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ニーズヘッグが突然と消えた理由は、すぐにわかった。
立ち上がった僕は、背中の痛みを抱えながら弘明が拾い上げてくれたピンク色のスマホを手にした。
ホーム上の結衣も、体を起こして落とした青いスマホを手に取った。
弘明もまた一人なのだが、すぐに理由が分かった。
「ぎりぎりセーフだな」
「弘明、何を……」
「棗にバトルモードで入ってもらった。十時十五分までバトルモードに入ればニーズヘッグと戦えるわけだ」
そういい、時計を見ると十時十三分になっていた。後二分か。
「でもよくここが分かったわね」
「『たまだん』だから当然だろ。愛と平和のたまだん、ピンチのところにK・シューター有りってな」
「GPS機能だろう、ニーズヘッグと同じだな」
「つまんねえこと言うなよ!」
どうやら弘明が僕たちの居場所が分かったのがGPS機能だ。
そういえばニーズヘッグも僕たちの居場所を見抜いたのもGPSか。
僕の……晴海のスマホはドラゴン視アターのせいか、GPSはないがみんなは分かるらしい。
「でもバトルモードって……」
「ああ、逃げることはできない。どちらかが倒れるまで戦いは続く」
「それにしても弘明は、よく太が……」
「あたりめえだろ、あいつは太。
こう見えても俺と太はつき合いが長いんだ。一発で見破ったさ」
弘明が自慢げに胸を張って言ってきた。
「ゲームの師匠なんでしょ、秘密特訓の」
「うるさい!ただ昔の格ゲーの師匠ってだけだ」
「へー、意外だな」
「ずっとゲーセンで勝てなかった奴がいたからな。稽古つけてもらっていたんだよ」
僕はその一言で、あることを思い出してしまった。
「どうしたの、誉?」
「いや……別に」
「それより二人とも戦えるか?」
「スキルがもっとほしいわね。だけどこれで行くしかない
「ないものはしょうがない、二時間たっているから8%回復しているわけだし」
「そうね、相手が……」
「それは気にするな。相手はニーズヘッグだ」
弘明の迷いなき言葉は、時として頼りになった。
僕も太に迷ってバトルモードを申し込めなかった自分を猛反していた。
弘明なら、きっと欲望ではなく理屈で割り切れる人間なんだ。
そう考えると、やっぱり弘明が羨ましくもあり頼もしくも思えた。
「愛子ちゃん、先に有明に戻って!」
「ここに残る。スマホを受け継ぐ人間がいないと何もできない」
「けど、今ならニーズヘッグがいないし、スマホを受け継ぐ人間は……」
「あのスマホは五つしかない。開発段階だからな」
「じゃあ誰かが一人残って……」
「無理だと思う、スキルあるわけじゃないから」
弘明の提案は却下だ。
ニーズヘッグは、もちろんゲームのドラゴン戦でも相当自信があるのだろう。
勝算は極めて低い、1%もないのかもしれない。
前回の戦いでニーズヘッグの体力ゲージを一割も減らしていないのだから。
「そろそろおしゃべりはここまでだ、棗が待っているからな」
「うん」
「ああ、行こう」
僕と結衣、それから弘明はドラゴンプラネットバトルモードにログインした。
それが最後の戦いになると信じて。




