プロローグ
今日、俺は死んだ。
子供のときから、俺には仲間がいなかった。小中高と例外なくいじめられた。
理由は分かっている。親父は歴史に名を残す犯罪者だ。木津根という珍しい苗字もあり、俺が息子であることかバレるのに時間はかからなかった。
俺はそいつらを見返すため死ぬほど勉強した。俺は親父ではない、と証明したかった。
人間は嘘をつくが、勉強時間だけは嘘をつかなかった。
そして、それなりに名の知られた大学を現役合格、卒業。誰もが一度は聞いたことのあるぐらいの有名企業に就職した。
年収もかなりよく、他の誰から見ても羨まれる生活をしていた。
ようやく報われる、そう思った矢先だった。
一週間ぐらい前からだっただろうか。
なんの兆候もなしに、上司や同僚、ご近所さんまでに無視をされ始めたのだ。
原因が全くわからない俺は、LINEで会社の部下に軽く聞いてみたのだが、「自分の名前を検索してください」と言われた。
その後ブロックされたのだが、それは後々気付いたことなのでそのときは特に気にもしていなかった。
それよりも、なぜ自分の名前の検索を勧められるのかよくわからなかった。
検索「|木津根達也〈きつねたつや〉」
20年以上の付き合いの自分の名前を検索する。
俺の目に飛び込んできた検索結果は驚きのものだった。
痴漢魔、強姦、犯罪者。
もちろん冤罪だ、ふざけんなと思ったよ。でも、すでに後の祭り、どうすることも出来なかった。
インターネット関連に強い弁護士にも話を聞いてみたが、意味の分からない金額を提示された。
有名企業とはいえ下っ端の俺には払える金ではなかった。
それでもな、俺は次の日会社に通勤したんだ。
何かの悪い冗談だと、悪夢を見ているだけでそのうちの目が覚めて、いつもの日常が帰ってくると本気で信じていた。
しかし、そんなことはなかった。
むしろ悪い方に傾いてしまった。会社には俺宛の誹謗中傷電話が何十も届き、同僚の目はどんどん冷たい汚物を見るかのような目になっていった。
そして、その日の退社のとき、上司からクビを言い渡された。
それだけならまだマシだった。
家に帰ると……いや、正確には家のあった場所だろうか。
俺の住むマンションの一室には既に別人が住んでいた。
どうやったのか、預金通帳の貯金も抜き取られ、金も失った。
すっかり日も落ち、塾帰りの子供ですら外にはいない時間。居場所のない俺はただただ何時間も公園のブランコに座って、揺れていた。
静かな住宅街に鳴り響く馬鹿な若者も、今日ばかりはストレスがたまらなく、むしろ混ぜて欲しいぐらいだった。
「こんなところにいやがったとはな」
「借金返せやゴラ!」
ガラの悪い二人話しかけてくる。こいつらが俺の金をとった奴らか、証拠はなかったが直感で感じ取った。
「は? 借金? 知らねえよ!」
既に精神が崩壊していた俺は、借金取りらしきガラの悪い男をぶん殴った。そして、二発目、三発目……とはいかなかった。
すぐに、もう一人の男に押さえつけられてしまったからだ。
「糞! 糞! 俺が何をしたっていうんだ!」
「……痛えな。あいつの息子に生まれたことを後悔しな、お前は」
「まあ、これでお前も晴れて犯罪人だよな。殴っちゃったもんなー、これで正当防衛は成立したよなぁ?」
その後は一方的に殴る蹴るだった。
親父は俺は選べない。
最初から最後まで親父のせいで俺の人生が終わるのか?
こんなことがあってもいいのか、許される事なのか?
そんなはずはない。
もし、何回も生まれ変わることが可能なら、こんな不幸も気にせずに死ねるのに……。
今日、木津根達也こと俺は、二十数年の短い人生を終えた。
感覚的には一瞬の暗闇――実際はどれくらいの時間がたったのかは分からないが――を終えて、次に俺が見た景色は真っ白な空間だった。
これが俗に言う天国というものなのだろうか。これまで、天国や地獄は信じてこなかったが本当にあるものらしい。
何をすればいいのだろうか。よくある話であれば、これから裁判が始まって天国に行くか、地獄に行くかを決めるとか、死人に会える話が有名か。
それとも、最近はやりのラノベ的展開か。
いや、現実的に考えてそんなはずは無い……よな、うん、無いな。
なら、やっぱりここは天国だな……。
『汝、前世を悔いるか?』
その声は突然頭の中に直接聞こえてきた。
前世を悔いるかって俺を馬鹿にしているのだろうか。あんな人生は理不尽極まりない話だ。何回も殴られて死ぬなんて、まだトラックにひかれるほうがマシだ。
答えは、イエスだ。
『ならば、汝にスキルを与えよう……』
この神(らしき声)の言葉を聞いた次の瞬間には俺は転生していた。
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スキル名 『無限転生』
このスキル保持者は、あらゆる生物、種族に転生することが出来る。死亡時に自動発動。前世の記憶、ステータスの一部を引き継ぐことが出来る。
このスキルは、他人に認知された時点で消滅する。
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