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豊洲の街並みがイラストで再現されていたエリアから、チャットルームへ。
僕はまだハルヒメのままでチャットルームへ。
晴海の団地の部屋が、今まで通りリアルに見えた。
ドラゴン警報が解除され、平和な時が流れてきた。
一方リアルではコンビニに残っていた僕。
冷蔵庫の前で、スマホをじっと見ているわけだが。
そういやあ、バイト中の弘明はスマホをしまって仕事をしているな。
よってK・シューターはいるけど、ほとんどインはしていない。
当然のことだけど僕の話し相手は、
「なによ、あたしに恐れをなして逃げたのね。チキンじゃない」
不満そうなヴァルキリア。だけど『ノーキン』と突っ込む弘明のK・シューターはほぼ無言。
離席マークを出していて、ログを垂れ流しているだけらしい。
「ヴァルキリア、逃げるボスって今までいたの?」
「さあ、あったことないわね。ボスドラゴンは、いつもボスボス感があったし」
「ボスボス感って?」
「そのままよ、ボスボスって空気があるの」
「よくわからん」
ヴァルキリアの言っていることは時に理解不能だ。
フィーリングで何となくは理解できるけど。
これが有明高校一の才女とはとても思えない。
「まあ、あんなに逃げるドラゴンはいないって事だろ」
「そういうこと。『ヤトノカミ』だっけ?ボスボスしていないんだから」
「ヤトノカミ、襲ってこなくていいじゃないか」
「何よ、襲ってきた方がいいじゃない!」
「でも、あのヤトノカミって現実に現れているドラゴンなんだろ」
「……それも、そうね」
ようやくヴァルキリアは納得したようだ。
銀波会計の件もあって彼女なりに少しは考えるようになった。
そんなヴァルキリアの結衣を、リアルのコンビニで仕事している弘明は好きだ。
レジ打ちの佐藤さんは、いつの間にかコンビニから姿をくらましていた。
どこに行ったのだろう、彼女のことを傷つけた事実だけを残してすごく心配になっていた。
「弘明もどうやらバイトに戻っちゃったし、誉は今どこにいるの?」
「あ、僕も弘明と同じコンビニ」
そう言いながら、コンビニでコーラ一本を買って出ていくところだけど。
レジ対応には、別の店員が対応していた。
年齢的に四十代のおばさん明らかな主婦だ。
どうやらこの時間帯のシフトリーダーらしい。
「そっか、じゃあ弘明と一緒にいたのね。あたしは今、家にいるのよ」
「まあ、そうなるな。大体結衣は家でなにしていたんだよ?」
「昼寝よ。昨日は寝るのが遅かったから」
「ナツと長電話していたんだろ」
「あら、よく知っているわね」
ヴァルキリアの結衣は、驚いたリアクションを見せた。
僕は朝にナツにメールを送った。
夕方にナツからメールがかえってきた。
『ありがと、誉さん。昨日結衣と長電話して眠かっただけ。
いろいろ結衣には相談に乗ってもらえたから、もう大丈夫』と返事が返ってきた。
棗はただの寝不足だけみたいで、少し引っかかったけど一安心していた。
彼女はもうたまだんの時みたいに一緒にいない。これ以上関わるのはよくない。
「大体何で電話なんか?メールで済ませばいいじゃないか」
「メール?何言っているの?電話することに意味があるのよ」
「なんで?」
「だって、いろいろあるじゃない。学校でムカついたこととか。
面白いこととか、ファッションとか、あとお気に入りのゲームね」
ヴァルキリアが話すと、やはりいまどきの女子だ。
こんなひどいゲームをしていても結衣は、やっぱり普通の女の子なんだ。
「好きな人とかも?」
「……それは内緒」
「なんだよ」
「いいじゃん、あたしだって。誉、あたしもコンビニとうちゃ~く。どこ?」
「僕はもういないよ」
いつの間にか僕は、マンションへと戻っていた。
買っていたコーラのペットボトル片手に、マンションのエレベーターの中だ。
「なによそれ、騙したわね!」
なぜか結衣は不機嫌な声で言い返していた。
結衣の不機嫌を僕はやっぱり理解できなかった。




