63
有明地区から、少し離れたところには地下鉄があった。
早朝、シャツとズボンといういつも通りの私服で地下鉄に乗っていた僕。
だけど、大きなカバンを持ち歩いていた。
その大きなカバンには、『ソルティック』のチラシを入れていた。
割引券がついていた、意外と僕は『クーポン』という言葉が好きだ。
日曜早朝の地下鉄はガラガラだ。
早朝六時という時間は、サラリーマン風の人間が何人かいたけれど座るだけ余裕もあった。
長椅子の隅に座り、僕は小さな新聞を出した。
それはBLのPCゲームの情報が載った広報誌、フリーペーパーだ。
(でも、あれを並ぶの恥ずかしいんだよな)
妹からもらったBL広報誌を眺めながら、僕は不安だった。
アニメ絵の男たちが、制服を着てかっこつけていた。
制服を着ていて、ん?こいつなんか弘明っぽいし。髪が長いから。
(それにしても、通り魔とドラゴンか……)
ヤトノカミのことで、僕は難しい顔を見せていた。
きっかけは何度もあったネットに書きこまれた通り魔予告。
それ故に、ドラゴンと繋がっている人間が疑われるようになっていた。
(いかん、忘れよう。今はあの……あれを買い物するんだ。今日は日曜だし)
僕はそう言いながら妹に頼まれた広報誌を見てみると、男性同士が迫っていた。
「ううっ」思わず声を漏らして苦笑い。すぐに周囲を気にして隠す。
どう考えても不審者だよな、これ。幸い乗客が少ないからいいけど。
そんな僕が乗っていた地下鉄が、二つ目の駅で停車した。
そこにいたのは意外な人物、しかも二人組だった。
(ナツ……あれは)
水色のワンピースを着た棗。彼女の隣には男がいた。
それは棗と同じ年の少年。だけど大きなリュックを背負っていて頬はコケていた。
(一応、彼氏だよな?)
キョロキョロと見回して棗の視線が合いそうなので、僕はすぐに目を逸らした。
(いくらなんでも妹の買い物中に会うのはマズい)
広報誌をカバンに突っ込んで、僕はスマホを見るふりをして下を向いた。
棗と親しそうに話す男は、とても気弱そうだ。見た目は冴えない男だ。
遠目で棗を確認する僕は、棗の彼氏を見ていた。
そんなスマホで太からのメールを見た。
それを見て、僕はあることを思い出した。
一つ下で幼なじみでもある『親園 棗』という少女の不幸な昔話。




