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俺は異世界で死にまくる!  作者: 彩葉 翔
第一章
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4.新しい家族

 そこは、地の底に作られたとは思えない居住空間だった。小さいながらも木で作られた家が何軒も立ち並び、神殿のようなものもある。


「ようこそ〜、新入りくんっ」

「よろー」


 次々に投げかけられる言葉に「始めまして」や、「よろしくお願いします」と言いながら、メルクの後を追って居住区の奥に入っていく。

 どの世界でも初対面の印象は大切だからな。


「すまんの、久しぶりの新入りで皆興奮しているのじゃ」

「いえ、嬉しいです」

「スライムの生活は厳しいのじゃがな、ここでは皆楽しくやっとるのじゃ」


 嬉しいことは嬉しいのだが、スライムというのがなんとも締まらないところだ。


 どうやら、身につけるもので個人を判断してるらしく麦わら帽子やマフラーなどを着けている。

 一瞬可愛いと思った自分がいるのは内緒だ。もちろん、異性としてではなく小動物を見る時の可愛さだ。


「ここがお主の家じゃ。じゃが、今は集会が先じゃ」

「集会ですか?」

「お主の名前とシンボルをわたすための集会じゃ」


 名前か……どんな名前がつくのだろうか。自分で痛い名前を付けて後悔するよりはマシだとは思うけどね。


「シンボルは、何をくれるのですか?」

「それは見てのお楽しみじゃの、ホッホッ」

「楽しそうですね……」

「お主は神殿で待っとれ」

「――――はい」


 神殿は高さ2メートルほど、人間であれば窮屈な高さだがスライムであれば問題ない。イメージとしてはパルテノン神殿を簡素にした感じだ。


 彼らにもスライムなりの歴史があるのだろうか。

 本当に、ほんとーにほんの少しだがスライムにも興味が湧いてきた。死ぬのは先延ばしにしようかな……。

















「これから、歓迎集会を行う」


 20分ほど経過し、俺とメルクを合わせて総勢12人のスライムが集まった。いつもは「じゃ」や「ぞ」を語尾につけているメルクも標準語で話している。


「これから新人の命名式を行う。……グラス頼む」

「はい。規則通り、彼を除いた一番の新入りである私が命名させて頂きます。命名……」


 命名する方も緊張するようだ。自分で言うのもあれだが、俺もかなり心拍数が多くなっている。

 普通は、物心ついた頃には名前はついてるものだからなぁ。


「『リスト』です」

「――――新入りよ、リストで構わぬか?」


 それは、断っても良いということか。

「リスト」か、悪くはないよな。俺が|厨ニ〈暗黒時代〉の時に考えた暗黒ネームよりはマシだ。


「もちろんです」 

「「「「「ヨッシャァァァァ」」」」」

「――へ?」


 今までの重い雰囲気が一転し、9人中5人が大声を上げる。次々に「よかったぁ」とか「リストよろしくー!」と声をかけられたり、話を始めたりと、もはや飲み会のノリになってきた。

 うーん、なんだろうなこれ。


「リストよすまんの。命名の儀式はわしらにとって不快意味を持っていてな。皆、気が抜けているのだよ」

「あ、あぁ。そうですか」


 どこの世界でも大事な式典の後に吹っ切れるのは同じなんだな。中身は完璧な人間の俺でも親近感が湧くな。


「お主ら、静かにせい……静かにせんか! よし、静かになったの。まだ、シンボルの授与が残ってるじゃろ」

「「「「「すいませんでした」」」」」

「まあ、よい。これからリストがリストである証を渡す。少し目を瞑っていてくれないかの?」

「は……はい」


 俺は目を瞑る。

 何をくれるのだろうか、シンボルは常日頃から身につける物らしいからな。出来ればセンスのいいものが欲しいところだ。

 スライムにセンスを求めても無駄か……。


「もう、よいぞ。開けてくれ」


 半分期待しながら、半分は諦めながら少しずつ目を開く。これは……。


「扇子……ですか?」


 スライムの身体ではあるが、自分の体と同じくらいの大きさだ。

 何より目を引くのが、その絵柄。赤、青、黄色、緑と色が変わっていき、それぞれのすべての色に別の龍――ドラゴン――の絵が描かれている。

 持てるかどうかという不安もすぐに解消される。扇子はひとりでに動き出し俺の体の横にピッタリ密着する。重さは全く感じない。


「そうじゃ。この扇子はスライム族に代々伝わる伝説級のアイテムの1つじゃの。かつて、下克上時代スライムが天下を取っていた時代に作られた物での」

「そんな……そんな大事なものいいんですか」

「いいんじゃ。そのセンスには魂が宿っておっての。気に入った奴にしかついていかぬのだ。今まで誰もそいつを装備できたスライムはいなかったのじゃ」


 下克上時代、伝説級アイテム、魂が宿る。いろいろと新しい単語に、理解不能のことを言われ、頭がパンクしそうだ。

 要するに、すごいアイテムだが今まで誰も装備が出来なかったから装備できた俺にくれたってことかな。

 ならば、お礼は必須だよな。


「貴重なアイテムありがとうございます」

「わからないことがあったらグラスに聞けば答えてくれるはずじゃ。奴がリストの教育係じゃからな」

「はい、了解しました」

「これで、集会は終わるがの。疲れたら自分の家に帰ってもいいぞ?」


 この体になってから疲れとは無縁で、食欲も睡眠欲も全く無いが、精神的な疲れが大きい。

 ぜひとも休みたい。それでも、聞きたいことが多すぎるしな……。


「グラスさんに話を聞いてもいいですか?」

「もちろんいいとも…………グラス! 来なさい」


 端の方で楽しそうに雑談をしていた一人のスライムが慌ててこちらに向かって来る。


 集会のときは、しっかり見ていなかったが改めて見ると、草原にいたレベル1スライムより数段階強そうだ。


 腰――のような場所――には、日本刀が装備されており、とてもカッコいい。

 手のないスライムがどうやって刀を持つのかは謎だが、あのアイテムもおそらく魔法的な何かを持つのだろう。


「お呼びしましたか?」

「あぁ、すまんの。教育係としてリストにいろいろと教えてやってくれ」

「わかりました! リスト、立ち話もあれだからな、俺の家にこい!」


 後輩が出来たことに嬉しいのだろうな。表情からは読み取れないが――スライムだからな――声のトーンからして、テンションが上がっている。

 初転生からの幼女地獄のおかげさまで今はスライムのほうが人間より好きだ。だからといって嫌悪感は拭いきれないが。


 グラスの後を追って、神殿をぬけ住宅街を歩く。


「リスト、何か俺に聞きたいことはあるか、なんでも聞いてくれ」

「グラス――さんのシンボルはどんな効果があるのですか?」

「別に呼び捨てで構わんぞ。……それで俺のシンボルのことだったか。これは『和剣』っていう、剣の種類の一つでな。その扇子と同じようなもんだ」

「伝説級のアイテムってことですか?」

「んー、敬語も少し気持ち悪からやめてくれ。取りあえず家の中で話そうぜ」


 スライム徒歩時間3分ぐらいだうか。グラスの家は思ったよりも近かった。そして俺の家の隣でもあった。


「おう、何してる入れ」

「――――お邪魔します」


 家自体は木製で、なかはひとつの部屋に、それなりの大きさの箱がひとつあるだけの簡素な作りだ。


「俺たちは睡眠も取らなければ、食事も取る必要がないからな。本来は家なんか必要ないんだが……」


 グラスが独り言を呟きながら、座布団の上に座る。スライムがそうなのだから他の魔物も不眠不休なのだろう。


「それで、俺のシンボルの話だったか? 少し長くなるが、俺たちスライムにとって常識だからしっかり覚えとけよ」

「わかりました」


  スライムでの、ではあるがようやくこの世界のことを知ることができそうだ。


「敬語はやめてくれよ……まぁ、いいか。リストの扇子、そして俺の和剣は同じ時期に作られたものなんだ。いつかわかるか?」

「たしか……下克上時代でしたっけ」

「大正解。俺たちスライムが栄華を極めた時代だ。世界最弱が最強になったことから下克上って言う名前がついたんだがな。現状を見ればわかるかもしれんがそれが最初で最後だった。それから、人間は自動で生まれるルベル1のスライムを狩り始め、生き残れるスライムもかなり減っちまってな、今ではレベルに2以上のスライムは、ほとんどいないってわけよ」


 下克上時代……そんな時代があったとは、しかも話を聞いていれば、全く最弱な種族という感じがしない。

 レベル1の段階から命を狙われる徹底した駆逐、下克上時代何があったのか聞きたくなるなぁ。


 俺の|トラウマ〈幼女〉の原因もその時代のせいということだ。あの、リスポーンキルの繰り返しはもう勘弁です。


「で、その時代に作られたアイテムを俺たちは伝説級と読んでいるわけだが、こいつがとんでもない力でな。人間を……冒険者を狩ることが出来る可能性を秘めているんだ。まあ、今の俺には無理だがな。それに、今は俺達の存在を出来るだけ人間に知られたくないって言う理由もあるな」

「人間を……人間を狩りたいですか」

「そんなの当たり前だろ!」


 グラスが大声を上げる。

 俺は今はこうだが元人間だ。少し不味い気もしたが、特に深く考えず聞いてしまった。やはり、魔物にとって人間は恨む対象なのだろうか……。


「……悪い。今のは忘れてくれ」

「も、もしよければ理由を聞かせてもらってもいいですか」


 長い沈黙が次に発せられるだろう言葉の重みを増させていた。普段の彼の性格からして――といってもまた15分ぐらいの付き合いだが――間違いなく柄に合わない空気だろう。


「――――師が殺された」

「師匠……ですか」

「そうだ。今はメルクさんが一番だが、前は師匠が一番強かった。師匠は、スライムのくせに正義感の強い方でな。ある日、人間の子供が倒れているのを森の中で見つけてな。4人で行動してたんだが、師匠が助けるといって聞かなくてな。話し合いがいつの間にか口論になり、最終的に師匠をおいていってしまってな……」

「――――まさか……」

「あぁ、そうだ。ここに帰ってきてから、メルクさんに激怒されてな。そこでみんな我に返ったんだが、時すでに遅し。現場は人間の死体が6、そして師匠はすでに魔石になって持っていかれて|秘宝〈シンボル〉も持っていかれたあとだったよ」


 絵に書いたような悲劇。

 実際に起こったと言われると言葉を失う。スライムでありながら殺される前に人間を6人も殺っているのを聞くと本当に強かったのだろう。


「魔石っつうのは魔物が死んだ時に落とす石だ。俺たちはそれを食って経験値を得てる。毎朝ゴブリンとかを狩りに行ってるんだが、それはまた別の話だな。まぁ、そんなわけで俺は師匠のシンボルを人間から取り返すことを指名と思ってる」

「そうですか……」


 俺は少しスライムを馬鹿にしすぎていたな。しっかりと自らの意思を持つ誇り高き種族なのかもしれない……。


 それは……過大評価しすぎか。

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