71
あれから一時間後、僕は自分の部屋に戻っていた。
僕のマンションにはまだ誰も戻っていない。
妹も友達の家に出かけていて、両親は働きに出かけていた。
整理するまでに時間がかかった。
ベッドの上で愛子はチョコバナナがささっていた割り箸を、口惜しそうな顔で見ていた。
そんな上から見下ろす愛子を、床に座る僕はじっと見ていた。
豊洲で僕は見た。しかも二匹のドラゴンを。
透明で足の速いドラゴンと、青く小さなドラゴン。
しかももう一匹のドラゴンは、あの愛子だったのだから。
でも頭の中で整理ができない僕は愛子に聞こうとすると、いつも通りのよどんだ目で、
「お腹空いたから、チョコバナナ買って」と結局十本のチョコバナナを買わされていた。
僕の財布の中の貴重なお札が三枚全部消えていた。それでも愛子は話してくれない。
結局僕は愛子を自宅まで連れてきたのだ。
最後の一本を食べ終えた愛子は、寂しそうな顔を浮かべていた。
「愛子ちゃんは、ドラゴン……」
「その前に言うことがあるだろう。野高谷は高校生なんだから」
「えっ?」
「そうじゃないだろう、礼だ」
「助けてくれて……ありがとう」
「よいだろう」
納得したのか首に下げたポーチを持った愛子は、ピンク色のポーチを広げた。
よくみると、そのスマホは黒くて僕の……いや晴海のと同じ型だった。
「同じスマホ……」
「野高谷は、『鐙塚 晴海』からスマホを引き継いだのだろう。
エキドナであるわらわに分からぬことはない」
「えっ、ちょっと待って……愛子ちゃん何を?」
「エキドナじゃよ」
僕はその名前を聞いて驚くしかなかった。
『エキドナ』……それは『ドラゴンプラネット』を作った人物。
だけど、ドラゴンプラネットは五年前にできたゲーム。
どう考えても矛盾が生じてしまう。愛子はなにせ七歳だから。
いつも家の前を通る時は、女の子なのに逆行して黒いランドセル背負っていた小学女児だ。
「何か不満でも?」
「不満て言うか……エキドナって」
「野高谷の頭では、理解に苦しむだろうな」
「うん……いろいろおかしいなって。つっこみどころが満載だし」
「別におかしくはない」
「えっ?」
愛子の言葉に、僕は単純に驚くしかなかった。
そんな愛子は真っ黒なスマホを見せてきた。
「いずれ話す時が来る、今はヤトノカミのことが先だ。
ヤトノカミの活動は、アレの復活が早まってしまうからな」
「アレの復活?どういうこと……」
「おぬしは晴海のスマホなのだろう。ならば調べられるはずだ。
ストーリーを調べてみよ、野高谷を殺そうとした相手をあぶりだすのだ」
「あぶりだすって……」
「ヤトノカミは、野高谷をまっすぐに狙ってきた。そしてお前を殺そうとした。
きっとヤトノカミとお前との間に何かあるはずだろう」
「僕はドラゴンに恨みを買うって……なんだろう?」
「知らぬ、わらわは野高谷の事はよくわからぬ。
だが、あのドラゴンとは何らかの接点があるのだろう。
野高谷が持っておる鐙塚のスマホなら、問題なく動画が見られるはずだ。
ほかのスマホと違う、鎧塚には『ドラゴン視アター』があるのだからな」
「……えっ、うん」
僕は思わずうつむいてしまう。
何気なく見ていた画像は、晴海が命を削って手に入れた機能だ。
そう思うと、僕はピンク色のスマホを見始めた。
ドラゴンプラネットを起動して、ストーリーモードを進めることにした。




