突然の訪問者
突然誰も入ってこられない空間に裂け目ができ、誰かが侵入してくる気配がした。
「これ俺の魔法だな」
「はい?」
「大昔に渡した転移カードだ。めっちゃ懐かしい」
そうそう、あれは確かずっと前の……なんか勇者の女の子とかに渡していたやつ。
「ヘスティアとカレー屋にいた頃だな」
「ヘスティア……ヘスティア様!? 親交があったのですか!?」
「知り合いか?」
「知り合いといいますか、大女神ですよ? 正直伝説レベルです」
「あいつも色々やってんだなあ」
なんだか懐かしくなる日だな。
んなこと考えていたら何人か出てきた。
「女神……じゃないな。人間だ」
「ここ……は?」
「ここが勇者の世界かい? 地球と変わんないようだけど……」
金髪碧眼の女と、なんか近代的なアーマー着ている女。
なんかどっかで見たぞ。他にも大和撫子っぽい女がいる。
「何者です! ここは勇者と女神しか入れない世界、女神の承認無しに立ち入ることは禁じられています!」
「女神って本当にいるんだねえ」
「エリゼみたいなものかしら。私達は怪しいものじゃないわ。勇者のカードを使ったの」
昔俺が渡したカードだ。そこそこ配っていたはず。
「そんなもの一枚で転移できる世界ではないはず」
「できるさ。勇者だからな。そいつは確かに俺のだ」
「勇太! やっぱりあんただったのね!」
「ゆーた?」
なんだっけ。なんか覚えはあるんだけど。
「忘れたの? 特忍のフランよ」
「えーっと……すっごい前に会ったような」
「まだ一年くらいでしょうが」
「そっちと時間の流れが違うんだろ。おそろしく前だぞフラン」
そうだフランだ。うーわ本当に昔だ。
なんだよギリギリ思い出せた俺を褒めてくれよマジで。
「勇太というのは?」
「忍ネームだ。ヘスティアがつけた。書類とかの記入例でさ、山田太郎とかあるだろ? 勇者太郎で勇太でいいじゃんとかそんなこと言われてな。こだわりもないんで採用した」
ちなみに太郎も本名じゃない。
偽名増えすぎたな。一回整理する……のめんどいからいいや。
「そんな理由だったのね……まあいいわ」
「うおおああああぁぁ!!」
なんか大爆発しながら人が入ってきた。
まだ増えるんかい。
「思いっきり顔ぶつけたぞ……ああもう……ここどこだよ」
龍一と、もう一人の女誰だっけ。なんだここ同窓会会場か。
「お、見つけたぜ勇太」
「先生!!」
「えー……っと……あれだな。リリカだ。思い出せたぞ」
脳トレさせられてる気分だぞ。そこまで歳くってねえよ。
「そうです、リリカです! 忘れてたんですか!?」
「超昔に会ったやつだしなあ……お前見た目変わんないな」
「まだ二年くらいですよ?」
「どうも時間の流れが違うらしいわよ」
元気なようで何よりだ。
リリカとその仲間二人。龍一とフランか。
「なんかあったのか?」
「そうそうそれだよ! 世界がやべえんだ」
どうやら思っていた以上に女神界からの侵食は早いようだ。
説明を聞く限り、相当予定を早めているな。
「その世界の維持どうしてんだ? お前らが抜けていいのか?」
「そこは創真とゼクスがなんとかしてくれてる」
「魔女のみんなもいるわ。他にも別世界から来た子がいるの」
どんどこ混ざっているようです。
異世界さんに迷惑かけ過ぎだろ。
「そんなわけで直球で頼む! オレたちを強くしてくれ!」
まあそうくるよな。だがこれはどうしたものか。
正直かかわらせていい次元を超えるだろう。
死にに行かせるのではないか。
「ここは勇者と女神以外の存在が禁じられている世界です。そして勇者様は勇者活動を禁止されています」
「そこは問題ない。ちゃんと誰かを鍛えるのはセーフだと許可取ったろ?」
「ですが……」
「お願いします! 世界が危ないんです!」
「正直、今回はかなり厳しいんだ。俺が出向いて潰さなきゃいけないレベルでな」
女神界とそこで行われたクーデターもどきについて説明する。
異世界が減っている理由もな。
「勝てんのかそれ?」
「できる。ただ生徒の女神も動いているし、間違いなく生命に関わる戦いになる」
「オレたちの世界もやばいんだ。これは女神だけの問題じゃないさ」
「そうよ、ここまで来たら止まれない。その女神を止めればいいのよ」
どうせリラストも強くする予定だ。
なら今後のためにも鍛えることは悪くない。
『面白いね』
どこからか声が響く。
次元に裂け目を作り、空に何の気配もない女神が現れた。
「今日は客の多い日だな」
長い白髪と真紅の瞳。
どちらかと言うと大人の女神だ。
「何者です? 女神の訪問予定はありませんよ」
「勇者を見に来た」
龍一たちが止まっている。
完全に停止しているが、これは。
「時間を止めて……いや消している?」
「時を無に戻している。伝説の勇者なら意味がわかるはず。人体に害はないよ」
「ほう、珍しい女神もいたもんだ」
こいつ強いな。
全女神の中でもトップクラスだ。
「ルビィ。始まりの世界へ導く女神。女王神とサファイアがどうにもならない場合のために、世界をあるべき姿へと戻す」
「そんな計画は聞かされていません」
銃を構え、警戒を増すリラスト。だがルビィは怯む気配などない。
銃が光の粒子となって無に帰った。
ちょっと危険だなこいつ。
「無駄。私には歴代女神の因子がある。女神界の歴史そのもの。ただの女神とは違う」
「その特別な女神が何の用だ」
「勇者が見たかった。世界を救い、維持できる存在。全てを原初まで戻す必要があるのか、勇者に任せるのか。あなたのせいで疑問が残る」
どうやら妙な疑問のおかげで世界は残っているらしい。
「本来女神界の制圧は簡単なはずだった。けれど女王神に逃げられ、生徒にも負けている。それはどうして? あなたと出会った駄女神は、みんな成長の限界を超えて強くなっている。恐怖や絶望を見せない」
「本来女神はそれくらいできるんだよ」
「そこに女神界の、女神の可能性を見た。あなたのやってきたことを尊く、偉大であると認識する女神も多い。事実救われた異世界は、多少のトラブルはあっても平和を維持している。それは賞賛に値する。だから結論を出したい」
「結論?」
こいつも何か迷っているのだろうか。
表情は変わらず、何の力も感じない。
完全なる無の女神に、悩みがあるというのも新鮮だ。
「どちらが正しいのか。そのために世界の融合は止めてあげた」
「そりゃどうも。ついでに戻しちゃくれないかね?」
「ダメ。世界は不安定。数が多すぎる。駄女神も増えた。救える世界を、残すに値する世界を選別する」
「そう都合よくいくかな? 俺の生徒も動いているぜ」
「駄女神や勇者がどれほど成長しようとも、完璧に生み出された存在には勝てない。でも例外がいる。それがあなた。あなたは異常。全てがおかしい」
「それはちょっとわかります」
リラストが同意している。
いやそこはもっと柔らかい表現でお願いします。
「だから人間と駄女神で私たちを止めてみて。どうせ本部の場所は掴んでいるでしょう。最奥の間に辿り着き、私を倒してみせて」
「俺も出ていいのか? 活動禁止なんだろ?」
「だからあなたが強化するの。最強の勇者が戦うこと無く、私のもとに来る。人と神の可能性を見せて欲しい。まだ見ぬ勇者によって世界が救われれば、そこには希望と可能性があるという証明になる。あなたがいなくなっても平和な世界ができることになる」
「いいだろう」
「勇者様?」
乗るしか無い。でなければ異世界を全て守りつつこいつと虚無を潰すことになる。
可能っちゃ可能だが、後進が育たないのも事実だ。
「いつでもいい。待っている。世界に必要なのは管理と女神か、希望と勇者か、決めましょう」
「別に両方あっていいんだよ。お前らは極端だ」
「かもしれない。けれど人の可能性を信じることができない。儚く脆い命に、全てを委ねることはできない。証明してみせて」
「おう、やってやるさ」
ルビィの体が消えていく。独特な転移魔法だ。
これは加護に近いな。
「もう一つ、気になっている。昔あなたに負けた虚無は女神がいなかった。加護を与え、さらに強化されて、フェアな条件で勇者と戦わせたらどうなるか」
「俺が勝つ。必ずな」
「そう。ならそれでいい。世界がそれを選ぶなら」
それだけ言ってルビィは消える。
同時に無へ変換されていた時が再び始まった。
「どうするのです?」
「鍛えるのさ。全世界の希望をな」
のんびり休暇を取っている場合じゃなくなった。
しっかりこいつらを鍛えてやろう。




