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日曜日の朝、いきなりの出会いはカフェだった。
カフェにはいつの間にか僕と棗、それからもう一人彼がいた。
気まずい空気が立ち込めるこのカフェに、テーブルを挟んで僕は彼を見ていた。
水色のワンピースの棗は思ったより明るい。背が低い棗は可愛らしかった。
それほど人もいない二階は、独特の空気を放つ。
僕にとって彼は何の面識もない。
だけど太は僕の目の前に小さなテーブルを挟んで座った彼を、『ダメンズ』と認定していた。
棗はアップルジュース、棗の彼は水だった。
「初めまして、稲荷塚 冬規と言います」
小太りリュック少年は、思った以上に礼儀よく僕に挨拶をした。
「僕は、野高谷です。野高谷 誉です」
「私の元々いた一緒の団地の人です。こっちが冬規ですよ、誉さん」
棗がはにかみながら僕を紹介して、僕に冬規君を紹介してくれた。
愛想笑いをする僕と対照的に、疲れた顔を見せた冬規君。
間近で見ると、冬規君は本当にやつれているな。
一体どんなものを食べているんだろう、食生活が気になるほどの彼の頬はコケていた。
「それより、誉さんは秋葉原で何をしているんですか?」
真っ先に棗に聞かれた質問。答えたいが、ある意味答えなくない。
大きなカバンにその答えはあるけれど、おおっぴろげて見せるものではないな。
「妹の買い物……」
「一体何を買ったんですか?」
「大したもんじゃないよ」
苦笑いして何とかごまかそうとしていた。
だから相手を見て、逆に問いただすことにした。
「ナツ達も随分買ったな」
「うん」棗は足元に置いてあった買い物袋を、ためらいなく広げていた。
あまり驚くほどでもなく、淡々と棗が見せてくれた。
出てきたのは男のフィギュア、あれ?これって僕が買ったゲームと同じじゃないか。
それからCD、これも妹の部屋で見た記憶があるぞ。
「これはCDでしょ、フィギュアでしょ、ゲームに……」
「あとはPCの部品かな。メモリとか、CPUとか」
冬規君は横で出してきたのはPCの部品類。
僕は彼を観察していたけれど、暴力を振るいそうなタイプには見えない。
オタクっぽい印象はあるけれど、ガラの悪さはない。
むしろおとなしそうで小動物系の棗とは、お似合いの彼氏のような気がした。
「ナツ、彼は……」
「学校のクラスメイト」
棗の顔が赤いぞ、恋人だと一目でわかった。
「そっか」適当に相槌で返していた。
僕を見ていた冬規君は、PCの部品をしまって下ばかりを見ていた。
どうやらひざ下にはスマホが見えた。
「誉さんは今朝、地下鉄に乗っていなかった?」
「えっ……うん」
「私も、冬規も一緒だったんですよ」
棗はいつも通り穏やかに話していた。棗は、いつも通りに小動物の様にかわいらしい。
昔ながらの棗の顔を見ると、懐かしくなって自然と僕も笑みに包まれた。
「そうだな、僕も安心したよ。ナツは元気でやっているんだ」
「太にはいろいろ心配されるから……ね」
僕と話をしていると、棗は話をしながら冬規君を見ていた。
冬規君の行動を、かなり気にしているようだ。
「ボクは気にしないで」
「冬規……ごめんね。誉さんの妹さん元気ですか?」
「まあ、元気っていうか相変わらずだよ」
僕はしばらく棗と楽しく会話していた。
それでも冬規君は、ずっとスマホをいじっていた。
それから僕と棗の会話は、自然と弾んで小三十分ほど続いていった。




