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灰色の鱗に水色の翼、近くで見ると、黒っぽい尻尾も見えた。
やはりニーズヘッグは大きくはない。ただ、威圧感と殺意を放っていた。
そのドラゴンにはどんなミサイルも、銃も、爆弾も効かない鱗を持つ。
ニーズヘッグの登場に一気に緊張が走る。
結衣は愛子を抱きかかえて、僕は前に立った。
男としての本能が、二人の前に仁王立ちさせていた。
正直、僕は怖かった。冷や汗が頬をつたった。
「人類は実に愚かだ」
「なんのことだ?」
「欲にまみれた愚かな人類は、地球の意志によって滅びるしかない。それが己の欲だ」
太の声が、ノイズのようなものが混じって聞こえてきた。
テレビ中継で聞いたあの声と同じ、野太くてエコーのようなものがかかった声。
「それはニーズヘッグになった理由ではない」
「理由なんかないぞ、欲がある人間ならいつでも取り入ることはできる」
ニーズヘッグは、破けたオーバーオールを拾い上げた。
軽く息を吹きかけると、オーバーオールが燃えて灰に変わる。
嫌悪感の目で僕はニーズヘッグを見ていた。
「なんなのよ!どうして太が……」
「結衣、愛子を抱えて逃げてくれ!」
「それは絶対にできない!」
すると結衣が急に前に出てきた。
愛子を阻むように両手を広げた、普段の強気な結衣の顔でニーズヘッグを見ていた。
「馬鹿っ、そんなことしたら僕たち人類は滅んでしまう。愛子は最後の希望……」
「誉がいない世の中なんて、あたしはイヤ!」
「そういう問題じゃない!」
「じゃあ、誉だって晴ねえがいなくなった時に辛かったでしょ!」
結衣の言葉に思い当たる節があった。
晴ねえが死んでから、しばらく人間が嫌いで疎ましくて、何も楽しめなかった。
それでもこのゲームをやるようになって少しだけよくなれた。
でも過去を変えることはできない。
「そう……でも僕は結衣を今は失いたくない」
それでも結衣の前に出た。それを眺めていたニーズヘッグ。
「人間は実に不思議だ……なぜそうまで死を急ぐ?」
「僕は死を急いだりしない。あくまでおまえを倒して……」
「ドラゴンに人間が負けるわけなかろう。それは今までの歴史で証明している」
「それでも僕は抗うさ」
スマホを僕は構えてニーズヘッグを見ていた。
ドラゴン警報が鳴るスマホは揺れていた。
目の前のニーズヘッグが太の顔と重なった。
いつもたまだんの仲間内で、大人しく温厚な太。
大食いだけど、穏やかな一年上のお兄さん。
だけど優しくて力持ちの太は今、ニーズヘッグになって僕たちの前にいた。
そう考えると、緊張からか僕と結衣はためらう。なんで戦う相手は、やりづらい相手ばかりなんだ。
「結衣……」
「……でも太が……」
「させるか!」
ニーズヘッグは翼を使い、体を前に飛ばして僕たちに向かってきた。
まるでジェット機の様に飛び込んでくる僕たちは、不意を打たれた。
そしてニーズヘッグの体当たりに僕と結衣は吹き飛ばされた。
「うわっ!」
「きゃっ!」
僕と結衣は弾き飛ばされて地面に叩きつけられていた。
僕は背中から打ったが、皮肉にもユグドラシルの巨木の根がクッションになっていた。
奥では結衣が運動神経の良さを見せて、愛子を抱きかかえて体当たりを交わしていた。
結衣と愛子に、ニーズヘッグは近づいていく。
「スマホさえなければ、ボクを倒すことはできない」
ニーズヘッグの言うとおりだ。
僕は背中の痛みを抑えつつ、線路に転がったスマホにゆっくりと近づいていく。
結衣は体を起こしたが、倒れた時に足をくじたらしい。顔を歪めて愛子を抱きかかえていた。
右足のストッキングが破けて、赤くはれ上がって血が出ていた。
「ううっ、なによ……」
立ち上がろうとしても結衣は立ち上がれない。
愛子を抱きかかえた結衣は、顔を歪めてニーズヘッグを見上げていた。
しかも結衣の持っていた黄色いスマホは、彼女の手を離れていた。
すぐさま結衣の腕からスルスルとと抜け出して、愛子は黄色いスマホを手にした。
「させぬ!」
しかし、それと同時にニーズヘッグがブレスを吐いた。
「愛子ちゃん!」
結衣が叫んだ、僕は叫んだが痛みで声がかすれた。
爆発が起き、炎に包まれた愛子はススだらけの顔で必死に黄色いスマホを守っていた。
だけど、ダメージを負っているので虚ろな顔に変わっていた。服も焼けて、焦げ臭い。
「エキドナは物理障壁があるが、ブレスに対する耐性はない。
エキドナよ、どうやら運命の時が来たようだな」
「ニーズヘッグ、人は弱くないぞ」
「最後のセリフはそれか?エキドナよ!」
ニーズヘッグのブレスを直撃しても、黄色いスマホを胸に抱きしめた愛子。
観念したのかニーズヘッグを見上げていた。
ニーズヘッグは、口元が黒い渦を巻いていた。
「ダメだ……」
背中を強打して、体を前に運ぶが線路下に落ちたスマホを拾うのに間に合わない。
また悲劇は目の前で繰り広げられるのか。
女が、僕の前で殺されてしまうのか。
僕は何もできずにただ見守るしかないのか。
苛立ち、不安、恐怖、自分の弱さを恨んだ。
だけど僕にはどうすることもできない。
ニーズヘッグがブレスを口に蓄え始めた。
愛子が観念した顔を見せた。
そして放とうとした瞬間、いきなりニーズヘッグの動きが止まった。
それと同時に一台のバイクがその場に爆音とともに乱入して生きた。
そして、ニーズヘッグの動きがあっという間に止まって……その場から消えた。
そのバイクには二人が乗っていた。
いや、始め見たときは二人だけど、すぐに後ろにいた一人が顔を確認する前に消えていた。
「あれは……」
「弘明、ナイスタイミング!」
さっきまで暗かった結衣の顔が、急に明るくはじけた。
そこには弘明が颯爽とバイクで登場していた。
「ヒーローは遅れてやってくるもんだぜ!」
そこにいたのは弘明だ。
大型バイクを乗りこなした弘明が、ブレーキに苦戦しながらオーバーランしてバイクを停止させていた。




