表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンプラネット  作者: 葉月 優奈
十一話:人類を飲みこむ巨大樹
95/106

95

晴海との初デート時から四か月が過ぎていた。今思えば、そのキスは最初で最後だった。

春先にした唇の感覚を、僕はまだしっかりと覚えていた。

でも彼女晴海はもういない、隣にいるのは結衣に変わっていた。

ホームの前には電車ではなく、巨大なユグドラシルの木の根が見えた。

この樹の根は、地上の階段に伸びていた。


そんなベンチの隣に座っていたのが、スマホを持った結衣だ。

顔が赤く、あの時の僕の様にデートをしているかのようだ。

電車はユグドラシルの幹で動かないが、ベンチで二人きりになって座っていた。

そういえば愛子の姿がないな。どこに行ったんだろう。


「結衣……そろそろい……」

「待って!みんなに会いたくない!だって……」

「結衣、何言っているんだよ……」

僕が呆れ顔になった時、結衣の顔が不意に近づいてきた。

次の瞬間、僕は意外な一言を聞いた。


「あたし、誉が好きなの」

それは結衣の告白だった。

突然の告白に僕は顔が赤くなった。

だけど、目の前の結衣はさらに顔を赤くしていた。


「いきなりこんな非常時に、結衣は何を言っているんだよ!」

「あたし、ずっと我慢してきたんだよ。誉が晴ねえを好きになった時から」

「結衣……」

僕は恥らう結衣の目をじっと見ていた。

それは普段強気で、運動神経抜群な結衣からは想像もできない女性らしい結衣の姿だ。


「だって、あたしだって誉に告白したかったの!」

「なんだよ、それ……」

「あたしはね……フラれたの。告白する前に」

結衣は、悔しそうに両手を握りしめていた。

白いストッキングとデニムパンツに藍色のブルゾンの結衣が、見せたことないような小刻みに震えていた。

運動神経が抜群で、勝気な結衣のそんな姿を僕は初めて見ていた。


「ねえ……誉は今、好きな人がいるの?」

「えっ、いないけど」

「じゃあ、このあたしを好きになって」

「急に言われても……困る」

「そう……よね」

ベンチで一緒に座っていた結衣が、はにかんでいた。

大きなため息をついて、ポケットからスマホを取り出した。


「あたしなんかより……誉には……誉には」

その声が次第に涙声になって、結衣は泣いていた。


「結衣?」

「あたし……卑怯だよ。

晴ねえが死んで、誉はずっと傷ついているのに、自分の気持ちを無理矢理伝えようとするなんて!」

泣いている女に弱い、僕はハンカチを取り出していた。


「泣くなよ、結衣」

「誉、優しすぎ……ズルいよ」

涙を流した結衣は僕からハンカチを受け取っていた。

ハンカチで顔を拭って、僕に顔を見せた。それは精いっぱいの半泣きの笑顔。


「……ごめんね、変な心配かけさせて」

「いや、僕こそごめん。いきなり結衣に言われてあんまり考えずに……」

「そうか、それが恋なのだな」

いきなり真ん中に割って入ってきたのが愛子だ。

台詞を最後まで言えなかった僕は、驚いてベンチの背もたれに背中をぶつけた。


「あ、愛子ちゃん」

「あっ……」

「わらわは恋というモノには興味がない。安心してぬしたちは恋するといい。

野高谷は誰でも好きな女たらしでしょ、このまえ神社で祈祷していたのはそれか?」

「えっ、なによ……馬鹿じゃない」

「ち、違うよ!」

結衣は愛子に見られて急に僕に怒っていた。

涙をぬぐって、強引にハンカチを投げ返してきた。

そのまま僕から離れて、背中を向けた。

う~ん、結衣はどうしてしまったんだろう。最近の様子がおかしいな。


そんな愛子が腕一杯にお菓子やら、つまみやらを僕たちの前に持ってきていた。

「大体、愛子ちゃんはどこに行っていたんだ?急にいなくなっただろう」

「食糧だ」

「食糧って、どこに?」

「あそこの売店から拝借した。お腹が空いただろう」

愛子ちゃんはそばにある売店を指さしていた。

売店にはもちろん人がいない、静まり返っていた。


「でも……」

「今は、生きて帰らなければならぬ。先は短い様で長いぞ」

「ありがと」

チョコレートやジュースを貰いながら、結衣は笑顔を見せていた。

もう泣いていた結衣ではない、笑顔で愛子を愛でていた。

でもいいのか、火事場泥棒みたいなことをして。


「なんじゃ、おぬし何か後ろめたいことでもあるのか?」

「いえ……」

「さっすが愛子ちゃん、やっぱりかわいい」

愛子の方は、やっぱり結衣に撫でられて嫌がっている様子だが。

だけど僕は、まだ顔が赤く胸がドキドキしていた。

ぼーっとしている僕は、あることを考えていた。


(結衣のことが……まさか好きなのか?)

そう思わずにはいられない。

そんなぼーっとしている僕に、愛子がするめの入ったおつまみの袋を差し出した。


「ほれ、野高谷も食うのだ?」

「ああ、悪い」

顔を上げてするめの袋を受けとった。


「おいしいわよ、これ」

「ああ……」

「なんか人が来るわ」

そんな時、誰もいないはずの地下鉄に足音を聞いた。


「まさか売店の人?」

「大丈夫よ……それなら。今は非常事態だし」

何が大丈夫なんだよ、と思いつつも足音の方に注目した。

そこに現れたのが、紛れもなく僕たちが知っている人物だった。

オレンジのオーバーホールに、大きな体。

短髪の男は、体つきがよく百キロ近い高校生。

普段は穏やかな顔で僕達を見ていたけれど、そこに現れたのは明らかに違和感があった。


「誉、結衣、ただいま」

それは、思わせぶりに登場した太だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ