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――人ごみの音が聞こえ、談笑が聞こえた。
前回の画像と違って、画像の雰囲気が明るかった。
どうやらドラゴンである人物は、椅子に座ってスマホを見ていた。
見える画像は何かの掲示板らしい。文字が流れているが流れがものすごく速い。
「そっか、苦労したんだね」
スマホを持った視点で、どこかで聞き覚えのある声が少し遠くから聞こえた。
この声は男だ。ちょっと穏やかな感じの声だ。
「うん、三年は昨日から修学旅行なの。福岡に行くらしい」これは女の声。
「福岡って結構遠いよね」聞き手の男の声。
「一週間行ってくるみたい、私立だから」
(何となくだけど、この会話は覚えている……)
一瞬だけ視線がスマホから上にあがった。
そこにはテーブル。
見えたのは飲みかけのカフェ・ラテも、アップルジュースも見えた。
視線を上げたかと思うと、すぐに視線を落とす。
スマホの画面には、あることが書かれていた。
『氏ね氏ね氏ね』
それは衝撃的だった。掲示板に書き込んでいたんだ。
ネットで見たことがある。『死』よりも『氏』を使って不満をぶちまけるネットの隠語みたいなものだ。
どうやらドラゴンの主は、相当怒っていた。
でも、僕はこの感覚を何となく思い出しかけていた。
散々『氏ね』と書いていた男は、飽きたのか届いているメールを見始めた。
開いたメールを見た瞬間、画面がぼやけた。
(なんか、急に画面が……おかしいのか?)
僕はスマホの画面を拭いたけれど、治らない。どうやら視界そのものがぼやけたらしい。
眠気でも襲ってきたのか、まぶたが閉じられようとしていた。
(どうなっているんだ?)
しばらく目を凝らして見ていた。
すると視界のさえぎられる目と目の間から、浮かび上がった機械的な赤い文字が見えた。
『お前は、あいつが嫌いか?あいつがいると彼女を取られるのか?』
そう書かれていた。その文字を見た瞬間、僕の頭がグラグラした。
(なんだよ、この画像……くそっ)
急な偏頭痛が僕に襲う。心臓の鼓動が嫌になるくらい早く感じた。
まるで自分の体が、操られるんじゃないかというそういう気分だ。
そのあと、書かれた文字は3D映像の様に画面手前に迫っては消えた。
『だったら、お前は自分をもっと表現しないといけない。
コロセ、コロセ、そこの男を、野高谷 誉を』
再び書かれる文字は、まるで襲ってくるかのようだった。
(……ダメだ!画像を止めよう)
そう思って指が画像停止ボタンに近づいたときに、文字が消えた。
どうやら視点者のドラゴンである人物が、メールのページを変えたらしい。
それと同時に不思議な頭痛も収まった。
画像を見ただけで呼吸を乱していた僕は、必死に呼吸を整えていた。
(なんなんだ?これは)
それから間もなくして光が戻った。見えたのはスマホ。
スマホの画像に映し出されたのは、掲示板だけどある分が追加されていた。
(通り魔殺人の予告……)
それは驚いてしまった。
『明日夕方六時、豊洲ショッピングセンターで通り魔します。
みんな殺すよ、止めたかったら謝れ。社会はこの僕に』
その瞬間、通り魔予告とヤトノカミがはっきりとつながった。
後は誰なのか……だけどすぐにわかった。
「ねえ、そろそろ帰ろうか」
この女の声で僕ははっきりわかった。声の主はよく知っている人物だから。




