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ドラゴンプラネット  作者: 葉月 優奈
八話:自分と同じ強さへの憧れ
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豊洲は有明からそれほど離れていない。

なんとか僕はなけなしの三千円を財布に入れてきた。

シャツにジーパンを着ていた僕は、ブラウスの愛子を連れていく。

バスに乗って、たどり着いたのが豊洲の中心から少し離れた豊洲神社。


このあたりは豊洲付近の祭りがあった、しかも行くときはだいたい愛子と一緒だ。

いつも愛子がこの時期になると「祭りに行きたい」と言っては連れて行っていた。

愛子にせがまれた僕は、自分の意志の弱さを恨む。


「神社についたよ」

それでも祭りは行われていた、年に一度のお祭り。

こういうのを見ると人間のたくましさを感じてしまう。

決して大きなお祭りというわけではないが、この近所の祭りにはそれなりの考えがあった。

この祭りは唯一のかきいれ時だ。だけど去年ほどの賑わいがない。


「やはり少ないな」

「うん、人が少なくて都合いいや」

人が少なくて神輿は出ていない。僕と愛子とで会話を交わしながら進んでいく。

ネットで書かれた通り魔の風評が、そのまま祭りに反映されていたから。

人通りが少ない神社への道を、愛子の手をつなぎながら歩く。


「一応手をつなぐぞ、迷子になったら大変だ」

「しょうがないな」

素直でない愛子を、僕はそれでも大事に手つないでいた。いなくなったら大変な預かりモノ……だし。

間もなくして鳥居をくぐって、境内に入った。

本殿前で愛子に十円玉を渡した。不思議そうな顔の愛子に言葉を添えて。


「ほら、お願い事」

ほぼ同時にお賽銭を投げて一緒に手を合わせた。

目をつぶってお祈り。祈りを終えた僕と愛子は境内を後にして露店に向かう。


「愛子ちゃんは、一体何をお願いした?」

「世界平和」

愛子はやっぱりかわいげない答えが返ってきた。

だけど愛子の顔はぶれることなく真面目だ。


「世界平和って、なんか大きくない?」

「そんなことはない、祈祷の基本だ。野高谷は何をお願いしたの?」

「えと……内緒」

「ふーん。高校生は、そういうずるいことを言うんだ」

愛子ちゃんに睨まれて、苦笑いするしかなかった。


僕がお願いしたのは、『たまだん』の事。

『みんなともっと繋がっていますように』だったけど。なんだか反射的に隠してしまった。


そんな僕が境内を離れると、すぐに明るい顔になって愛子は走り出した。

愛子の先には露店が軒を連ねていた。


「愛子ちゃん!」

だけど、僕の声は無視されていた。

走り出した彼女を追いかけるとある露店で止まった。

目の前の露店は、彼女が祭りに行きたい理由でもあったから。

指をくわえて露店の前にいる愛子は、その時はとても子供らしかった。


「チョコバナナ……」

「欲しいのか?」

指をくわえて、目を輝かせてきた愛子ちゃん。

愛子ちゃんはなぜかチョコバナナには目がなかった。

若いお兄さんが、バナナにチョコレートをかけていた。

一個三百円に値下げしていたし。


「分かった分かった、買ってやるから、僕から離れないで」

そう言いながら、一本三百円のチョコバナナを手に、愛子ちゃんは笑顔になった。

僕は祭りのたびにチョコバナナを買わされていたから。


「ありがとう、お兄ちゃん!」

「すごい満面の笑み」

「これはサービスだよ」

声が弾んだ愛子は、笑顔に変わっていた。

愛子はこういうことろが本当の小学生っぽい。

笑顔を向けて嬉しそうにチョコバナナを受け取った。周りの露店は寂しく客を待っていた。


「これでいいのか?」

「うん、私は祭りに興味ない」

「そっか、やっぱりな」

愛子はなぜかチョコバナナが大好きだ。

毎回祭りに行きたいと言っては、露店に連れて行かれていた。


「チョコバナナがなんでそんなに好きなんだ?」

「チョコだけでも、バナナだけでも駄目だ」

「え?」

「チョコバナナは、まさにバランスの矜持(きょうじ)だ。

このバランスでなければならない、人類は素晴らしい発明をしたのだ」

「そりゃどうも」

やっぱり変な小学生だ。

それでもチョコバナナをおいしそうに食べていた。


「ほら、口元にチョコがついているぞ」

ハンカチで愛子の口元についたチョコをふいてあげた。

素直にふかれていた愛子は、じっと僕を見ていた。そのまま目をそむけた。


「あり……がとう」ちょっとだけ顔を赤くした愛子。

「うん、じゃあ帰ろうか」

そんな僕達が帰ろうとしたとき、スマホが突然震えた。


「ドラゴン警報!」

スマホの揺れで、僕は恐怖を感じた。

神社のそばにあったスピーカーから『ドラゴン警報です、至急避難してください』そう聞こえていた。

けたたましいサイレン音が聞こえるが、大きいドラゴンの姿は見えなかった。


「どうしたのだ?」

「通り魔じゃない!これはドラゴンだ!愛子ちゃん、危ないからここから離れよう!」

僕は一瞬にして緊張が走った。手を強引に引っ張っていた。


愛子はさっきまでの愛想ある顔からいつものよどんだ顔になっていた。

周りの人々はサイレンにおののいて走り出す。

だけど不思議でもあった、通り魔の予告は豊洲ショッピングセンター。

豊洲神社からは豊洲駅をはさんで反対側にあった。


しかしこの時、僕はまだ気づいていなかった。

僕のそばには、すでに二匹のドラゴンが近くにいたのを。


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