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ドラゴンプラネット  作者: 葉月 優奈
十一話:人類を飲みこむ巨大樹
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秋葉原のビルは、すでにいくつか倒壊していた。

さっきまで夕暮れにネオンが輝いていた電脳都市は、ほんの三十分ほどで半壊していた。

無事なビルと破壊されたビル、地面にはメイド喫茶の看板が落ちていた。

崩れるビルの壁に、散乱する窓ガラスは、今までの天災ドラゴンよりはるかに規模が大きい。


太陽が沈んだことで、周りの暗さが残っていたが月明かりと、一部街灯の明かりもあった。

そして、何よりも活動をやめた巨大な樹の根っこがあちこちに見えた。

闇の中に不気味に見える巨大な樹の根っこは、静かにそこにとどまっていた。


「運がいいって?」

「ユグドラシルは太陽の光を受けて活動する。

太陽の光が活動源だ。だから太陽が沈めば活動をやめてしまう」

愛子が言うとおり、周りは夕日が沈んでユグドラシルは止まった。

予備電源で動いているのか、街灯の明かりいくつか灯り始めていた。


「それって、明日の朝まで動かないってこと?」

「そう、その間に人類は最後の選択が待っている」

「最後の選択?」

「そう、人類は滅びるか生き残るか」

「いきなり規模が大きすぎる!動かないんなら、このまま燃やしてしまえばいいんじゃないのか?」

「ドラゴンの鱗はどんな火も通さぬ。ユグドラシルも同じだ!」


それでも愛子は凛とした顔で、弘明を見返していた。

弘明は怒りを返せず、巨大な樹の根をじっと睨んでいた。


「大体、クソガキなんでそんなことを知っている?知っていてなんで何もしない?」

「ユグドラシルを作ったのはお前たち人間だぞ!それを忘れるな!」

「なんだよ、それ……」

「ユグドラシルは欲望の究極の形。人間の欲望が集まってできたものだ。

だけど事象化されなければ、見ることも現れて被害を出すこともない。

結局ユグドラシルはこちらの世界のモノだけでもないからな」

「どういうことだ?」

「欲望……それがあの樹を生み出したことに変わらない。

ヤトノカミも、アジ・ダハーカも竜器を持っていた。

その竜器の存在しているそのものが、欲望を集めてユグドラシルを作った。

アジ・ダハーカは金をばらまいては集めさせて、ヤトノカミは自己アピールをした。

これは二つとも共通することがある」

「欲望……」

「そう、人間は所詮動物なのだ。動物は本能のままに動く。

それが人間の場合は多様化して欲望と言われている。だけど欲望は人間を動かす動力にもなる。

竜器はそれをユグドラシルに転送するものだ。

コインを手に入れれば、金銭欲がユグドラシルに送られる。

情報を送れば、自己顕示欲がユグドラシルを生み出す力になる。

冬規よ、ぬしは拡散メールで自分の名前を書くことを言われたのだろう。

ネット内にある欲望の空気が、ユグドラシルを成長させる育成剤でもあるのだ。

拡散メールには、冬規の名前が書いてある」

「『ベイズ』って書いてあるのが……そうか!」

「そう、『ベイズ』の名前の認知度を上げるこそユグドラシルを成長させていた。

すべてニーズヘッグの作戦というところだ」

「ニーズヘッグって何者ですか?」それを聞いたのは棗。

「あちら側の住人だ、わらわと同じ……ボスドラゴンだ。

奴の目的は、ドラゴンを作って欲望を集めてユグドラシルの復活にある。

そして彼の目的は達せられてしまった。

わらわはドラゴンを未然に封じて、ニーズヘッグの妨害をしようとしたが、やはり条件が違う」

「条件?」

「そんなことより、ユグドラシルだ」


愛子は巨大な樹の根に手を触れていた。

さっきまで脅威を与えていた巨大な樹の根は、今は全く動かない。

神妙な愛子の顔に、結衣がスマホを取り出していた。


「そんなのゲームで倒せばいいじゃない」

「無駄だ」

結衣がスマホを取り出して、画面を見たときにそれを制したのが愛子だ。


「無駄って……」

「ユグドラシルは見て分かる通り、ドラゴンではない。

ドラゴンと違い、元々人間が変化したものではないから。

電波を発している源がないと『ドラゴンプラネット・トルース版』では戦えない」

「それじゃあ、何のためのドラプラだよ!」


苛立ちを弘明がぶつけていた。巨大な樹の根を蹴っ飛ばす。

痛そうにしている弘明に、さらに彼の機嫌が悪くなった。

だけどそれを、愛子は淀んだ目で見ていた。


「じゃあ、人類はこのまま絶滅するのを待つだけなの?」と結衣。

「いや、ユグドラシルにはたった一つだけ弱点がある」

「弱点?」聞き返す棗。

「そう、存在できるのが地球で百年だ」

「百年?」

「そう……百年だ。絶対百年しか存在できない」

「百年も存在したら、そんなもん倒しようがないじゃないですか!」

「だろうな、だからこその『ドラゴンプラネット・トルース版』なのだ。

喋りが過ぎたようだ。いまからやることを一つだけ言うぞ。有明に帰らねばならん」

僕の突っ込みに、愛子が頷いていた。


「なんでそうなるのよ?」

「ユグドラシルを寝かすためだ」

「寝かす?」

「そのために有明へ帰るのだ」

「そうはさせない」

そう言いながら、上の方から声が聞こえてきた。

一度聞いたことのある声の主は、間もなく現れた。

見上げた僕たちは、驚いた顔を見せた。

ぼんやりとうっすら明るい街灯の光に生えたのが、灰色の鱗のドラゴン『ニーズヘッグ』がいた。

腕を組んでは僕達を見下ろしていた。


「久しいなエキドナ」

それはまるで、余裕たっぷりで僕たちをゴミ同然の様に見下していた。


「ニーズヘッグ、随分余裕だな。夕方にユグドラシルを出すミスを犯すとは」

「なに……ユグドラシルは人類では絶対に倒せぬ。お前が開発したそのゲームであってもな。

だがエキドナ、お前は邪魔なのでここで死んでもらうぞ。

人類は衰退し、一度地球を浄化しないといけない」

「ニーズヘッグか……まさか!」


喋りかける灰竜に、空を見上げた愛子や僕たちがいた。

まるでその出で立ちは、世界を絶望の淵に叩き落とす死神のようだった。

そして灰竜の口にはすでにブレスの原形が見えた。



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