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異世界を数百個救った勇者の俺は駄女神学園で先生をしています  作者: 白銀天城
第一部

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44/110

船の上でも駄女神だよ

 海賊船との戦闘は続く。まずはカレンを見てみよう。


「ケリュケイオン!」


「電撃か……だが残念。ぬるぬるしてれば届かない!」


 杖から放たれる電撃は、いいところでつるりと滑る。

 全身がぬめりを帯びており、それが盾の役目を果たす。


「なっ!? おかしいですわ!!」


「あーすまん。俺が強化しといた」


「なぜですの!?」


「その方が試練になるかなって」


 言っているうちにもタコ足のムチが襲う。

 綺麗に避けているものの、攻略の糸口はつかめていないようだ。


「相手をよく見ろ」


 タコは十本の手のうち四本がタコ足を長く大きくしたもの。

 服装は鎧。急所を守る最低限のものだ。


「電撃はダメ……ならば!」


 急接近し、鎧の上から殴りつけた。


「うぐっ!?」


 この衝撃は完全に吸収することができない。

 だが微々たるもので、すぐに四本の足でカレンの体を絡め取る。


「しまった!?」


「甘いねえ小娘よ。このまま絞め殺してあげるよ!」


「うぐっ!?」


 まあある程度のピンチにはなってもらわないと困る。

 これは虐待ではない。戦闘訓練だし。でもちょい心配。


「なんとか……なるものですわね」


 カレンの手刀はタコ足を切り裂き、スキを突いて緊急離脱。

 お、今回は早いな。感が戻ってきているのかも。


「どういうことだい!?」


「無効化能力……その体質は、湧き出す魔力によって生み出されている。ならば消せるはず!」


「消されたらまた作ればいいんだよ! こんな風にね!」


 タコなんで足くらい生やせる。切られた足が復元した。


「ふうぅ……コオオォォォ……」


 呼吸による精神統一か。昔教えたな。あいつの中に残っているようでなによりだ。


「最初に言っておきますわ」


「あん?」


「無効化能力……まだ両手に宿らせるだけで精一杯ですの」


 これは本当だろう。全身を覆うには、無効化は少々相性が悪い。


「バカかい? わざわざバラして」


「言おうが言うまいが同じこと。二刀の刃で、貴女を切る」


「やってみな小娘が!!」


 繰り出された足四本を、音速にて切り刻む。


「せいっ!!」


 そのまま懐に入り込み振り上げた右手が胴を……斬り裂くことはできなかった。

 タコ女は自分の腕を四本ほど犠牲にし、切断されつつも体を守ったのである。


「ちいっ! やるじゃないのさ! ならこれはどうだい!」


 切断面をカレンに向け、血の目潰しを見舞う。


「あうっ!?」


「ふひゃははははは! 終わりだ! くらえ!!」


「こんなことで……負けられませんわ!」


 残りの腕から放たれる高速拳をかいくぐり、カレンの腕が鎧ごと胸を貫いた。


「ばっ……かな……ぐげはあぁ!?」


「戦いとは、目だけに頼るものではありませんわ。気配と空気を感じること。先生にそう習いましたの」


 こうしてタコ女討伐完了。カレンの勝ちだ。


「よくやった。偉いぞ。自分のやれることを的確にやった。いい判断だ」


「ありがとうございます!」


 怪我の治療をしてやり、褒めたら他の女神の様子を探る。

 次はサファイアだ。相変わらず砲撃戦やってんな。


「ええいいつまで湧くのよこいつら!」


 寄ってくる小舟を落としつつ砲弾をシールドで弾く。

 持久戦だ。バテるサファイアにはきつかろう。

 敵船のシールドは硬い。っていうか硬くした。さてどうする。


「圧縮女神砲!」


 手からビーム。古典的だが制御はできているな。

 だがシールドは砕けない。


「このまま押し出す!」


 押し出す。押し切るでも押し砕くでもない。

 片方の手で小舟を沈める弾を連射する事も忘れていないし。

 狙いは何だ。


「このおおおおおおおぉぉぉぉ!!」


 敵船がどんどん下がっていく。横を向いているのにだ。


「よし! やっぱりあいつらのシールド押せる! 船ごといけ!」


 敵の障壁は丸型。船を包むように展開している。

 つまりこれはあれか。


「よし、これで砲弾は来ない!」


 攻撃が届かない位置まで敵船を下げたのか。

 敵は横向き。こちらに近づくには時間がかかる。


「ローズ! 船の下に来なさい! 拡散女神砲!」


 天へと撃ち出した膨大な魔力が、拡散されて雨のように海へと落ちる。

 これで小舟は全滅。やるね。


「はああ……つっかれた……しんど」


「お疲れ。頭使えるようになってきたな。よくやった」


「ナイスファイトですわ」


 同じように回復してやり、良い点と悪い点を反省会。

 ついでにローズがどうなったかもチェック。


「どうやらお仲間は負けたようですね」


「るせい! オレと旗艦が残ってりゃ再興はできるんだよ!」


「ならばその芽を断つまでです」


 水中での高速戦闘が続く。

 お互いに決め手に欠けるのか、じりじりとした攻防が繰り広げられる。


「仕方がありませんね。まだ未完成ですが、お見せしましょう」


 ローズの体から光が溢れ出す。その魔力は、つい先日感じたものによく似ていて。


「なんだあ!?」


「その危険でざらついた肌という名の装甲、溶かしてあげましょう」


 水中だというのに吹き荒ぶ炎の渦。

 渦中に囚われたシャチは、その肌がどろりと溶けていく。


「あっちいいぃぃぃ!?」


「太陽の炎です。魚介類ごとき、骨まで焼き尽くしてあげますよ」


「うおおぉ……あああぁぁぁぁ!?」


「さようなら」


 あの時のように右腕を炎と化し、溶けかけのシャチを殴り飛ばして蒸発させた。


「ふっ、この力……嬉しい誤算というものでしょうか」


「よくやった。力取り込んでたんだな。上がってこい」


「そうですね。今行きます」


 船に上がってきたローズを回復。ささっと異常がないか確認。

 よし、問題なし。あとは使い方にちょっと注意を入れつつ褒めた。


「やりますわねローズ」


「いつの間にそんなの覚えたのよ」


「つい先日ですよ。運が良かったのです」


「さ、後は敵船だが……アクシデント発生だ」


 雷雲がこちらへ猛スピードで向かってくる。


「舵! おもかじいっぱい!」


「面舵の意味わかってないだろ」


 その時であった。敵の旗艦を透明ででっかい何かが貫き、バラバラに砕いていく。


「ちょっともうなんなの!?」


「この近海の主、巨大クラゲだ」


「またよくわからないものを出しましたわね」


「そして嵐が来ます」


 大雨が体温を奪い、暗雲が光を奪う。そしてクラゲが迫る。

 全部俺は透過するように設定してあったり。


「さ、嵐はやまないぜ。巨大クラゲはこっちに気がついている。どうする?」


「倒す! それっきゃないわ!」


「そうですわね。ここまできたらやってやりますわ!」


「女神に不可能などないのです」


 雨風が強いなかでの戦闘は、思っているよりも大変だ。

 その場に立っているだけでも体力を消耗する。


「やるなら短期決戦かしら」


「でしょうね。ですが……はあっ!」


 ローズの放った炎は、クラゲに当たるまでに小さくなり、大したダメージも与えられていなかった。


「これですよ。やつは魔力吸収もできるようです」


「でも表面が焦げてるわよ?」


「……どういう視力してますの?」


 こいつなんで女王神の娘なのにどんどん野生化してくんだよ。


「それは確かなのですね?」


「うーん……あ、再生してるっぽい」


「つまりダメージはある。ならば一気に畳み掛ければ……おおっと」


 船の上は揺れる。そりゃ嵐だもの。会議もままならない。


「急ぎましょう。船は動く?」


「不可能です。この嵐ですから、まっすぐには……」


 会議を中断するように突っ込んでくるクラゲの触手。


「ブリューナクボンバー!」


 サファイアの槍で無事爆散。だが巨大触手は一本ではない。

 そしてもう時間もないぞ。


「やはり力押しでは無理ですね。なにか船を守りつつ接近できる方法を考えましょう」


 戦闘中にいい案を出すのは結構きつい。まず自分の身を守る必要があるからだ。


「力押しでいきましょう」


「サファイア?」


「今それでは不可能だと……」


「違うわ。究極の力押し。全力全開でやるわ」


 面白いことが始まりそうなので見届けよう。


「シールド完了しました」


「よし、じゃあみんなしっかり掴まって。振り落とされるんじゃないわよ」


 船をクラゲに向け、サファイアが後ろへ回る。


「はああぁぁぁ……必殺! 女神加速砲!」


 制御もクソもない魔力を放射し、ジェット噴射のように使う。

 これにより船体が浮き、海に左右されずにクラゲへと突っ込む。


「うっ……これはきついですね」


「振り落とされそうですわ……」


「さあ、後は任せるわよ!」


 とてつもない速度で突っ込むため、クラゲも反応できない。

 ここまではいい。問題はどうやって倒すかだ。


「無効化斬撃……二枚刃!!」


 カレンが両手を十字に振り抜き、一箇所に小さな穴を空けた。

 同時に再生能力も切る。これでクラゲは無防備だ。


「ローズ!」


「お任せを。サファイアを見習って、雑に、後先など考えずに流してあげます」


 ローズ全身を魔力の炎が覆う。太陽のコアとなったときと同じだ。

 あれ任意でできるもんなのかよ。


「わずかでも傷口さえあれば上出来です。ファイナル……サンシャイン!!」


 炎の塊となってクラゲに突っ込み、内部から天高く火柱が上がる。


「問題はしばらく魔力がなくなることですね」


「対策済みよ」


 そのまま海に落ちそうになるローズを、魔力の網でキャッチし引き上げている。

 漁でもしているみたいだな。


「もう少し優しくできないのですか?」


「やり方がわかんない」


「こちらも魔力が減っているのですわ」


「お疲れさん。三人共よくやった。なっかなかいい戦いだったぜ」


 実習終わり。空が晴れ、でっかい虹と目指すべき島が見えてくる。


「素晴らしいですわ!」


「洒落た真似してくれるじゃない」


「いいセンスです」


「最後まで諦めずにチームプレーができていた。そこが一番の評価点だ。次に自分たちのやるべきことをしっかりと理解してやり遂げた。だがそれまでに……」


 虹を見ながら反省会。ついでに料理も持ってくる。

 俺の想像を超えて強くなっていることがわかったので、今回は大収穫である。

 これなら戦闘面以外もきっちり鍛えていいかもしれない。

 今後のプランを練りつつも、充実した一日であった。


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