駄女神のお部屋ローズ編
せっかくの休日。なぜかローズに呼び出され、部屋に行ったことが運の尽き。
全体的に白と青基調で、スッキリとした部屋。所々にマジックアイテムがあったり、別室に研究設備がある以外は、普通の女の子の部屋だ。
「さあ、服を着ていても力が出せるギリギリを調べますよ」
今はその部屋に、いくつかの衣装がある。
俺は運悪く、こいつの実験に付き合うこととなった。
「運のステータスだけ無限にしておくべきだったか……」
衣装を前にうなだれるしかなかい。勇者とは時に無力である。
まあ教師やるって言ったし、せっかく成長しようとしているんだ、ちょっとくらいは付き合ってやるかね。
「まず全裸から始めます」
「はいはい。で、お次はなんだい?」
「リアクションが薄いですね」
「ここはお前の部屋だからな。裸でも止める理由が薄い」
自室でくらい脱がせてやろう。俺がローズの部屋にいるだけだ。
そのへんは譲歩しよう。
「まず巫女服」
「まずで巫女服はおかしくね?」
「意外と似合っていると自負していますが?」
「うんまあ、意外だけど似合ってるよ」
髪が青いくせに、白と赤の巫女服が似合っている。
もとは美少女路線なためか、大抵のものは似合うだろう。
本当に性格で損しているなこいつ。
「これが一番布面積が多く、枚数も多かったもので」
「多いやつから調べていくわけか」
「祈りでも捧げましょうか。神聖な力が増している気がしなくもないですし。式神も使えるかもしれません」
「そりゃ陰陽師で……ちょっとそのままでいろ」
魔力の質が完全に変わった。以前も同じようなことがあったな。
ちょっと細かく調べてみるか。
「なんです? 巫女服に欲情するタイプですか?」
「違うわ。ステータス見てんだよ。お前、マジで神聖魔法得意になってんな」
他人のステータスを見るくらいはできる。
ゲーム風の異世界と、VRMMOの世界とかで覚えた。
細かく見るのはだるいので、ざっと目を通す。
神聖魔法や白魔法なんかの能力が爆上がりしている。
「魔法は全種類使えますよ?」
「その中でも一番上になってんぞ」
「おかしいですね。そのようなことがあろうはずがございません」
「別の服を着てみてくれ」
「そうですね。厚着するストレスを軽減するためにも、薄着になりましょう」
言っている意味はよくわからんが、まあやる気出してんならそれでいい。
「ではマイクロビキニです。清楚さを出すため、色は白」
「清楚と真逆の存在だろ。で、どうだ?」
「格闘能力は上がっていますが、普通ですね。可もなく不可もなく。先生の反応もそんなものですね」
「単純に脱ぐの見飽きてきた」
「なるほど、レアリティの損失ですか」
「どうでもいいから、次の服だ」
服を変えると、その服に応じた特技が加わるようだ。
才能の付与といえるかもしれない。
「お前も妙な力があるな」
「服など邪魔なものでしかありませんでしたので、まさかこんな特技があったとは」
「これからは服も着てみるんだな。素材は良いんだから」
「ええ、良質の素材で作られているのか、着ても不快感は少ないです」
「いやお前ももとは綺麗なんだから、脱ぎグセだけどうにかしろよ」
「クセというより性癖ですね」
「なおダメだろ」
これ矯正できるのか? 俺の教師生活は、予想を遥かに超えてハードだ。
「次はチアガールです。これは応援や加護でも強くなるのですか?」
「なってるなってる。普通の人間に加護与えると、爆発して死ぬなこりゃ」
「では次、普通のワンピース」
「あんまり上がってないな」
「特別強くなったとも感じません」
どうやら職業が曖昧なものは効果が薄いらしい。
魔力の質や量が上がっても、結局それだけ。
巫女服のように特別な服が必要らしいな。
「ここまでで気付いたことは?」
「服さえ着ていれば、下着は不要だと思います」
「必要だから却下だ」
しばしファッションショーが続き。ちょっと疲れが見え始めた。
「ここらで一休みしろ。疲れてんだろ?」
「そういえば、お客にお茶も出していませんね」
「いやいいよ。おかまいなく」
「そうもいきません。お茶は何色がいいですか?」
「色!? 色で決めんの!?」
「青色と銀色がありますが」
「緑茶とかじゃねえんだ!?」
やばい。何出てくるかわかったもんじゃないぞ。
「流石に冗談です。紅茶でいいですね」
「普通にあるんかい」
出されたアイスティーを一口。普通だ。そして美味い。
俺に毒とか通用しないが、それでも警戒していた。
ちょっと反省しよう。いい感じに体が冷えて落ち着いた。
「ん、美味いな」
「ええ、そこそこいいものですよ。お望みなら、もっと危険なお茶もありますが」
「いらんいらん。毒や薬は味を落とす」
「飲んだことがあるようですね。やはり無効化するのですか?」
「ああ、全世界の毒というか、状態異常に耐性がある」
これは必須だ。どんな世界も攻略の近道は、状態異常の無効化である。
「先生は……人なのですか?」
「当たり前だろ」
「人類は、いくら神の加護という圧倒的チートがあろうとも、それに耐えることができません。女神ですら身の丈に合わぬ加護は危険です」
「運が良かったんじゃね?」
「ふざけているのですか? ある世界では金メダルという、世界一の称号を持つもののクローンを作り、数百倍に強化して邪神が加護を与えたところ、耐えきれずに身体は爆散し、暴走した怨念は、勇者と女神に浄化されました」
「知ってる。意図的に人体改造やってた世界があるんだろ。そこも俺が潰した」
チャンピオンのクローンを兵士として使おうと、実験とかしている世界があった。
無論、そんな外道連中は女神の目に止まり、俺が名指しで呼ばれて潰した。
「先生は異常です。そこまで強化しても、本来女神の足元にも及びません」
「駄女神だからだろ?」
「駄女神でも神は神。サファイアの攻撃を受けて無事でいられるはずがありません。ヴァンパさんもです。あの吸血鬼、強化しましたね?」
「バレたか。ステータスを三百倍くらいに上げてやったよ」
なぜバレた。もっと丁寧に細工すべきだったか。
互角の相手に勝つことで、自信つけてやりたかったんだけどなあ。
「先生が選ばれた理由は、勇者だからもあるでしょうが、女神と戦っても死なないことが大きいのでしょう。私は先生より強い人を知りません」
「強いやつなんていっぱいいるさ。少なくとも、俺と同じ異世界を救う男がいるという伝説がある」
「伝説……? 女神界にも伝わる男の伝説ですか?」
「多分それだ」
異世界を救い続けているうちに、女神に聞かされた伝説の勇者の話。
俺のような男がいると知って、なんとなく嬉しかったのを覚えている。
「あれは異世界の犯罪抑止と、女神に発破をかけるためのおとぎ話ですよ?」
「……マジで? 週八回。六時間で異世界を救ってたって話は?」
「バイトのシフトですか。週八回って……一日二個の異世界を救っていますよね」
「マジでか……? 会ってみたかったのに……結構憧れてた時期とかあったんだぞ」
地味にショックである。まだ勇者という言葉に憧れがあった時期。
勇者が異世界処理業者みたいなもんだと思っていない頃。
俺にとって目標だったのに。真似して週四回異世界を救って、過労になりかけたのに。
「夢が……サンタはいないと五歳児に突きつけるような、むごい真似を……」
「意外とピュアですね」
「やかましいわ。服の続きやるぞ。多分だが、魔術的な方がおしゃれより魔力が上がる。逆に可愛さのある服も、何かしらの効果はありそうだ」
「スリングショットやマイクロビキニも、興奮度と身体能力が上がりますね。ですが、もう服がありません。もともと少ないもので」
それでも十着くらいはあったな。女ってもっと持っているんだろうか。
恋人のいた事のない俺には知る由もない。
「買いに行くしかないってか」
「ええ、いい機会です。先生にも選んでもらいましょう」
「女物の知識とかないぞ」
「構いませんよ。先生によれば、私は素材がいいらしいですからね。より引き立てていただきます」
「はいはい。立派な女神にするって言ったしな。協力してやるから、街では脱ぐなよ?」
「仕方がありませんね。ギリギリのラインを模索していきましょう」
「普通に服を着ろ」
いつになるかわからんが、まあ服を見に行くくらいならトラブルもないだろう。
ないといいなあマジで。本当に。
考えても無駄なことは忘れ、とりあえず休日をのんびり過ごすことにした。




