3.スライムだって生きている
何回目の転生だろうか。もはや、回数を数える気にはなれない。それでも、絶望の中にも希望はあるものだ。
50メートルほど前方で俺を何回も殺しているティナと親が狩りを続けていて、俺には気づいていないのだ。
こんな好機この先何度あるか分からない。もちろん俺は逆方向、森のへ進ませてもらう。
「ハーハッハッハ!」
あの父親の高らかな笑い声が完全にトラウマだ。
200メートルほど先に見える森をとにかく目指す。歩いて気づいたのだが、心なしか歩行スピードが早くなっている気もする。
これがステータスの受け継ぎ、俺の犠牲の成果……なのか?
そんなことを考えながらも俺は5分ほどかけて森にたどり着く。
あの親子は狩りを続けているが俺には気づいていないようだ。
本当によかった。出来れば二度とあの二人には会いたくない。
ここに来ればひとまずは安心できるだろう。決してフラグではないぞ。
「始めまして、新入りよ」
命の危機から脱し、ホッと息を抜いていた俺に言葉がかかった。
後ろを振り向くと、やはりというべきか当然というべきか、|同族〈スライム〉がいた。
スライムに言葉をかけてくるのはスライムぐらいだろうな。
「あぁ、生まれたばっかのやつは喋れないんだったの。これは失敬した」
「いや、喋れるが……?」
実際には口を開けて話しているわけではなく念を飛ばしている感覚だが、確かに会話が出来ている。
スライムも意思の疎通が出来たんだな。
てっきり、そこにいるだけのゴキブリのような存在かと思ってたよ。
「なんと! この森に辿り着ける奴が1000体に1体、そのうち最初から話せる奴は100体に1体ぐらいだというのにのぉ……。何はともあれ、生還おめでとうぞ」
「ありがとう」
口調こそしっかりしているものの、見た目はスライム。違和感しかないぞ。
まあ、俺もスライム、人の事は言えないのだが。
俺と違う部分があるといえば小さなハット帽をかぶっていること、声の高さぐらいか。
他は体の色が緑とか、身長とか……だいたい一緒だ。
「申し遅れたの、私はメルク。一応、スライムの|長老〈トップ〉じゃ。早速で悪いがステータスを覗かせてもらうぞ」
――――え?
まずい。俺の転生のスキルは他人に知られた時点で終わりなんだぞ。
「え? ちょっ、やめてくださ――」
「まぁ、いいじゃないか。生まれたばっかで隠すこともないじゃろ」
終わった。無限転生とかいうゴミスキルでも俺が唯一持つスキル。それに、スライムで人生を終えるのは絶対に避けたい。
メルクは俺の体をジッと観察する。俺としては何秒も見られていると、何とも言えない気分になるので辞めて欲しいところだ。
おそらくスキルを使って、俺のステータスを確認してるのだとは思うが。
「ふむ……素早さと知力が高いこと以外は普通じゃの」
「――――え?」
「なんなら見るか? 自分のステータス気になるじゃろ」
「お願いします」
スキルは読み取れなかったのだろうか。どちらにせよ好都合だな。
メルクに一時的にステータスを見れるようにしてもらう。
名前【 無し 】
種族 スライム族
Lv :1
HP :4/4
MP :1/1
攻撃力:3
防御力:3
魔法力:1
素早さ:14
知力 ︰52
運 ︰4
レア度:Z
スキル
・無し
固有スキル
・無し
うん、なんて言うか……低すきだろ。あんなに死んでこれでは救われないよな。
それに、レア度Zってなんだよ……。やっぱりスライムはスライムってことなのか?
「落ち込むことはないぞ、誰しもが通る道じゃ」
「そうですか……」
「立ち話はこれくらいにして私達の|住処〈すみか〉に行くかのぉ」
スライムに慰められた……。
こっちの世界に来てから、ある意味では不死の能力を手に入れたが、ヘタしたら人間に転生するまでに心が折れてしまいそうだ。
神様、まさか人間に転生できないなんてことはないよな……。
正直なところ今すぐ死んで新しく転生し直したいが、せっかくメルクという名のスライムに会ったからな。
もう少しスライムライフを満喫しようと思う。
俺はすでに1回失敗している身だからな。軽はずみな行動は出来るだけしないように心掛けよう。まあ、前世で軽はずみな行動をしたわけではないんだが……。
だいたい、親父のせいだ。
こっちの世界で生きていくと決めたから、親父のことはどうでもいいんだけどな。
この数分で気づいたことだが、メルクは気が利く。俺の(クソ遅い)走るスピードに合わせてくれている。予想ではあるが、メルクはスライムの中でも強い方だ。本当はもっと早く走れるはず。
その他にも理由は2つ。
1つ目は、いつ人間に襲われてもわからない場所に一人で新入りを待っていたこと。
2つ目は、勘だ。言葉では表現し辛いが、なんとなくではあるが、あの草原にいた父親よりは強そうなオーラを感じる。
スライムにも礼儀はあるらしい。少し馬鹿にしすぎてたか?
「着いたぞ、ここじゃ」
「え?」
目の前には|一際〈ひときわ〉目立つ大木がある以外に、村やスライムの姿はない。
「お主、己がなにか忘れたのかの? 状態変化はスライムの数少ない特権。そこの穴から入れるはずじゃ」
「なるほど」
なぜ人間に住処が襲われないか疑問ではあったが、スライムでしか知りえない場所にあるうえに、土の中では見つけられないだろう。
メルクが先に、大木の下にある直径5センチほどの穴に入っていき、やがて体が見えなくなる。
俺もあとに続いて穴に入る。
意外とすんなり通れるうえに、スライムの形状のおかげか、壁に引っかかるとかもない。意外と快適だ。
「ようこそ、スライムの隠れ家へ」
「今日からお前も新しい家族だ!」
穴の先で待っていたのは熱烈な歓迎だった。
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