最終決戦開幕
雲ひとつ無い青い空。見渡す限りの大草原。
ゆっくりと風が吹く、花が咲き乱れる場所。
「まさに楽園って感じだな」
ここが女神界の中に存在する超次元。特別に作られた楽園である。
「この先の神殿にルビィってやつがいて」
「そいつをオレたちで止めるって計画だな」
勇者三人組。特忍の龍一とフラン。そして魔女の二人。
アドバイザーに俺。ついてきたリラスト。
「先生の見ている前で無様は晒せんな」
「わたしが来たからにはもう安心よ!!」
「センセー、どこか調子が悪かったりしないデスか?」
「問題ない。短い休暇だったがゆっくりできたよ」
駄女神一同とジンも一緒だ。かなり大所帯だな。
ここまでの団体戦ってもうほぼ記憶にない。
「悪いが俺は最後の方まで手が出せない。俺以外の希望があるって教えなきゃならん」
「人間の希望、俺様にも見せてみろ」
「あんた強いんだから戦いなさいよ」
「甘えるな。本来女神と人間は俺様の敵だ。女神界ごと消していいなら、一瞬で終わらせてやるぞ」
「待っていたよ」
会話の途中でルビィの幻影が空に映る。
「神殿の一番奥で待ってる。そこで管理と希望のどちらが正しいのか決める」
世界全体に美しい鐘の音が鳴り響く。
「昼の十二時をお知らせ。一時間ごとに鳴る。あまり長く待っていられるか自信はない」
「わかった。まあ遅くても夜には行けるだろ」
「そう……なら女神女王神と待ってる」
「お母様が!?」
「大丈夫。女王神は無事。結論が出るまで何もしない。だから全力で来て。じゃあね」
言うだけ言って消えやがった。
まあ女王神の居場所がわかったんだし、収穫はあったか。
「目的がはっきりしてよかったじゃねえか」
「そうね。無事なのは確定したわ」
「だがちょいと歓迎が手厚いねえ」
神殿が豆粒に見えるほどに遠く、その周囲には神格のあるやつだけで構成された大軍が見える。
なんか妙だな。全部魔力まで似ている。
面倒なのでぱぱっと検索完了。名前とステータスを見ると。
「ゼウス?」
「らしいな。あの十万の軍まるっとゼウスだけで構成されている」
「おそらく不要になった異世界から、ゼウスっていう神様だけ集めたんだろう。安直だけど、手っ取り早く戦力を増すなら悪くはないね」
あらゆる異世界から集められたゼウス。
正直どんなもんか戦ってみたいが我慢しよう。
「期待しているところ悪いが、俺様より強いとは思えんぞ?」
「あー……確かに。ちょい残念だな」
「勝てるでしょうか……あの数。それに相手は全て神様なんでしょう?」
「たどり着けば勝ち。なら死んでも進み続けりゃいい。誰か一人でもたどり着けば勝ちさ」
「それじゃダメだよ。全員生きて帰るの。自己犠牲はハッピーエンドじゃないんだよ」
「サファイアを女王神様のいる場所まで送り届けるだけでも厳しいというのに」
確かに厳しいだろう。希望はある。だが儚く小さい。
ならちょこっとだけ希望の火を大きくしてやろう。
「約束したろ。深夜十二時の鐘が鳴るまでに辿り着き、生きて立っているやつがいたら、あとは俺が終わらせる。全部助けてやる」
「そういやそうだったわね」
「全部だ。必ず俺がハッピーエンドにしてやる。そこまでいけば俺が出ても問題ないだろ」
あいつは待っていると言った。たどり着けば十分に可能性を見せられるだろう。
最後くらいしっかり決めるさ。
「よーし! ならいけそうね!」
「可能な限りの加護は渡したデス。調整もしたデスが、いきなり全力全開はノーデスよ?」
「わかってます。女神様の力、無駄にはしません」
「なーに、肩慣らしにゃちょうどいいさ」
「チャージ完了しました。いつでも撃てます」
あやめと魔女コンビにより、巨大な砲台にエネルギーが溜まっている。
そこに悪乗りした女神どもが更に魔力を注入。えらいことになっていた。
どうせなら派手に豪快にいこうということらしい。
「じゃあ勇者軍、出陣だ!!」
「発射ー!!」
膨大な魔力が解き放たれ、一直線に神殿までの道を切り開いていく。
なんとも綺麗な開戦の狼煙だ。
「全速前進!!」
一斉に駆け出す勇者軍メンバー。
散らばって行動するのではない。女神とリリカを先頭に、一塊で突っ込んでいく。
「相手は神だ。オレらが散らばれば各個撃破されるかもしれねえ」
「ならまとまって、一気に突っ込む!!」
ここからしばらくは観戦するだけだ。
だが不安はない。あいつらならどんな壁でも超えられる。
「電撃くるわ!!」
「いきますわよ!」
カレンの無効化能力を付与されたフランとリリカにより、雷撃をかき消して進む。
剣と銃弾により電撃を撃ち落とすという、常識から外れた芸当ができるのも修練の賜物だ。
「では魔女のみなさん、教えた通りにやりましょう。走りながらでもできるはずです」
「結界を張りつつ、できる限り前の敵を減らす!」
「わたしに不可能はないわ! 究極女神螺旋……零式!!」
サファイア、魔女、ローズ、により攻撃魔法の嵐が飛び交う。
それでも距離を詰めてくるゼウスをクラリス、美由希、リーゼ、ヘスティアで潰していく。
「我らが道を阻むのならば」
「斬って殴って蹴り飛ばすデス!!」
元々女神界でも抜きん出た実力者だ。
紙吹雪のようにゼウス軍が散らされていく。
俺といた頃よりも格段に腕を上げているな。
「……嬉しいねえ」
「ヘスティア様?」
「先生が見ている。先生と一緒に戦える。ずっとこういう機会を待っていたんだ。強くなった自分を見てもらうために。先生に笑顔でいてもらうために。私は生きてきた」
「私もです。女神界に戻っても、先生の名に恥じないように。ずっと成長してきたつもりです」
「存分に暴れるとしよう。勇者の生徒であることを知らしめてやるのさ」
「はい!!」
女神組はほっといても大丈夫だ。この程度は勝てる。
人間組がちょい心配だったが、問題なく戦えているな。
それでも耐えるほど屈強な肉体や鎧を持つゼウスだけが道を阻む。
「やるものだな。だがこの程度もできんで師匠の時間を使うなど許さんよ」
「お前は行かなくていいのか?」
ジンは俺の隣で見学中。少し楽しそうだ。
短い期間だが一緒に教えたりしたので、愛着でも湧いたかね。
「いきなり俺様が出てはつまらんだろう? まずは生徒の成長でも見てやるのだ」
「出番が残ってるといいな」
「無くても構わん。最悪貴様にリベンジできればいい」
「なるほどな」
のんびり話している最中にも戦闘は続く。
そろそろ入り口まで届くな。
「激槍猛爆砕!」
「七龍旋風脚!!」
残りのゼウスを神殿の門ごとふっ飛ばし、見事侵入成功。
「よっしゃあ! このままいくぜ!!」
「流れに乗っていきましょう」
そのまま奥へと猛ダッシュ。
僅かに残ったゼウスが後を追おうとしている。
「まあこのくらいの手伝いはしてやろう。俺様は寛大だ」
ジンが右腕を振り、残ったゼウスを消した。
完璧に第一関門突破だ。
「辛いのはこっからだ。負けんなよ」
「負けんさ。勇者と魔王の生徒なのだからな」
この先どんな敵がいるかわからない。
だがあいつらならいける。勝てる。
こっちも少し策を打つか。
「何をしている?」
「ちょっとな。来てくれるか連絡取ってみようかと」
連絡の魔法を発動し、座標特定。
そこまで覗き込んでいたジンが意外そうな声を上げる。
「ほう……だが来るのか? やつらは並大抵のことでは動かんぞ」
「知ってる。まあ来なくても俺が解決するさ。勇者だからな」
「難儀なものだな」
「いいんだよ。好きで勇者やってんだ」
勇者であることを後悔したことはない。
それはこれからも同じだろう。
「後進が育っているのだ。そろそろ引退時かもしれんぞ? クックック」
「しばらく隠居も悪くないかもな。その前に駄女神を立派な女神にしなきゃいかんけど」
「先は長いぞ?」
「それも楽しいさ」
連絡終わり。さて勇者軍はどこまで行ったかな。
いつも感想・ブクマ・評価ありがとうございます。
誤字脱字報告機能を試験的に入れてみました。
当て字とか狙ってやっている部分もありますが、自分では気づかない部分もありそうなので。
なんとかこのままエタらず最後まで書ききりたいと思います。




