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ドラゴンプラネット  作者: 葉月 優奈
七話:小さな恋の話
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通り魔の影響で朝ではなく昼からの学校を僕は無難に過ごす……予定だった。

授業の最後が普段と違って、三時間遅れの夕方六時を過ぎていた。

それでも夏至を過ぎた今日は、六時でも明るい。

だけど教室に残っていた僕はやることがあった。

それは三時の休み時間に起きたのだ。


――いつも通り二年生の僕の教室。

クラスメイトとは、当たり障りのない関係を持っていた僕。目立つ方でもないが干されてもいない。

僕は平和主義で、周りとは波風を立てない主義。

『平均的』という言葉が僕のクラスに対する考え方だ。

だからコミュニケーションを取らないわけではない。


そんな僕の平穏なクラスの立ち位置が最近、ある人物の登場でおびやかされていた。

それは、間もなく聞こえたこの声の主。


「野高谷!」

教室で僕を呼ぶ大きな声がした。クラスでは一斉にその声の主に振り返る。

野太い声に振り返って、ため息をついた僕は椅子を立った。

声の主は僕を手招きし、僕は廊下へと誘い出された。


「生徒会長、またですか?」

僕の前にはがっちりした体の銅林生徒会長。一か月前は副会長だった人物だ。

だけど会長の死によって、会長に昇格した生徒内では一番偉いお方。

柔道二段のつわものの彼は、筋肉隆々で腕っぷしが太いのが特徴だ。


「ああ、頼みがある」

「……分かりました」

観念したように僕は、銅林生徒会長の話を聞いていた。

最近教室に現れるようになった銅林会長は、豪快に笑いながらやってきた。


「銅林会長、今日はなんですか?」

「こいつを頼もうと思って」

廊下の影でそう言いながら、銅林生徒会長は出したのは可愛らしい手紙だ。

すぐに僕はピンと来ていた。


「これを渡してほしい」

「完全なラブレター……」

「馬鹿!声が大きい」

取り乱した様子の銅林生徒会長。渡す相手を僕は知っていた。

それは僕のクラスにいる目立たない女子。

特徴といえば、いつも本を読んでいることか。


ここ一週間、毎日のように銅林生徒会長に呼ばれていた。

それは銅林生徒会長が好きな女子の調査をするためだ。

僕をいつものように呼んでは、いろいろとさせていた。


見張りをしたり、接触して情報を聞き出したり、はっきりいってスパイ感覚だ。

アジ・ダハーカも言っていたっけ、『戦争は情報戦だ』って。

アジ・ダハーカは若い執事に情報収集をさせていたが、会長は僕に情報収集をさせていた。


恋の戦争真っ只中の会長が、ようやく告白するんだ。

長いスパイ活動から解放されるとあって、僕は正直ほっとしていた。


「これを渡せばいいんですか?」

「野高谷……そうだ。だけど、それだけじゃいけない。

ちゃんと彼女の気持ちを確認して来いよ」

「でも……それなら僕じゃなく会長本人が直接言った方が……」

「そんな勇気があるわけないだろ!」

あっさり白状した大きな銅林生徒会長。

恥らっているが、大きい体なのでなんだか逆に滑稽だ。

なよなよしい銅林会長の顔は、分かりやすい程に赤くなっていたし。


「とにかく頼んだぞ、明日はちゃんと理由を聞くからな」

などとラブレターを渡されて、最後の面倒事を引き受けさせられた僕だった――


そんな僕のポケットの中にはそのラブレター。

静かな放課後の教室に、赤い夕陽が窓から差し込んでいた。

生徒がみんな帰っていく中で、意中の女子はまだ残っていた。

彼女は佐藤さんという……クラスでも成績は中の上。

佐藤さんはいつも放課後、図書館で本を借りてきては本を読んでいるらしい。

全部銅林会長の指示によるリサーチ済みだ。


こうして遠目で見ると、知的でかわいい。

僕は一つ呼吸をして彼女に近づいた。

他人の告白にちょっとだけドキドキしていたが。


「あの……佐藤」

「野高谷君?」

「これ、ラブレター」

「野高谷君が……私の事?」

「いや、とりあえず受け取ってくれないか?」

僕の役目は、銅林生徒会長の代理に過ぎない。

生徒会役員としてそれは不純な役割の気もしたが。

中間管理職は辛いということを、学生ながらに感じていた。

僕が差し出した銅林生徒会長のラブレターを見て、首を横に振った。


「それは受け取れません」

「……そっか」

僕は残念そうな顔を浮かべていた。

佐藤さんは本を閉じて座ったままで僕の顔へ見上げていた。

そんな僕は失礼かもしれないけれどあることを口にした。


「佐藤さん、一つ聞くけど好きな人とか、彼氏とかいますか?」

「います」

それは即答だった。それを聞いて僕は納得できた。

それと同時に銅林生徒会長への返事を頭の中で考え始めた。

(変なことを言ったら、柔道技のオンパレードがきそうだ)などと思いながら。


「佐藤さん……そうですか。しょうがないですね、青春ですから」

僕が話し終える頃、佐藤さんが立ち上がって僕の方に顔を近づけた。

諦め顔の僕は、いきなり近づけられて急にドキドキしてしまった。

おののいた僕は、反射的に背中を逸らしてしまう。


「佐藤……さん」

「野高谷君」

「は、はい!」

思わず声が裏返ってしまった。

一瞬だけよぎった(もしかして僕なのか?)と。

佐藤さんの眼鏡越しの目が僕をはっきりと見ていた。


「野高谷君は、A組の木田君と知り合いなんでしょ」

「えっ、木田……もしかして弘明の事?」

「うん、木田君。彼は……」

それだけで僕は理解できた。

佐藤さんが好きな人、それは弘明だった。

僕の胸のドキドキはあっという間に収まって、落ち着くことができた。

眼鏡女子の佐藤さんは、僕を羨望の目で見ていた。


「野高谷君、木田君には好きな人いるの……かな」

「うーん、昔は好きな人がいたけど。今は……どうだったかな?」

晴海のことを思い出しては心が痛んだ。

弘明が好きな人は、僕の彼女だった人だから。

だけど結衣がそれらしいことを言っていたような気もしたな。

詳しいことはよくわからないけど。

それを察したのか、佐藤さんが辛そうな顔を見せていた。


「そう……ですか……」

「でもでも、今はいない……んじゃないかな」

「ねえ、聞いてみてくれる?」

「えっ、それって」

「お願い!難しいのは分かっているけど」

女性らしい佐藤さんが真っ直ぐに迫ってきて、僕は断れなかった。

つくづく僕は損な性格なのかもしれない。平和というのはなかなか訪れそうもない。

そんな自分の意志の弱さを呪いながら、彼女の誠意に負けていた僕は「はい」とつぶやいた。


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