サバゲーでも駄女神だよ
「はい、今回は市街地でサバゲーをします」
どこぞの首都並に広い街を作り、そこで銃撃戦をやらせることになった。
街は適当に空き地にコピペで作った。現実の改変くらいはできる。
「女神が銃火器とか使っていいの? 剣も魔法もあるのよ?」
「問題ない。世界によって違うからな」
「世界は広いのですね」
「そういうことだ。使うのは銃火器、ナイフ、格闘。戦車やヘリは奪ってよし。魔法は身体能力強化以外禁止」
無論ヘリもガトリングを積んだやつだ。
戦車はよく知らないので、それっぽいのをランダムに置いた。
「ケリュケイオンやブリューナクはどうしますの?」
「あんまり使ってほしくはないが……まあ普通の武器としては許可。ほどほどにな」
ハンドガン、スナイパーライフル、ショットガンと手榴弾をアイテム欄に装備させた。もうメニュー画面は使いこなせているようで何よりだ。
「街中に存在するボス機を倒せ。自分がダメージくらいすぎると拠点に戻されるから注意な」
「ボス機というのは?」
「そのまんま強いやつ。赤いからすぐわかる。ロボットやゾンビとかクリーチャーも出るから、状況に応じて潰せ」
「拠点ってここ?」
大きなビルの前。バリケードやタレットの張り巡らされた内側にいる。
かっこよかったので、ゲームから転写した。
「そうだ。ここに戻る。通信機は渡しておくから、各自連携を意識するように。俺もちょっとだけ妨害するかもな」
「……クリアできますのそれ?」
「これは授業だ。お前らを痛めつけて遊ぶものじゃない。クリアできない試験など作らないさ」
ここ大事。生徒を強くすることが目的です。ちょっと遊び心は入れるけどな。
「はいじゃあスタート! 頑張れよ」
俺は離れた位置から見学。駄女神はまず銃火器の確認から始めるようだ。
いいぞ。武装確認は大切だ。数発撃って射程や反動のチェックをしている。
「よくあるFPSみたいねこれ」
なるほど、サファイアにそんな知能があるか疑問だったが、ゲーム感覚か。
「反動もなし。連射もきく。あとは弾数にだけ気を配りましょうか」
「それでは出発ですわ!」
元気に走っていく駄女神。見かけは普通の街。だがそこにはびっくりトラップが仕掛けられている。
「敵ってどこから来るのかしら?」
「とりあえず壁伝いに歩きましょう。それで事故率は減るはずです」
「そうですわね。本当によくできた街ですわ。建物も、このショーウインドウの服も、本物ですわよ」
こっちはコピーするだけだから、精巧にっていうより大雑把にやってるけど。
さてショーウィンドウのトラップに気づくかな。
「マネキンまできっちり作っちゃって……ん?」
マネキンの一体が緑色で血だらけなのに気付いたな。
「どうしました?」
「ちょ、これゾンビ……」
豪快にガラスを突き破って飛び出してくるゾンビさん。
「うわっひゃああぁぁ!?」
反射的にショットガンで滅多打ち。まあそうなるだろう。
そしてゾンビさん爆発。
「きゃあああぁ!?」
「なんですかこれ!?」
そこにヘリからの機銃掃射が襲う。
突然のことに戸惑っているようだが、まだ被弾はしていないな。
今回は意外とみんな運がいいようだ。
「もおおぉぉ! なんなのよおおおぉぉぉ!」
「建物に避難ですわ!」
そして建物内の地雷により大爆発。
「にょわあああぁぁぁ!?」
そんなこんながありまして、拠点へと強制送還である。
「あら? ここは?」
きょろきょろしている駄女神一同。
全員いるな。ひとりくらい生き残るかと思ったが、まだ厳しいか。
「ちょっと! なんでゾンビが爆発すんのよ!」
「背中に爆弾がくっついていたからさ」
「そんなもん初っ端から出すんじゃないわよ!」
最近成長の兆しが見えていたから、難易度を上げてみたが……調整ミスったかな。
「なぜ建物が爆発しましたの?」
「普通の建物や、一般家庭には地雷があります」
「ないわよ!」
「何千円もするランチ食ったり、夫のものを捨てようとする妻とかいるだろ」
「そういう意味の地雷じゃないでしょ!」
仕方がないので、街中に補給ボックスと防弾チョッキのようなアイテムを配置。
これで難易度は下がるだろう。慣れたら使わずに進めばいい。
「これでやってみよう。近代兵器のめんどくささを知るがいい」
「もしかして今回……死に覚えゲーですの!?」
「少しだけな」
拠点に戻るだけで死なないから、実際にはそこまで緊張感は出ない。
それでも体験することは大事だ。
「質問があります」
「なんだ?」
「我々のステータスからして、地雷数発程度で体力切れになるとは思えません。なぜ戻されたのですか?」
「体力ゲージとお前らの身体能力は別だ。それだと防御力でゴリ押しできるだろ」
「さては味をしめましたね?」
「さ、行ってこい」
だって楽なんだもの。ゲームっぽく体力ゲージつけりゃいいし。
世界をちょこっと改変すりゃいいから乱用しちゃう。
横着し過ぎは生徒に伝わるな。気をつけよう。反省して次に活かすぞ。
「あ、またマネキンに戻ってる」
「撃ち抜いておきましょうか」
「その後ヘリが来ますわね」
「そちらは私にお任せを」
お、作戦練ってやがる。いいぞー工夫しろー。
あれだな。作ったもんを楽しんでもらえると嬉しいな。
クリエイターってこういう気持ちなのかしら。
「来たわよ!」
ゾンビにヘッドショットかまして無力化。爆弾は回収しているな。
ローズが着替えたのは……迷彩服? ベレー帽と全身迷彩の服だよなあれ。
「ターゲットロック。排除します」
ヘリに向けてスナイパーライフルを一発撃った。
「すみません」
「なに? 外したの?」
「どうやらこちらに落ちてくるみたいです」
ヘリがふらふらと落下していく。駄女神に向けて。
「早く言いなさいよおおぉぉぉ!!」
「退避! 退避ですわ!」
猛ダッシュで入り組んだ建物の並ぶ市街へ。
ヘリは途中でスーパーにぶつかって大爆発。粉々になった。
街を守る必要が無いので、壁として使うのは正解だ。
「その服はなんなの?」
「軍人の着る服です。射撃のプロになりました」
「便利ですわね」
あいつ汎用性高いなー。これは是非とも伸ばしてやろう。
長所は伸ばす。教師として必須項目である。
「さあ、この調子でがんがんいくわよ!」
そこから何度か拠点に戻されながらも順調に突破。
中間地点までたどり着き、ゴールも見えてきた。
「敵よ!」
今度は軍人の群れ。対人スキルも覚えて欲しいのさ。
「あれって人間よね?」
壁に隠れて敵の銃撃をやり過ごしている。
ちょい戸惑い気味かな。まあこれは説明しなかった俺が悪いか。
「安心しろ。人間じゃない。あくまでNPCだ。俺が作ったデータだから、殺しにはならんよ」
「ならば遠慮なく。お二人とも、援護お願いしますわ!」
ナイフを構えて素早く走り出すカレン。
こういうの得意分野だよなあ。半分くらい俺のせいだけど。
「ええいやったろうじゃない! わたしのFPS力を舐めるんじゃないわよ!」
近場の兵士を倒し、アサルトライフルを強奪。正確に援護していくサファイア。
野生の勘とゲームの知識で動く。本来人間には不可能な荒業だが、女神なら可能なのだろう。というかサファイアだからできるのかも。
「あの車をいただきましょう」
装甲車のタイヤを撃ち抜き、電柱に突っ込ませている。
車内から出てきた敵を処理し、中にある武装を吟味。
「サファイア。あなた好みの武器がありましたよ」
そう言って投げ渡されるはロケットランチャー。
ロマンがあるよな。こういうものの締めはロケランだろ。
「あらいいじゃない。やっぱロケランは必須よね!」
両肩に担いで撃ちまくっている。最早どのへんが女神なのかわからない。
「ふはははは! 女神の力にひれ伏すがいいわ!」
「はあ……これは失敗でしたね。カレンに願いを託すとしましょう」
実に活き活きとしているサファイアとは対象的に、ローズは呆れ気味だ。
「ちょろいですわ」
軍人をひとり、またひとりと流れるような動きで仕留めていくカレン。
そのナイフさばきは特筆すべきものだ。格闘戦に慣れているからこその動きだな。
「遅い! 先生に比べてなんと遅い……それに力もない。まとめて吹き飛ばしますわ!」
敵の中央に、ゾンビ軍から回収した爆弾を投げ込んだ。
「ローズ!」
「お任せを」
見事爆弾に命中した一発は、敵全てを吹き飛ばす程度、容易な火力だった。
「まあざっとこんなものよ!」
「よくやった。これよりボスキャラとの戦闘を始める」
五メートルほどの人型二足歩行兵器。
真っ赤な機体にツノがあり、武装展開により背中の放熱板から魔力が溢れ出す。
そこに俺が乗り込んで準備は完了。
「これがボスキャラ……十分の一スケール、ネオホープ弐号だ!」
「弐号?」
「一号は昔、美由希と乗ったんだ。それをモデルにした」
「っていうか先生が乗ったら勝てないでしょうが!!」
「安心しろ。人間でも武装すりゃ勝てる。これは授業だ」
ちゃんと勝てるよ。超遅く動くし。行動パターンを単純にして少なくした。
「不意打ちロケランボンバー!!」
やっぱり不意打ちしてきたな。
衝撃で機体がグラつくも、装甲にほぼダメージはなし。
「正面突破は難しいぜ?」
「ならば関節部を撃ち抜くまで」
心なしか正確さに磨きがかかっている気がする銃撃が飛んでくる。
「いい発想だ。今回は微妙なダメージだが、その発想は忘れるな。結構重要な戦い方だぞ」
「了解です」
「んじゃこっちもいくぜ」
手のひらからビームを発射。両手で撃てば、それだけで制圧も可能な威力である。
「あんなのどうしろってのよ!」
「接近戦でもしてみますか? 動き自体は単調なようです」
「悪くないな。だが」
腕に取り付けた超振動ブレードが唸りをあげる。
驚くほど抵抗なく切り裂かれる建築物。ちょっと威力上げすぎたかも。
「近接武器もあるぜ。そして、足は歩くためにある」
ゆっくりと駄女神に迫る。わざとらしく背中から魔力を放出して。
「どうせどこかに弱点があるわ。そういうときはね……とにかく乱射して全身に撃ち込むのよ!」
これもゲームの知識だろうな。だがいい判断だ。
撃ちながら逃げ回るのも忘れていない。これも素晴らしいぞ。
「装甲は削れている……単純に威力が足りない? サファイア、ロケランは?」
「使い切っちゃった」
「ご利用は計画的にな」
背後から銃弾の雨が降る。放熱板に撃ち込まれた弾丸は、並の威力ではなく、軽い爆発を起こす。
「おぉ? これは……」
横を装甲車が走り抜けた。どうやらカレンが運転しているらしい。
「乗って下さいまし!」
「ナイスカレン!」
「面白い。相手をしてやろう」
装甲車は背後の扉が空いており、そこから様々な火器で応戦するローズ。
そして屋根に取り付けられた巨大なガトリングにより、機体へダメージが通る。
「弱点は背中の放熱板ですわ!」
「オッケー回り込んで!」
「頭部にダメージを与えると、少しの間だけ動きが止まるようです」
ほう、気付いたか。もうちょっとでクリアだぞ。頑張れ駄女神。
「うりゃりゃりゃりゃりゃ!」
「学習しました。関節は、より内側に、より脆い場所へ攻撃するものだと」
よし、サービスだ。気づかれないよう、そっと車内にロケランを設置してやった。
「敵の動きが止まったわ!」
「二人とも、これを!」
「これで……終わりですわ!!」
三人揃ってロケランをぶっ放し、見事ロボを破壊する。
大爆発したロボの中心から俺、登場。
「おめでとう! よくやったぞ!」
「ふっ、私ならできると信じていました」
「今回もなんとかなりましたわね」
「よーおおおぉぉぉっし! 流石わたし! やればできる子なのよ!」
「よしよし、ちゃんと連携できているな。役割分担も自然にできているし、弱点を探るくだりはいい感じだったぞ」
ちゃんと反省会をして、褒めたり拙い点を指摘したりする。
こうして着実にレベルアップさせていこう。
「よーし帰るぞー今日のことを忘れないように」
明日は休みだ。授業プランでも練りつつ外出でもしようかな。
どうでもいいことを考えながら、俺たちは無事帰還した。




