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翌日、朝になって結衣と会った。結衣が僕のマンションの前にいたから。
久しぶりに二人で朝から通っていた。
結衣と僕のマンションは隣で、それほど離れていない。
『たまだん』にいた頃では、毎日のように一緒に通ったけれど朝久しぶりに会って一緒に通うことにした。
それにしても、結衣の胸は相変わらず大きいな。
「何を見ているのよ?」
さすがに高校生になると、僕の視線が気になって逆に僕をじっと見返してきた。
白いシャツのブレザーなので、胸の大きさはしっかりと強調されていた。
それでも中学と違いブラジャーはしているみたいだな、形がいい。
「いや……結衣ってかわいいなって」
「そう?当然よね」
結衣はポーズを決めて見せた。うん、これでオッケー。
結衣は『かわいい』っていう言葉に、特に弱いからな。
一緒に歩く通学路には、生徒がおしゃべりしながら通学していた。
埋立地の海が見える通学路は、やはりおしゃれだった。
「昨日、秋葉原に行った。で……噂の棗の彼に会った」
僕の言葉に結衣は一瞬反応を示した。
棗が言っていた、結衣に相談に乗ってもらっていたって。
「そう……会ったの?」
「会ったって……うん」
「どんな子なの?なんかナツの話だと、かなり大人しそうな人だけど」
「実際、かなり大人しかったよ。携帯ばっかりいじっている子だったし」
それを聞いて、結衣は眉間にしわを寄せるようになっていた。
「なによそれ!誉も一緒にいたんでしょ!」
「うん、だけど初対面だし……さすがに注意はできないよ」
「でもエチケットでしょ、マナー違反よ。
やっぱりナツのダメンズコレクターのスキル発動ね」
「まあ、そういうかな」
僕も結衣の言葉には同感できた。
棗の男運の無さはたまだんメンバーはよく知っていた。
棗が付き合う男子は、みんなクセがあって普通ではない。
暴力を振るう者、金を巻き上げる者、幼女趣味のサラリーマン、オタクっぽい今回の冬規君。
棗が好きになる男はみんなどこかおかしくて『ダメンズ』と言われていた。
「でもダメンズ対策員は、晴ねえと誉の仕事だったでしょ。
晴ねえがいなくなって、誉一人で大丈夫なの?」
「いつダメンズ対策員に僕はなったんだ?」
「いいじゃない……いいのよ」
結衣はそれでも笑顔で僕に言ってきた。太といい僕に損な役を回してくるな。
「それより、また通り魔事件の予告が出たわね。また豊洲か」
「ああ、今日の夕方だろ」
「朝にすればいいのに、そうすれば学校が休みになるでしょ」
「不真面目だな、生徒会副会長様」
「ふん、そんなんじゃないわよ。
でも今度こそあのボスボスしていないボスドラゴンを……」
「ヤトノカミ……だな。レベル???で特技は『高速移動』」
そう言いながら出てきたのは弘明だ。
こうしてみると、長髪の弘明はやはりかっこよく見えた。佐藤さんが好きになるのも分かる。
特にブレザーの着こなしが、スタイリッシュだ。
それ以上に妹が好きそうなBLゲームに出てくる登場人物そっくりだし。
「弘明、おはよ」
「ああ、誉も。まさか誉が秋葉原に行っていたとは……」
「なんだよ、聞いていたのか?」
「誉もついに、オタに目覚めたのか?
あの世界は、一度踏み込んだら二度と帰ってはこられないぞ」
「何言っているんだ?妹の買い物だよ。
あそこには僕が個人の用事で行くことはない。
みんな、なんで秋葉原がそんなに好きなんだよ?」
「サブカルの聖地だからな」
弘明が髪をかきあげて言う。男の僕でもちょっとかっこよく見えた。
さらに校門に近づくと、さらに会いたくない人物が出てきた。
「よお、野高谷君」
いかつい体の男が、門番のごとく立っていた。
それは柔道着を着ていた銅林生徒会長だった。
出迎えた生徒会長は、銭戸書記、新会計の鉄田三年生も伴っていた。
その瞬間、僕はいろんなことを思い出した。
弘明の好きな人を聞くのを頼まれた佐藤さん。
その佐藤さんが好きな人を聞くように言われた銅林生徒会長。
全部思い出した、そして通学かばんには渡せずに残ったラブレターがあった。
(マズイ、聞かれる)
僕はその場を離脱しようとしたとき、すでに背後には銅林生徒会長の生徒会役員が回り込んでいた。
完全に待ち伏せか、やられた。
「あら、誉。生徒会長がお呼びみたいね」
副会長の結衣は、冷静な顔で現状を見てきた。
「いや、その……ははっ……」
「俺に報告することがあるんじゃないか、なあ蓼沼副会長」
すると銅林生徒会長の言葉に同調した結衣が、僕の腕をガシッと握ってきた。
「こら、結衣!裏切ったな」
「ごめんね、誉。銅林会長に頼まれていたから。誉があんまりにも逃げるから」
結衣の言うとおり、僕は意図的に避けていた。
佐藤さんの好きな人が別にいて、それが弘明で……しかも佐藤さんが校門の奥を歩いているし。
「さあ、聞かせてもらうぞ」
銅林会長は威圧感を放ちながらなぜか拳を鳴らしていた。




