコンビニに行く格好だ。


「装備はどうしたのですか? 勇者ですよね?」


「いらない。作戦は考えてきたよ」


「世界の支配者を決めると言っていい案件ですよ。西か東か。この選択で世界の命運は決まります」


「んなもん魔女の溝を取っ払えばいいんだよ」


 平然と、ごく自然に言い放つ。偉そうでも低姿勢でもない。日常会話のようだ。


「随分と自信がお有りのようで。一体どんな作戦なのですか?」


「んーまあ策というか……俺を倒せたやつの勝ちだ」


「…………はい?」


 そして、全世界から東西の魔女が集められた。

 魔女が人目を避けて暮らすために作り出される人払いの結界。

 普通の人間は入るどころか認識すらできない異空間だ。


「ではルールの説明をします」


 世界の覇権をかけると明言し、女神の権限で全実力者を例外なく集めた。


「私の隣にいる男を再起不能にするか、参ったと言わせて下さい。達成したものに、この世界の未来を託します」


 当然ざわつく魔女一同。そりゃそうですよねー。私も意味がわかりません。

 あまりにも無謀なため、ヘスティア様に相談したところ、ノータイムで『それは素晴らしい』との返答。どのへんが素晴らしいのか聞く気力は残っていなかった。


「人間の男に見えますが?」


「そうらしいです」


「らしい? その……魔法を人間の男性に使えと?」


「なんかそういうことっぽいですよ」


 対応が投げやりになるのはご容赦下さい。私だって意味がわからないもの。


「我々を馬鹿にしているのですか?」


「私もそうとしか思えず、混乱しています。ですが、私より上位の女神からのお墨付きです」


 さらにざわつく。魔女の証である、とんがり帽子が大きく揺れている。

 ここでヘスティア様いわく先生にマイクを渡す。


「えー勇者やってます。今日はよろしくお願いします。なんかすみません」


 軽い。事態を飲み込めていないのかこの人は。

 もう不安しかないですよヘスティア様。


「ではスタートです!」


 だだっ広い魔女学校のグラウンドに立つ先生。ここが一番結界が強い。

 この人……勇者様には見えないし、もう先生でいいや。

 先生は構えを取るでもなく、ぼーっと立っている。


「こんな茶番に呼ばれるとは……だが先手を取れば西側の天下だ! フレアボム!!」


 西の魔女が先手を取る。爆炎の渦が先生に向かっていった。

 茶番に付き合わされてイライラしていたのだろう。

 その威力は並の魔女では耐えられないほどだ。


「おー本当に魔女なんだな」


 無傷だ。火傷の痕すらない。平然と立っている。

 今日一番のざわめきが場を支配した。


「やっぱ西は駄目ねえ。人間の男にすら勝てないじゃない」


 黒髪を靡かせ躍り出る、東のトップである御神楽吹雪。

 名前通りの氷結と、雷撃を強化魔法でブーストすることでトップに君臨する美少女である。


「小手調べよ。それすらわからないとは、東も落ちたものね」


 西の三魔女が筆頭、フレイア・ルミリアが出てきた。

 長い金髪で、炎と土の魔女。圧倒的な魔力量と数千にも及ぶ魔法で敵を押し潰す。

 両者が揃うなど、まずありえない。ちょっとした奇跡だ。


「女神様、その男……殺してもいいんでしょう?」


「え……それは……」


「いいぞ、全力でやっていい」


 困惑する私が静止する前に、先生が許可してしまう。


「そう……ならあんたもう死になさい!」


 雷と強化魔法を自身にかけ、超高速で接近。

 その手には銀の槍が握られている。


「魔法に耐性があろうが、所詮は人間! 脆い部分は同じよ!」


 スピードの乗った雷槍が、彼の右目に直撃した。


「とった!!」


 さらに電撃を流し込み、激しい光が周囲を照らす。

 人間の内外において脆い部分を的確に潰している。


「おぉ、やるな」


「はあ!?」


 またも直立不動。槍は確実に右目に当っている。直撃しているのだ。

 なのに喋っている。おかしい。この人……普通じゃない。


「魔女って接近戦とかできるんだな」


 渾身の一撃を受けた感想がこれである。


「目を狙うってのはいい判断だ。相手の弱点を正確につける技術もある。相当修行したんだな」


「余裕かましてんじゃないわよ!」


 怒りに任せ、何度突いても血が出ない。薄皮一枚削れない。


「どいてなさい御神楽。フレアチェーン!!」


 五千度を超える炎の鎖が、全身くまなく包んでいく。


「人間は所詮、呼吸が必要。体の三割が焼けただれたら死ぬわ」


 ここで勝利を確信し、にやりと笑うフレイア。

 炎に包まれ約一分。場が西の勝ちモードに包まれ始めたその時。


「いいね、絡め手も得意か。こりゃこの世界は安泰かな」


 炎の中から声がする。そして吹き飛ばされる炎と、現れる無傷の男。 


「な……に……?」


「この化物が……」


「女神様、本当に彼は人間なのですか?」


「そうらしいわ。原理は知らないけれど、攻撃を無効化しているみたいね」


 いつどうやって無効化しているのか。魔女たちは必死で意見を交換している。

 女神である私にもさっぱりだ。完全に直撃しているはず。

 防御行動も取っていない。


「魔法を無効化していても、私の槍が防がれた理由がわからないわよ」


「槍は魔術で作ったものではないの?」


「違うわ。正真正銘業物よ。防御魔法かしら?」


「御神楽様の槍を防ぐ防御魔法を眼球に?」


 本格的な相談が始まろうとしていたその瞬間。

 先生の右手が上がる。攻撃を警戒してか、一斉に構えを取った。


「あのさ、ちょっといいか?」


「…………なにかしら?」


「いや、ずっと立ってるのもなんだし……一回飯にしないか? そっちも腹減ってるといい案が浮かばないぜ」


「もうなんなのあんた……」


 時間が経つのは早い。みんなで昼食を作ることにした。

 なぜかキャンプみたいにカレーを作っている。なんだろうこの光景は。

 調理器具まで一式ある。ヘスティア様と先生が用意したらしい。


「みんなで作るカレーは美味いよな」


「あんたね……毒とか入れるわよ?」


「いいぜ、別に毒なんて効かないからな。スパイスと一緒さ」


 毒は無駄らしい。魔女に混ざってカレーを作る男がひとり。

 なんでしょうこれ。そこへ伝令の魔女が来た。


「鬼の残党が現れました!」


「今日くらいおとなしくしててよねまったく」


「第二部隊を討伐に向かわせて。油断はしないように」


 てきぱきと指示を出すトップ二人。

 それを頷きながら見て、私に話しかけてくる先生。


「鬼って敵だよな?」


「はい、鬼は昔から人間を脅かす敵です。妖鬼王と配下の鬼を倒して、今は残党狩りです。これも魔女の仕事なんですよ」


「鬼も倒して、人間も助けて、なんか勇者みたいだな」


 呑気だな。この人は人間……かどうか怪しいけれど人間。

 鬼と戦うわけじゃない。だから他人事なんだろうな。


「あっちの方から悪い気配がするけど、それが鬼か?」


「ええ……そのはずですが。わかるのですか?」


「勇者だからな。悪い、ちょっと鍋見といてくれ。あとは煮込むだけだ」


「どちらへ?」


「ちょっとな」


 そして消える。魔法を使った形跡はない。突然音もなく消えた。


「あれ? 女神様、あの男はどこへ?」


「消えました」


「はい?」


 じっくりカレーを煮込む。西と東で一緒に何かしている姿は珍しい。

 なんだかとても新鮮で、これからまた別れて戦うのが惜しい。

 ずっと仲がいいままでいられたら、この世界はもっと平和になるのに。


「悪い、カレーは無事か?」


 みんなで食べようという時間になって、先生は帰ってきた。


「あんたサボってどこ行ってたのよ?」


「悪い悪い。なんでこんな広いんだよここ」


「次からは単独行動は控えて下さい」


「悪かったよ。冷めないうちに食おうぜ」


 みんなで作ったカレーは、とても美味しかった。

 最初は抵抗があった両者も、普通に食べながら作戦会議をしている。


「ねえ、あんたどうやって魔法無効化してんの?」


「無効化? してないぞ」


 吹雪もフレイアも先生と同じテーブルにいる。

 なんとか弱点を探ろうとしているのだろう。

 その会話を全員が聞き耳立てている。


「魔法をどうやって打ち消しているか、で構わないわ」


「別に消してない。ちゃんと受けてるよ」


 ちょっと沈黙。直前で消しているわけではない。

 受けていると言った。どういうことだろう。


「魔法が効かない体質ってこと?」


「いや別に。単純に強くなったんだよ。そしたら魔法っていうか攻撃が効かなくなる」


「御神楽の槍を止められるほど、眼球が頑丈で、電撃でも傷つかないほど脳が丈夫ということかしら?」


「そういうことだ」


 完全な沈黙。意味がわからない。あり得ない。人の体はそんな風にできていない。


「……聞きたくなかったわ」


「……どうしたものかしらね」


 真に受けるならば、ただ頑丈なんだ。しかも毒や呪いが通用しない。

 つまり力づくで倒すしか方法がない。


「ごっそーさま。さて、俺を倒す算段はついたか?」


「やってやるわ! マジックアイテムも届いたしね!」


 そこからまた棒立ちの先生を倒す作業に入る。

 東の武器も、西の秘宝も通じない。

 たまに休憩を取り、先生はそのたびに数分どこかへ行く。

 そして作戦を練っては破られるの繰り返し。


「もう少し……だな。がんばれー」


「なんで応援してんのよあんたはああぁぁぁ!」


 全てを出し切り、最後にはそれぞれの陣営がひとつの魔法を詠唱し、全力攻撃という力技に出たが、それも無駄に終わる。


「はあ……はっ……ああもう……仕方ないわね」


「お、なにか浮かんだか?」


「ずっと……考えてはいたわ。けれど、プライドが許さなかった」


「けどもういいわ。人間ひとりに傷も付けられないなら、やるしかないわ! やるわよみんな!」


 ここにきて初めて、西と東の魔女が混ざる。

 完全に分かれていた陣形を再編し、より強力な魔法を放つため、その場にいる全魔女による共同詠唱が始まった。


「手え抜くんじゃないわよフレイア!」


「ふん、私の足を引っ張らないことね、吹雪」


 全魔力が吹雪とフレイアに注がれていく。

 膨大な魔力を送り、その調整も魔女総動員で行われる。

 私も見たことがない魔法だ。おそらく誰も知らない。

 全魔女が一丸となって放つ、全く新しい魔法。


「よし、それじゃあこっちの方が被害が出ないだろ」


 先生が空へと登り静止する。建物への被害を気にしての行動だろう。


「わざわざどうも。それじゃいくわよ! 必殺!!」


「シャイニング・ウィッチブラスター!!」


 星すらも砕き、チリすら残さぬ必殺魔法だ。

 光り輝く魔力の波動は、先生を飲み込んでさらに天へと昇る。


「いっけええええええぇぇぇぇ!!」


 大気圏を離れ、宇宙まで到達した瞬間。魔力が弾け、宇宙を彩った。

 圧倒的な魔力。女神の私でさえ驚くほど。


「いやーまいったまいった。俺の負けだよ」


 だというのに、平然と降りてきて、実に朗らかな笑顔でそう言った。


「俺はまいったと言ったわけだ。さて、結局これはどっちの勝ちだ?」


 どっち、というのが『東か西か』と聞いているのは明白だった。

 そしてその答えも明白である。


「決まっているわ」


「そうね、この勝負『魔女』の勝ちよ」


 もう西も東もなかった。どちらが欠けても、今の一撃を出すことはできない。

 結局、先生は一度も攻撃することなく、西と東をまとめたのである。


「これで世界は平和になるでしょう。本当にありが……」


 突如として大地が揺れ、空に暗雲が立ち込める。

 黒雷が落ち、その中より現れる、絶大なる妖鬼の塊。


「妖鬼王!?」


 二十メートルはある。間違いない。黒と紫で構成された巨大な鬼。

 鬼の首領。妖鬼王だった。


「よくもやってくれたな……魔女共よ!!」


「まさか……王そのものが来るなんて……」


 まずい。先生を倒すため、武器も宝具も使い、魔力も底をついている。


「まだ消し残しがあったか。すまないな」


「消し……残し?」


「貴様か! 我が配下を潰して回った男というのは!」


「悪いな。妖気が弱くてさ、どいつがボスかわかんなかったんだよ」


 話を無理やり繋げれば、先生が鬼を潰して回っていたということになる。

 そんな時間はなかったはずだ。先生は今日はじめてこの世界に来ているのだから。


「魔女ではないただの男に、鬼が敗れるなどあってはならぬ! 僅かな時だが、地獄より蘇ったからには、せめて貴様ひとりだけでも地獄への道連れにしてくれるわ!」


「魔女じゃないけど勇者だからな」


 妖鬼王の大鉈が振り下ろされる前に、妖鬼王の首から下が凍る。


「これは……私の氷結魔法?」


 先生の手に宿る雷光は、徐々に長細くなり、槍のような形になる。


「お前を倒すくらいはできるさ」


 一瞬の眩い閃光。そして妖鬼王はこの世から消えた。

 完全に消滅し、もう二度とこの世界に鬼が生まれることはないだろう。 


「よし、これで終わったな」


 こうして先生は、一日で魔女をひとつにまとめ、鬼を全滅させた。

 真に世界を救ったのである。





 そして日も暮れて、先生を女神界へ返すため、転送魔法陣を広げる。


「じゃあな。仲良くやれよ」


「ええ、これからの魔女は変わるわ。あなたのおかげで」


「また来なさい。その時は必ず勝つわ」


 見送りにはフレイアと吹雪、そのうしろに沢山の魔女。

 軽く手を振り、別れを告げて、私と先生は女神界へと戻った。


「本当にありがとうございました。おかげでこの世界は救われました」


「いいさ。どうせ今日は日曜だし。魔女の魔法も覚えられた」


 誇らしげでもなく、嫌味さもなく、初めて会った時から変わらない口調でそう言われた。

 世界を救う。それが日常行為として成立するほど、この人は勇者である期間が長いのだろう。


「大変ですね、勇者様も」


「好きでやっていることだよ。それに、正直駄女神の相手の方がしんどいぜ」


 子供のような笑顔でそう言う先生を見て、ちょっとだけ一緒にいられる女神が羨ましく思えました。


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