海に行っても駄女神だよ
そんなこんなで四人で海に来た。
全員水着はプールの時と同じ。変える必要もないしな。
「ううぅみどぅああぁぁ!」
「サファイアうっさい!」
「ヤーッホー!」
「それ山でやるやつ!」
女王神のプライベートビーチである。
澄んだ海。綺麗な砂浜。よく晴れた空。絶好の海日和であった。
「よーし、じゃあ特訓するぞ」
「遊ぶんじゃないの?」
「合宿みたいなもんだよ。ちっとは真面目に訓練するぞ。俺の教師としての仕事がなくなる」
「いいでしょう。最初は何をしますか?」
「最初にやることと言ったらストレッチだ。準備運動は大切だぞ」
急に海に入ると危ないからな。
ちゃんとやっておこう。海で泳ぐのは久しぶりだ。
俺がまだ駆け出しの勇者だった頃なら、ここで揺れる胸とか尻とかに欲情していたのだろうか。もうそれすら曖昧だなあ。我ながら枯れている。
「ストレッチ終わったら遠泳をやる。目標は……そうだな。ほいっと」
手から赤い魔力球を撃ち出し、それなりに遠くへ浮かべる。
「あれに触れて戻ってこい。俺の魔力が付くから、ズルはできんぞ」
「まあ楽勝よね!」
「体力テストならば慣れました」
「さてどうかな? ちなみに、こっちの鉄板で肉を焼く。早く帰ってこないと野菜だけになるぞ。カモンイルカ!」
プールの時に出てきた浮き輪のイルカ出現。
あらかじめ魔力も込めておいた。
「こいつにリベンジしてもらう。イルカくんより遅れると飯が減るぞ」
「ふっ、いいわよ望むところよ! 浮き輪に負けてしょんぼりした、あの頃のわたしとは違うのよ」
「本当にあの頃のお前は何をやってたんだろうな」
思い返すと凄くアホです。いや今もアホだけどね。
「よーしじゃあ一列に並べ。いくぞー。レディ……ゴー!!」
「いきますわ!」
「今回こそ勝ってみせます」
なかなかのロケットスタートを見せてくれる……イルカ。
やべえちょっと魔力込めすぎたかも。
「前より速くない!?」
「これは……厳しいですね」
それでも食らいついている駄女神一同。
成長してんだな。さて、あいつらのために鉄板の準備をしよう。
「ちゃんと焼きそば麺も買ってあるしな。高級なお肉は多め、帰ってくる頃に鉄板を温めておく。野菜は少なめで……」
楽しくなってきた。食ったら俺も泳ぎたい。
そろそろ折り返し地点だろうと思い、生徒に目を向けてみた。
視力が異常発達しているので問題なく見える。
「イルカつええ……」
先頭イルカ。僅差でサファイア。ちょっと遅れてローズとカレン。
元々イルカという生物は、海の中を高速で泳ぐ。人間では追いつけない。
いやまあ浮き輪なんだけどさ。それでもイルカなんだなあとか思ってしまう。
「追いつけませんわ!」
「このままでは食事が……」
「こうなったら奥の手よ!」
ほう、奥の手なんてあるのか。見せてもらおうじゃねえか。
「必殺! ブリューナクボンバー!!」
ブリューナクに魔力を込めてぶん投げやがった。
「うわきったねえこいつ!?」
イルカくんは爆裂。海がちょっと荒れる。
「ふはははははは! 女神が浮き輪に負けるなんて、あってはならないのよ! これでわたしのご飯はぶっほああぁ!?」
「ちょっとサファイア!?」
「……最悪です」
波にのまれてジタバタしているアホ一同。いや、アホはサファイアだけか。
「綺麗な海で何やってんだかね」
あの程度で溺れることはないだろう。
危機に直面した時、どう対応するかも見たい。
「ふう……少々疲れましたね」
一番乗りローズ。当然の権利のように全裸である。
「水着どこやった!?」
「波に流されましたね」
「スクール水着なのにか?」
「ええ、女神界は不思議がいっぱいです」
「とりあえず戻すぞ」
魔法で水着を着せておく。俺が変態みたいだからな。
「あら、先を越されてしまいましたわね」
二番手カレン。普通だ。普通に泳いで帰ってきた。
「普通って素晴らしいな」
「どういうことですの?」
「なんでもない」
海上に大きな水柱が上がり、そこからサファイアが突っ込んでくる。
「これが海中女神キックよ!」
「泳げよそこは」
砂浜が荒れるので、全ての衝撃をカットしておいた。
「さあお肉よ! お肉の時間が来たわ!」
「微妙にルール違反くさいが……まあアクシデントに対応できたってことでいいか」
「ではご飯ですね」
「まだ早い。次、砂浜ダッシュ。また魔力球出すから、それにタッチして戻ってくること」
「ええーお腹すいた!」
「そもそも武器の上達具合を見るという話はどこへ?」
そっちも気になるな。幸い砂浜だ。良い訓練にはなるだろう。
「よし、予定変更。俺が魔力球をどんどん出す。それを武器のみを使って壊せ。武器から衝撃波や魔力を引き出して撃ち出すのはセーフな」
「なにそれ面白そう!」
食いついたか。ならやる気の出る方でいこう。
「よーし腹減ったし、全員まとめていってみるか」
「いつでもいいわよ!」
「どんとこいです」
大小様々な魔力球を出し、三人の周囲に、ちょっと離れた位置に、そして海の上へ飛ばす。どこへどう攻撃するか調べよう。
「ブリューナク!」
槍を全身使ってぶん回すタイプのようだ。
豪快に動きながら、一番近いやつから切り飛ばしていく。
「楽勝楽勝、ってあれ? なにこれ? 消えないわよ」
「二回当てないと消えないやつを混ぜてある」
「んじゃ槍スキル……女神二連槍よ!」
槍で一刺し。だが衝撃は二回。二連撃か。
武器スキルが順調に上がっているようだな。
「暴風女神突き!」
荒れ狂う魔力を突きに乗せ、周囲の球もろともぶっ飛ばしている。
「力とはパワーなのよ!」
「おおー、いいね」
膨大な魔力は、ほぼ尽きることを知らない。
ならば簡単だ。パワーをスキルという形で最適化すればいい。
あとはぶっ放せば、それだけで技だ。
単純に二回攻撃だけで、ぶっ壊れパワーを活かせる。
「ケリュケイオン!」
カレンは新しい魔力になれることが最重要課題だ。
うまいことケリュケイオンによる魔弾連打で、遠距離の不安を解消している。
「ふうぅ……はっ!」
両手に別種の魔力が感じられる。だがそれも一瞬のこと。
高速で移動するカレンの手に触れた魔力球は、音もなく突然消えた。
「無効化能力? もう自分のものにしたのか」
「いえいえ、両手に集中するのが精一杯ですわ。まだ魔力に乗せて飛ばしたりはできませんし」
「いや、そりゃきついだろ。できたら強いなんてもんじゃないぞ」
「精進あるのみですわね」
こっちはやる気があるので問題なし。
欠点も把握できているし、この調子で見ていこう。
「最後はローズだが」
「なにか問題でも?」
二刀流を華麗に使いこなしている。
しかも二本に流す魔力がそれぞれ違うようだ。
やるな。そういうの中二心がくすぐられる。
「フォームチェンジ」
めっちゃ丈の短い和服になる。
着物っていうか浴衣じゃないかなこれ。
「武士道とは……脱ぐことと見つけたり」
「武士に謝っとけ」
剣の冴えが増す。やはり魔力が質ごと変わっている。
斬撃に属性魔法を込めて、遠距離攻撃として飛ばすこともできるか。
「あっつ……やはり砂浜で和服は無謀でした。脱ぎます」
「水着になるならいいぞ」
そりゃ暑いよな。うん、中はビキニだ。水着さえ着ていればいいや。
「秘剣……ヌーディストビーチスラッシュ」
「違うぞー。健全なビーチだからな」
七色を超えた斬撃の乱れ斬り。
適当に振るのではなく、しっかり獲物を認識して、攻撃しているところがポイント高い。
「終了。容易ですね」
全員の武器スキルと今できることを把握。
成長の兆しあり。とまあそんなところだな。
「よーし、よくやった。飯にするぞ!」
「いやったああぁぁ! で、ご飯はどこ?」
「焼きそばの予定だ。セットがあっちに……」
「先生、鉄板を温めておきました!」
「みなさんお強いデスねー。写真バッチリ撮っておいたデース!」
クラリスと美由希がいる。なぜにいらっしゃいますかね。
「お二人ともどうしてこちらに?」
「月イチの取材デース。先月の記事が好評だったので、毎月やることにしたのデス。女王神様から許可も頂いてマス!」
「もう少し休暇が伸びましたので、一緒にバカンスでもと。焼きそば、お手伝いいたします」
来ちまったもんは仕方がない。材料も多めに持ってきてくれたらしいので、いっちょがっつり作りますか。
「海産物を手に入れてありマスよー」
「野菜も準備万端です」
「よし、じゃあ全員で作るぞ。普通のやつと海鮮焼きそばと……」
「先生の好きな、あんかけ焼きそばの準備もあります」
「でかした! 合宿の間いていいぞ!」
「ありがとうございます!」
そんなわけで楽しく焼きそばパーティーして、海の見える旅館へと向かったのであった。
焼きそばは超美味かった。やっぱりみんなで作って食うと美味いな。




