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異世界を数百個救った勇者の俺は駄女神学園で先生をしています  作者: 白銀天城
第一部

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謎の呼び出し

 いつもの教室へ向かい、いつも通りの授業の予定。

 教室への廊下を歩く俺に、伝書鳩というレトロな存在が現れた。


「何だお前? 俺宛か?」


 鳩は一声鳴き、そのまま動かない。

 そーっと手紙を取り外すと一礼し、空へと消えていった。


「うちの連中より礼儀がなってやがる」


 中を見ると挑戦状のようだった。要約すると校舎裏手の滝がある場所へ来い。

 女神には知らせるな。過去の清算をしようと書かれていた。


「…………授業内容変えないとな」


 嫌な手紙だ。俺の知らないところで何か起きようとしている。

 猛烈に不吉な気配がするぞ。勇者としての勘がそう告げていた。




「さ、今日はあれだ、精神の授業だ」


 とりあえず授業を変更した。

 女神と世界の仕組みとかをおさらいして、こいつらの駄女神意識を消していく。


「滝にでもうたれるの?」


「座禅を組むのですね」


「違う違う。勇者と女神とは何か。心構えっていうか精神面だよ。お前らに一番足りないものだ。終わったらちゃんと戦闘もあるぞ」


 なんだろう。今更こんなことを言い出す俺自身がわからん。

 あのマーク……どこで見たか思い出せない。なんだったか。


「ほほう、本格的に鍛え始めているのデスねー」


 今日は美由紀が取材に来る日だ。授業風景なんかを撮っている。


「まあな。そろそろ基礎と応用もできるようだし、精神面のおさらいをしておこうと思ったのさ」


 こいつらに教えてきたのは基礎と便利な加護。

 ここから本格的に異世界へ送るための準備でもさせよう。


「なにか引っかかっている時の顔ですわね」


「デスデス。秘密裏に解決しようとして、こそこそするモードの先生デス」


「えー俺は先生だ。だからお前らが横道にそれて邪道に落ちないようにする義務がある」


 とりあえず授業開始。教えられる範囲でやっていこう。


「明らかに経験から来る話ですね。実感がこもっています」


「いいか、まず勇者ってのは召喚されてやって来るパターンと、事故で飛ばされるパターンがある。女神は召喚する。もしくは死者を蘇生・転生する段階で……」


 モニター使って映像付きで解説したりもする。

 ときには俺の冒険の話も混ぜてやった。実体験は腐るほどあるからな。


「なんかラブロマンスとかなかったの?」


「マジでなんもないぞ。強くなるの優先したし、なんか隣に女神しかいない状況が多かった。昔の仲間は異世界にはついてこなかったし。大抵はそれっきりだ」


「勇者とは歓迎されるものなのですか?」


「世界による。まずボスキャラとか倒せ。でないと頭おかしいやつだと思われる」


 より具体的に異世界での行動について話していく。

 結構真剣に聞いてくるので、自然と熱が入る。


「ギルドとか入ったほうがいい?」


「それも世界によるが……冒険者が多かったり、スキルとか手に入りそうなら登録だけしてみるのもいいな」


「王族貴族の取り扱いについてですが……」


「ああ、そのへんデリケートだな。よし、次回本格的に話すぞ。今は神だとバラさないようにと言っておく」


「神と組んで勇者を招き入れる世界もあるわよね?」


「そういう連中は過剰に神を崇めるから面倒なんだよなあ」


 やはり女神というのは、世界に干渉しすぎてはいけないんだと思う。

 難しい問題だな。ここからは自分の考えをまとめさせることにした。


「えーこんな場合どうする? 的な問題集作ったから、書き終わったらいつものトレーニング場にいけ。ノルマが書いてある」


 ちょっと保険かけておこう。クラリスに通信魔法を飛ばす。


「クラリス、いま授業中なんだが、こっちに……」


「参上仕りました!!」


「はええよ!?」


 まだ来いとも言ってないのに来やがった。


「お呼びでしょうか!」


「トレーニング場使わせるんだけど、装置が暴走したり、こいつらが死なないように監督してくれ」


「教官としてですか?」


「違う。ノルマと修行内容は俺が設定してある。安全確保してくれりゃあいい」


「なるほど、先生の教育にミスなどありえない。私が手を加えて悪化させるなど愚の骨頂! 失礼いたしました!」


「ああうん、そんな重く捉えないでくれ。こっちが困る」


 こいつもうちょい肩の力抜いてくんないかな。

 いつか暴走しそうで怖い。


「じゃ、三人のこと、頼んだぞ」


「…………先生?」


「美由紀、お前もちゃんと撮影しとくんだぞ」


「…………わかりました。バッチリ撮影しておきマス」


「よし、それじゃあ俺は次の授業の準備とかあるから席を外す。ノルマ終わったら昼飯食ってていいぞ」


「はーい!」


 あいつらに任せておけば問題はないだろう。

 あの二人を相手に勝てる女神なんてほぼいない。




「さーて、ちょっと早く来ちまったかな?」


 手紙に書いてあったのは、学校の近くにある大滝。

 豊かな自然の中で学ぶことも大切だろうと、女王神がノリで作った広い場所だ。


「本当にお一人で来たのですね」


 姿を見せた二人の女。魔力からして女神の……おそらく戦闘タイプだ。


「悪い、待たせたか?」


「いいえ、こっちも今来た所ですってか? デートみてえだなおい」


 片方はお嬢様っぽい金髪ドリル。

 もう片方はオレンジ髪の野生児みたいなやつだ。

 間逆な容姿だが、どちらも女神だけあって美人である。


「で、何の用だ?」


「ちょっと腕試しをお願いしたいのです」


「威力偵察ってやつだぜ」


 構えて殺気を放ち始める女神さん。それほど強いとも思えないが。


「因縁のない女神と戦う気はない。俺は勇者だからな」


 二人の構えが同じだ。武術か何かだろう。

 なんだろう……どこかで見たような……女神界じゃない。

 どこだ……どこかで見ているはず。


「お忘れですか?」


「失礼、どこかで会ったことが? なんか見覚えあるんだよ」


 さらに殺気を高め続ける二人。どうやら俺を殺すつもりらしいな。


「いいえ初対面です。ですが、この流派は貴方の記憶にこびりついているはずです」


 魔力を爆発的に上昇させている。全ステータスを跳ね上げ続ける技か。


「勇魔救神拳、アンリ」


「なんだとっ!?」


「同じくキャロル、参るぜオラァ!!」


 それは過去に聞いた流派。俺も作るのに協力した、忘れていたかった名前。


「心ここにあらず、というところね」


 マッハ百を超える速度で突っ込んでくる女神。

 だが考え事をしていようが、うわの空だろうが問題ない。


「人間に見切れますか?」


 ジグザグに、法則など無視して直角に曲がり、人間の死角より急所を狙う体捌き。

 相当に訓練を積んでいるな。俺相手じゃなきゃ善戦できるだろう。


「甘いな」


 突き出された短刀を掴み、握り砕く。

 同時に腹に一撃入れて意識を刈り取った……つもりだった。

 ごく普通に素早くバックステップで距離を取られる。


「残念。私は生物の深層意識そのもの。気絶などする肉体はございません」


「そしてウチは心なんざねえ肉体。意識はアンリが書き換え続けている」


「気絶もしないし、痛みも感じない。戦場に立たせりゃ戦果は上げるだろう。だがそれでも甘いな」


 空気中に透明で無味無臭の毒を数百散布しているようだ。

 素早い動きは撹乱と毒に気づかれないようにか。


「お返ししよう」


 軽く息を吸い、まとめて毒を吹き返してやる。

 俺に毒なんぞ通用しない。


「へえ……おもしれえじゃんこいつ」


「なるほど、伝説の勇者……どうやら法螺話ではないようです」


 やはり自分の毒で死ぬほど間抜けじゃないか。

 面倒なので周囲全てを浄化しておく。


「殺っちまうことに変わりはないんだろ?」


「ええ、ここで殺せるなら殺せとのご命令ですもの」


「誰に言われた? 言わなきゃ無理矢理聞くぜ」


「不可能です。既に名前すら思い出せません。そういう術を使われておりますゆえ」


「あんたが教えたんだろ? そう聞いてんぜ。誰からかは思い出せねえけどなあ!」


 一部の無駄も隙も存在しない完璧なコンビネーションだ。

 見切れない速度ではないので、軽くあしらいながら記憶を探る。

 俺が教えた? 何を? こいつらは何を言っている。


「ここで必殺技いっくぜええぇぇ!!」


 ついに光速を超えた二人。暴風を巻き起こし、魔力が世界を揺らす。

 無茶苦茶に飛び回り、その体が一筋の光となって世界を彩る。


「名付けて狂奏」


「乱れ咲き」


 俺を取り囲む殺意と魔力の渦は、的確に人体の急所だけを狙いに来ている。

 魔法も武術も使うようだ。超能力やゲーム世界のスキルも混ざっていた。


「なんで……なんでお前らがこれを……」


「知りたければ本気を出してくださいな」


「頑丈なのはわかったからよ! ちったあ反撃しろや!!」


 攻撃を避け、弾き、無力化するだけでは埒が明かない。

 仕方がない。多少手荒になるが、まず右足を地面に叩きつける。


「んなにい!?」


 轟音と衝撃により渦そのものが消し飛ぶ。

 意識があるのはアンリだったな。まずキャロルに金縛りをかける。


「げっ、こいつ脳筋じゃねえ!?」


「ふむ、詠唱も予備動作もなく女神を止めますか」


 味方がやられているというのに、顔色一つ変えずに距離を取っている。

 まずいな、アンリに逃げられるのは避けたい。


「想像以上ですね。ならばここで……」


「どうするというのデス?」


 アンリの腕を掴んだのは、なんと美由紀。


「美由紀?」


「ハーイセンセー。センセーの美由紀・アリアデスよー。ワタシに気づかなかったってことは、それだけいっぱいいっぱいだったのデスね」


「邪魔をしないで」


 掴んだ腕より放たれる極大の魔力波。

 だが美由紀は指先一つで軌道を変えた。


「馬鹿な!?」


「お友達のところへ送ってあげるデス」


 俺でなければ見えない速度で、アンリをキャロルに向けて投げ飛ばす。


「うげえっ!?」


「がはっ!?」


 二人は衝突に耐えきれず、ゴロゴロと転がっていく。


「この程度でセンセーを倒すつもりとは、お笑いデスね」


「美由紀・アリア……勇者に教育を受けた者のリストにあった。女神界上位の使い手ね」


「ほほう、そのリスト、ちょーっと気になるデス」


「一生見ることはないわよ。さようなら、今までありがとうキャロル」


 嫌な予感が強まる。言い知れぬ不快感だ。


「ああ、あばよアンリ。そして勇者様、こいつで思い出してやりな。思い出の技なんだろこれ!」


 キャロルの体が光り輝き、その光が体内へと戻る。

 魔力を爆発させたようだが、今度は内側に貯めているようだ。

 じわじわと全身が黒くなっていく。あれは闇。いや、闇というより無だろう。


「これは……お前らまさか!?」


「もうすぐ、あんたに会いに行くってさ。あばよ勇者様!!」」


「下がれ美由紀!!」


 とっさに美由紀を突き飛ばし、抱きついてきたキャロルを連れて上空へ飛ぶ。


「センセー!!」


「ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


 狂ったような笑い声を合図に、キャロルの体が弾け、周囲を巻き込み魔力の柱が宇宙へと伸びる。対象を確殺するための自爆魔法だ。

 それも相手が死ぬまで魔力の柱で焼き続ける禁術。


「ちっ、ふざけやがって!」


 幸い宇宙だ。周辺への被害は薄い。

 魔力を開放して柱を消し、地上へ戻って景色を戻す。


「センセー! ご無事デスか!!」


「ああ、アンリは?」


「それが……センセーに気を取られていたら逃げられて……転送魔法みたいでした」


「逃げられたか」


 クラリスと駄女神三人が走ってくるのが見えた。


「先生! なにがあったの!!」


「先生!」


「いや、これは……」


 どう誤魔化そうか悩んでいると、美由紀に肩を掴まれる。


「隠しても無駄デス。全部……全部話してもらうデスよ。あの子達がなんなのか。あの妙な武術なのか魔術なのかわからない戦い方まで全部」


「先程の妙な魔力は、私が教官時代にすら感じたことのないものです」


 どうする? 全て話すか? 巻き込んじまうかも。

 いや、この場所が割れているんだ。もう秘密裏には終わらない。ならば。


「あれは……あれは勇魔救神拳……あれの使い手は、俺以外にはたった一人だけ」


「たった一人? 誰なのです?」


「最強の女神だった女だ」


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