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ストーリーモードのラストには、いつもボスがいる。
本物のドラゴンに負けない僕たちのキャラが、ボスに負けることは皆無だ。
所詮は数合わせのデータにすぎず、運営側が適当に設定したものだから。
通常、ストーリーモードをクリアするとドラゴンに関係するGPSが表示されていた。
『ドラゴン・ヒューリステクス』とかいう独自のシステムで、いくつかの位置情報でドラゴンを割り出す。
元々神官のハルヒメは、課金するものが少ない。
前衛でもないから、武器を買う必要もない。
盾でもないから、回復薬を買う必要もない。
だから、ハルヒメはいくつものシステムを課金していた。
それが、僕が今見ている画像。『ドラゴン視アター』だ。
弘明が見せてほしいと言っていたが……『はい』をうっかり押してしまった。
――写った画像の最初に見えたのが暖簾だった。
そこに書かれていたのが『ボクの家・ボク以外立ち入り禁止』そう書かれていた。
暖簾をくぐると、乱雑していた四畳半の狭い部屋。窓はなくかなり薄暗い。
ぼんやりとした裸電球の明かりで、かろうじてモノが見えた。
奥にはパソコン、しかも三台。周りにはフィギュア、壁にはアニメのポスター。
視線が前に進み、パソコンの前でしゃがんだ。
近くで見ると、パソコンの起動音が三台分から聞こえてきた。
(これはドラゴンの部屋?)
視界が右隣のパソコンに映った。
右のパソコンはどこかの掲示板だろうか、すぐにキーボードをたたき始めた。
それから一分後、掲示板につけたされた一文。
『>>93マジキモ、業者だろw、酷いクソ、『サメフジ』』と書きこまれていた。
(随分汚い言葉だな。これを書いたやつはかなり性格がひねくれた奴だな)
などと思っていると、正面のパソコンに目を向けた。
正面のパソコンは、美しいSFの画面が写っていた。
木々と巨大なハイテクビル群が乱立する世界。
そこを未来の車みたいなのが走っていた。
でも映画ではない、ゲーム画面だとすぐにわかった。
なぜなら、右下に体力バーのようなものが表示されて『ベイズ』と書かれていたから。
パソコンの画面解像度がいいのか、いろんなことが分かる。
どこかで見たことがあるそのゲームに、金ぴかのド派手なスーツを着ていた背の高い男が中央にいた。
その人物はベイズというキャラクターなのだろう。
その奥から大柄の男が手を振ってやってきた。
「ベイズ、テルノに出た」下の方にあるログが動いた。
格好もスーツを着ていて、大きな銃を担いでいた。
「ああ、マンジビチ、フロア63は倒せたか?」
「ベイズいなきゃ無理だ」
「そいつは残念だ」
何を言っているかわからないが、どうやらゲーム内での会話なのだろう。
「ベイズ、フロア77のボスを一人で倒したんだろ」
「俺はクラスが天才だからな。こいつやる」
台詞にすぐさま、キーボードをたたく音がした。
そのまま金ぴかの男は、何かを渡すしぐさを見せた。モノは見えないけれど。
ウィンドウが出てきて、銃のグラフィックが出てきた。
前にいるキャラクターの男は顔文字。どうやら驚いている様子だ。
「『ガンナーC9-FX』だ、お前ならこいつ使えるだろ」
「マジで?あり」
「俺には役立たずのアイテムだ。『IRガン』あるし。
まあ、収穫は『クロスペンダント』だけだ」
「IRガン、やっぱ神性能だろ。成長するし……限定版だよな」
「ああ、β版の廃止アイテム。見た目はダサいけど、こいつ強すぎ……くる」
「ん?」
「マンジ後ろ!」
そう言うと、銃を持った男が数人取り囲み、あっという間に大柄な男を射撃していった。
吹き飛ぶ血しぶきは、ゲームであってもリアルだ。
画像越しに見ている僕も、思わず口を押えてしまった。
「業者サメフジ!」
「ルート30に隠れていたか、廃人様、お供は一人か?」
間もなくして、出てきたのが五人組。銃を持って、頭に青い頭巾とスーツ、お揃いのサメのマークが入っていた。
「こいつの持っているもんには興味ない。おまえのIR武器を奪いに来た」
「へえ、IRスーツに利くのかい」
「IR装備なら、リアルで数万の買い手がつくだろうよ。
唯一無二の絶対装備だからな、よこせよ」
そう言いながら持っていた銃で金ぴか男ベイズに狙撃を繰り返す。
だけどベイズはびくともしない、体力ゲージが全く減らない。
「火器は無駄だ」挑発をするベイズは、SFに不釣り合いで古風な火縄銃を取り出した。
どうやらこれがIRガンらしい、撃ってくる一人を火縄銃で狙撃すると、あっという間に倒れた。
上にある体力バーが一瞬にしてゼロになったのだ。
「ならばこいつは……」
そう言って銃を撃つ人の背後から、ローブを着た女が出てきた。
手には杖と、分かりやすく言えば魔法使いみたいな格好の女。
その女が、霧みたいなものをベイズの周りに発生させた。
「『石化!』」
そう叫んだ女の霧が晴れると、ベイズはあっという間に石像になった。
「なあ、石化してもアイテムは……」
「そのために鑑定士連れてきたんだからよ。後は……」
次の瞬間女の悲鳴が聞こえ、ローブを着た女が倒れた。
血しぶきを上げて、叫び声が聞こえて倒れた。
「どういう……」
「『なつき』!」
ログが流れると、背の高い男がライトセーバーの二刀流で現れた。
髪が立って目つきの鋭い筋肉質の風貌のなつきは、鋭い目つきで銃を持つ男を睨んでいた。
「俺の友を傷つけさせない」
「『万人殺しのなつき』か、全員でかかれ!ヤツの武器『エクスカリバリオン』も金になる」
あっという間に取り囲んでは、なつきに襲い掛かっていく。
いつの間にか取り囲んでいる数は二十人ほど。
だけどなつきは、次々と攻撃を華麗にかわしていく。
そして、次々と襲ってきた人間を殺していった。
上がる血しぶきは、まさに地獄だった。倒れる人がリアルだ。
それでも数が減らないで、どんどん援軍が来ていた。
なつきの体力ゲージはみるみる減っていた。
「数が多い」
「大丈夫だ。そろそろ起きよう」
キーボードが動いた。ベイズは何かアイテムを使った。
すると十字架のペンダントが画面に出てきて、石になったベイズが元に戻った。
「あっ、ベイズが!」
「くそっ、もう戻ったのか!」
だけどしゃべる間もなく火縄銃の銃声が聞こえた。
ベイズの前には、火縄銃が巨大化していた。
次々と激しく血を流して倒れていく。床も真っ赤に染まっていた。
「こりゃあ痛みを感じずに、全滅してお前たちのアイテムを奪うしかないな。業者サメフジ」
「まずい、ベイズになつきか。分が悪い、撤退!」
サメフジの人間は逃げようとしたが、次々と背中に銃弾が撃ち込まれた。
そして、なつきに背後を切りつけられていた。
それはまさに戦場。いや処刑場と化していった。
あっという間に死体の山があちこちにできて、地面が赤く濡れた。
壮絶な地獄を見て、僕は最後には気持ち悪くなって画像から目を逸らしていた――




