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翌日の学校の教室で、僕は昼ご飯を満喫していた。
購買で飼ってきたパンをいつも通りほお張っていた。
最近は、弁当男子も増えてきて親はもちろん彼女の手作りもあった。
だけど僕には彼女はいない。とはいえ晴海は料理なんて……あまり言いたくない。
パンを食べていると、僕のそばには結衣が来た。
なぜか上機嫌な顔で、大きな胸を揺らして結衣があらわれた。
「誉、いる?」
「結衣……なんだよ」
「誉……えへへっ」
可愛らしく笑っていた結衣、こういう時は大体ロクな目に遭わないと長いつき合いで感じていた。
そういえば妙に臭うぞ。何だこの臭い匂いは、鼻をつくような刺激臭だ。
「なんだよ、結衣」
「これ、食べて~」
そう言って出してきたのがタマゴサンドイッチ……ではなく具のなかがウネウネ動いていた。
直感で危険を感じた僕は身構えていた。においの元はそのサンドイッチだと動物的カンが働いた。
(これは危険だ、食べない方がいい)そう感じた。
「な、これ……」
「あたしの手料理よ。久しぶりに作ったの……料理修行もあるし」
「な、なんか黄色いのが動いているようにも……」
「大丈夫よ、死にはしないから(ハート)」
「誉……逃げろ」
結衣の後ろには這いずる弘明。
僕は弘明の姿を見て全てを察した。
結衣に背を向けて、一目散に逃げ出した。
が、しかし周りに囲まれてしまった。
「無駄よ、一人だとなぜか逃げられないのよ」
「なんで……」そういえば結衣は元サッカー部だったっけ。
「いいから食べなさい。あたしは足が速いのよ」
そう言いながら結衣は、僕に悪魔のサンドイッチを僕に押し付けてきた。
僕はたまらず教室の真ん中で大きく悲鳴を上げていた。
……そんな悲劇のあった昼休み。
昨日の画像以来、意味なく吐き気を感じた僕はトイレにまた行くのだった。
少し離れたクラスの結衣と弘明が、僕の教室へ来訪するようになったのは最近増えた。
ドラゴンプラネットがつないだ皮肉の絆だ。
結衣のお手製サンドイッチを口に含んでしまった弘明と僕の顔色がやっぱり悪い。
「あの黄色いのは、一体なんなんだよ!」
「秘密の配合よっ!」かわいくポーズをとった結衣。
「なんだよ、それ?」
「いいじゃない、あたしの趣味よ」
「悪趣味だ……」
顔色が悪い弘明は頭を抱えていた。
そんな弘明が好きなのが、目の前で笑顔を見せていた結衣だからよくわからない。
「そんなことより、あたし足が速くなったの」
「えっ、結衣ってまたサッカー部に戻ったの?」
「違うわよ……これ!」
そう言ってにこやかにスマホを見せてきた。
チャットルームのヴァルキリアが、笑顔を見せていた。
ドラゴンプラネットで、アイテムを買ったらしい。
ヴァルキリアのブーツが変わっていたから。
「昨日、ヤトノカミに逃げられて悔しかったのよ。だから、買っちゃった」
「あっ……そう」
「なによ、誉!超冷たいじゃない」
「リアルだぞ」
弘明に諭されて、結衣は「あっ」と言って小さく縮こまった。
ドラゴンプラネットの話は、リアルでは基本的にはタブーだ。
ドラゴンがどこにいるかわからない、銀波会計みたいに僕たちの近くにいることだってあるんだ。
弘明に言われて、苦笑いしながら女子ながらに大柄の体を小さくしていた結衣。
「ごめんね、でも……GPSはつかんだわよ」と小声で。
「本当か?」
「うん、昨日出てきたステージ、クリアしたから。
なんかすごくステージが短かったし。ほら、ここよ!」
結衣が差し出すスマホを僕は見ていた。
それは思いっきり豊洲神社だった。昨日、ヤトノカミと僕が遭遇した場所と全く同じGPSの地図だ。
「ここ、僕が昨日いた場所だよ」
「本当に?ヤトノカミがいたの?」
「うん、間違いない。僕が襲われたんだ」
昨日の記憶、僕の目の前に透明なドラゴンが現れた。
そのドラゴンは迷うことなく僕を襲ってきた。
「ちょっと、またドラゴンに襲われたの?」
「しーっ……まあそうだけど」
僕は周りを見回して大声を出した結衣を黙らせた。
もしかしたらクラスにドラゴンがいるのかもしれない。
そう思ったら、ここで話すことさえ危険なのだ。
「俺のは違うぜ」
そう言いながら、弘明は赤いスマホを見せてきた。
スマホ画面に表示されたGPSの地図は豊洲じゃなく秋葉原だった。
大通りから少し離れた場所で、僕はそこを知らない。
「まだまだ情報が足りない」
「そう……でも誰なのかしら?」
「さあな、前回の件みたいなのはゴメンだけど」
弘明の言葉の意味を僕はよく理解していた。
有明高の生徒会長、金森は死んだ。
銀波会計『アジ・ダハーカ』に利用されていたのだ。
でも『アジ・ダハーカ』も僕たちが倒した。だから銀波会計も死んだ。
この学校は二人の貴重な生徒の尊い命の元、平和な学園生活が成り立っていた。
だけど、それは一歩間違えればドラゴンに襲われる表裏一体の社会でもある。
「それより、誉の行くところにドラゴンがよく当たるわね。
まるで『名探偵の行くところ、事件アリ』って言う感じじゃない」
「それは……名探偵の行くところに事件が起きないと解決できないだろ」
「そういえばそうね」
「じゃあ誉を囮にしてあちこち歩き回らせれば、ドラゴン出て来るんじゃないのか?」
「それはダメっ!」
弘明の提案に、なぜかそこで結衣が叫んだ。
その瞬間、昼休みの僕の教室にいる全生徒の視線は結衣にしっかり注がれることになった。
「そんなことさせない」
「おい、怒るなよ」
「あたしたちは二度と犠牲を出さないようにしないと、ゲームなんだから」
そんな結衣がスマホを力強く握っていた。




