完全ノープランだから駄女神だよ
「はい授業やるぞおおおぉぉ!!」
「うわきゃっ!? 急におっきい声出さないでよ!」
いつもの教室。いつもの四人。今日も今日とて授業である。
「はい授業します。すんぞ。今からだ!」
「どうしたのです先生?」
「いやなんかな……最近真面目にやりすぎてないか?」
「それは素晴らしいことですわ」
なんかマンネリしたのでテンション上げてみた。
しんどいのでいつもの感じでいこう。
「そうなんだけどな。なんかこう教師とか真剣にやりすぎて、潤いとか無い気がしてさ。よっしゃクソゲーやろうぜ。筐体持ってきたから」
「さては今回ノープランですね」
「おうよ。たまにはいいだろ」
最新式格ゲー筐体を出す。様々なゲームが入っている優れものさ。
「ベルスクやるわよベルスク」
「格ゲーじゃねえのかよ」
「二人プレイよ! チームワークを磨くの!」
「いいね。授業っぽいぜ!」
「先生、お気を確かに」
そんなわけでベルトスクロールアクションをやることになりました。
筐体を錬成でいじり、二人並んでプレイできるものに変更。
「うっし、久々に本気の俺を見せてやるぜ」
「スティック壊しそうね」
「安心しな。加減はできる」
昔流行ったタイプのゲームで、出て来る敵をパンチやキックで倒しながら進んでいくやつ。
縦に軸をずらしたり、飛び蹴りや投げを駆使して進む、技術介入度が高いゲームでもある。
「なんだこれ? ファイナル女神ファイターじゃないのか?」
メジャーなやつじゃないな。女神界にしかないゲームかもしれない。
名作によく似ている。いやよそう。似ているだけだ。
「おおらかな時代があったのよ」
「……クソゲー臭がするぜ」
クソゲーでした。理不尽に強い敵。どこかで見た敵。自キャラが弱い。
死に技が多いとクソ要素がふんだんに盛り込まれたゲームだった。
「いかん……台パンしそう」
「確実に壊れるわね」
サファイアは順調に進めていく。真似して行動するも、すぐに敵キャラによって割り込まれてしまう。体力減るの早いな。
「ふっふっふ、助けてあげようじゃない」
俺のキャラごとまとめて蹴り飛ばされる。
「味方に攻撃判定あんの!?」
「緊張感出るでしょ」
「知ってて殴んなや!」
はい無理。二面で死にました。操作に慣れる前に死にました。
半分くらいサファイアが悪い。
「よし、ローズ、カレン。二人でやってくれ」
「完全に面倒事をなすりつけられましたわ」
「ふむ、興味がありますね」
「お茶を入れてきますわね」
そんなわけでローズが一人プレイ。
とりあえずおやつ食いながら観戦でもしよう。
「なに食べてんの?」
「揚げもち。俺は塩派だ」
揚げ餅は醤油より塩だと思う。
ちょっとしょっぱいが、飲み物と一緒に食うとよい。
「塩分摂り過ぎはいけませんわよ」
カレンがお茶持って戻ってきた。お礼を言ってひとつ貰う。
「わかってるよ。たまーにしか食わん」
いざとなったら能力とかで体質改善はできる。
そもそも体調不良ってほぼならないんだよなあ。
「スキルに頼ってはいけませんわ」
「わーってるっての。おかんか」
「意外とだらしないのね。あ、おいし。ちょっとしょっぱいけど」
言いながら人の菓子勝手に食ってやがる。
まあ塩分多いことは認める。
お茶と合うので、今日は食べてしまおう。
「先生はお部屋でごろごろしていることが多いですわ。休日くらいもっと健康的に……」
「いいんだよ。先生は大変なの」
女神界は、あまりうろちょろしていると目立つ。
俺しか男がいないからだ。知り合いの女神に出会うと騒ぎになるし。
「カレン、協力しますよ。私にだけクソゲープレイさせるとはどういう了見ですか」
「あらあら、失礼いたしましたわ」
頑張るなあ……俺とサファイアは完全に観戦モードだ。
「先生でもクリアできないゲームとかあるのね」
「方法はある。けれど、イカサマっぽいもんでクリアしてもつまらん」
「方法ってなによ?」
「俺自身の運のステータスを死ぬほど上げる。これでほぼどんなゲームでもクリアできる。極めたら運を上げずに実力でもできる」
「格ゲーは実力でやってたわね」
格ゲーは運の要素もあるが、読み合いや人の癖を感じることが重要。あと知識。
よって運だけで勝てるほど甘くはない。そこが好き。
「昔は魔王や邪神にも強敵がいたのでしょう? やっかいな敵はいましたか?」
「やっかいなやつねえ……」
つまり単純に強いやつじゃあダメってこと。
絡め手が得意で、凄くうざいタイプ。
「何人かいたけど……あのガキかな。正確にはガキの姿をした悪意そのもの」
「子供? 事案になるからですか?」
「それもあるけどさ。世界を悪意と陰の気で染めて滅ぼす敵がいた」
「そいつどう強いのよ?」
「それまで明るく楽しい世界だったのに、そのガキが来てから暗く、陰鬱とした世界になる。モブがどんどん黒い影に染まり、晴れの日が極端に減る」
「気持ちの悪い敵ですわ」
「最後は仲間と一緒に完全消滅させた。薄気味悪いやつだったよ。強いというより不快ってのが正しいかもな」
それに比べれば、クソゲーもそこそこ楽しめるだけマシなのかもしれない。
「さては誰も私のプレイを見ていませんね?」
ローズがじっとこちらを見ている。いかん忘れていた。
「悪い悪い。どうだ、いけそうか?」
「無理ですね。完全なクソゲーです」
ちょっと疲労の色が見える。回復魔法をかけてやった。
「クリアできる裏技とか、バグでも見つけようとしましたが、クソゲーのくせにバグっぽいバグも見当たらず……」
「さらにイラッとするなそれ」
「わたしもちゃんとクリアできたことないわ」
ちょっと触った感じでもう駄目っぽかったし。
サファイアと俺でもガチでやんなきゃ無理なら相当クソゲーだ。
「別のゲームするぞ」
「今日はゲームでいいのですか?」
「なんかそんな気分。次の時間からは真面目にやろう。レクリエーションは大事さ」
「音ゲーはどう? 音感鍛えるトレーニングよ」
「よっしゃ授業っぽいぜ」
「先生、お気を確かに」
プライベートならサファイアと波長が合うようだ。
ゲーム好きだし、奔放に生きるというのは楽しい。節度は大切だけどな。
「どうせ得意なんでしょ?」
「当然だ。お前らできるのか?」
「曲に合わせて踊るだけでしょう? 私ならばこなせます」
「こういうのは初体験ですわ」
俺とサファイアの指導により、音ゲーで反射神経と音感を磨く。
ローズもカレンも運動できるんで、あとは音感の問題だが。
「ふふっ、こういったものも楽しいですわね」
「余裕ですね。服さえ脱いでしまえばこんなものです」
「ただのストリップだろうが。いいから服を着ろ」
まあ脱ぐわな。絶対脱ぐと思っていたよ。
ちゃっちゃと魔法で私服に戻す。
「はい、交代ですわ。ちょっと冷たいものでもいれてきますわね」
「すまないな」
運動すると熱くなる。それは女神も同じこと。
冷たいものをすぐ用意してくれるカレンは気が利くいい子だな。
「ふっふーん、余裕よ! ゲームでわたしに不可能はないわ!」
「おおー見事なもんだな」
「服が気に入りませんが……まあこの程度ならよいでしょう」
サファイアもローズも見た目は女神だ。楽しそうに踊る二人は絵になっている。
なっているんだけどなあ……どうしたもんだろ。
「駄女神じゃなきゃかわいいのにな」
「なあっ!? ちょっと急になによ!?」
「……………………そうですか…………かわいい……ですか」
猛スピードでこっち向かれた。
新鮮な反応だな。女神だし、言われ慣れていると思ったが。
「おう、そうして楽しそうに踊っていると、女神っぽくて綺麗だぞ」
別に隠すことでもないし、感想くらい言ってもいいだろう。
二人とも無駄に顔が赤いな。踊りはそんなに疲れるか。
「ううぅぅ……なんなのよもう! 今日なんか変よ!」
「これは……どう受け止めるべきなのでしょうか。説明を要求します」
ローズですら顔が赤い。俯き加減から、落ち込んでいるわけではないだろう。
「意味がわからん」
「意味がわからんのはこっちよ!」
「完全にこちらの台詞ですよ先生」
ここまで慌てる意味がわからん。
女神の心理なんて完璧に把握しているわけじゃないしなあ。
「あら、どうしましたの?」
カレンが全員分の麦茶を持って帰還。
みんなでお礼を言って飲み始める。
「いやなんか妙な感じになった。謎だ」
「なぜ自覚がないのですか」
「教師としてまずい感じか?」
理由は分からないが、俺は教師だ。不適切な発言なら直す。
考えている間に、二人がカレンに事情を説明している。
「先生は先生ですわ。ただそれだけですの」
「えぇ……ふんわりとした答え返ってきたー」
「誰にでも可愛いとか言っていると、口説きまわる変態教師の烙印が押されますよ」
「うげ、そりゃきついな」
なるほど、淫行教師と同レベルか。そりゃまずいわ。
「だからわたしたち以外にそういうこと言うんじゃないわよ!」
「お前らはいいんかい」
「他人からの評価、というものに興味がありますので」
「そうですわ! わたくしも含めて三人に言うならば、事情を知っているのですからセーフですわ!」
なにやら熱く語られましたよ。
正直そっち方面には自信がないが、これも教師の務めか。
「わかったよ。とりあえず、さっきのお前らはかわいかった。それでいいだろ」
「わたくしはどうですの!」
「カレンもだよ」
「ざっくりで済ませましたわね」
「真意が伝わっていないのは、幸か不幸か。悩みますね」
「ええいとりあえずゲームするわよ! あんたも混ざりなさい。お菓子食べてお茶飲んでるんじゃないの!」
「へいへい、わかりましたよーっと」
よくわからんが、これも授業だ。きっちりパーフェクト取ってやろうじゃないか。
俺の模範演技は好評で、次の授業まで四人で遊んでいたのだった。




